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岩手釜石の高校生に、将来について考えてもらう講座の講師をしたときに考えたこと

2019年10月、職場の先輩(Nさん)に紹介していただき、地元高校生の進路支援活動であるKamaishiコンパスに講師として参加してきました。ひらたく言うと、同じくかつて情報に乏しいローカルな高校生だった自分たちが、どう考え、どう行動し今の職(デザイナー)に至るのか、みたいな話をしました。

自分は講師なんてガラでは全くないのですが、Nさんの母校で行われるというご縁から、自分にとっても良い体験ができたので文章にしておきたいと思い、考えをまとめました。

Kamaishiコンパス とは?

岩手県釜石市が主催する高校生向けのキャリア支援事業、ということで、釜石市内の県立高校で全国から集まった社会人講師が高校生に生き方を考える講座を開くというイベントです。講師は地元の社会人が多めですが、Kamaishiコンパスの事務局の人脈から地域外の人も来ていました(私もその一人)。

遡ると2011年の東日本大震災では、釜石市も甚大な被害を受けた地区です。その復興の過程で、県外からの支援者が多く出入りするようになり、その延長線上で県外の人も含めた講師陣での若い人へのキャリア教育も始まったようです。

講座は1年に2回、1回の開催で1学年に対して10以上設けられ、高校生たちは事前に講師の属性と講義のタイトルを見て選択して来てくれます。1講座の上限以上の人気があれば抽選、少なければ第2希望、第3希望の講座を受講する形式でした。

なぜ引き受けたのか

話を受けたときは、「私、岩手県に上陸すること自体初めてなんですが、先輩でもないのに高校生に講義なんかしていいんですかね…?」という気持ち。でも他人事じゃない感じもしました。なぜなら、自分も岐阜という地方出身者だったからです。大学から関東に出ましたが、18歳までは田舎ぐらし。極めて情報が乏しい地方で、東京に出て働くまでどんな情報を得て思考と過程を経たのか、もし知りたいという人がいれば力になれるんじゃないかと思いました。これは、東京生まれ東京育ちには話せない強みです(って書くと東京育ちのデザイナーと張り合ってる感じになっちゃうけど…でもそれくらい地方育ちがデザイナーとして生きていくには現状においても大きなハンデがあるとも思う)。

なにを話したか

まずは自己紹介から。いつもの「すっごい田舎の育ちだったけど東京でデザイナーしてます」「子供育てながら働いてます」からの「なんでデザイナーを選んだのか」「デザイナーになるためにどんな行動をとったのか」「その後も出産育児でキャリアを失いそうになったけど転職できて両立が叶いました」といった経緯を話しました。Nさんも近い(とはいえ私よりもっと幅の広い経験をされていますが!)境遇で、2人分話しました。

次に本題である「カード」の話をしました。自分がキャリアを進めていくとき一貫して大事にしていたのが「今自分が持ってるカード(=強み)を有効活用する」という点でした。

自分の話をすれば、
・高校のときは美術展で獲得したある賞をカードにして大学入試を推薦合格
・就活では出身大学をカードにしてメーカー内定
・最初の会社で得たデザインのスキルをカードにして1回目の転職
・子供が生まれて育休から復帰したときは子持ちであることをカードに幼児向けの学習アプリをデザイン
・2社めで一緒に働いていた方々との人脈というカード+車の運転が好きというカードを活かしカーナビアプリのデザイナーとして転職

と進んできました。
それまでの人生が良くも悪くもその後のキャリアを作ってしまう。それを意識してカードを増やしたり、武器にしていこうね、という内容です。

「カード」というメソッドにこだわったのにも訳があって、カードゲームにおけるカードというのは、増やしたり強くしたり組み合わせて切り札にしたり、キャリア構築に似ていてイメージしやすいかなと思ったからです。

カードの話をしたあとは、受講してくれた高校生に実際にカード用紙を渡して自分のカードを書いてみてもらいました。自分自身がカードを実際に書いたことはないですが、話した内容を1度でも自分ごととして考えてほしかったので、ちょっとワークショップ形式に…。まだ高校生なのでたくさん書けなくて当たり前だけれど、それを意識して今後の勉強や仕事をしていけるといいね、ということで締めました。

1時間弱の講義の最後に感想を書いた付箋を書いてもらうというフィードバックがいただけるのですが、概ね「勉強になりました」「すごいなと思いました」という素朴な感想で、悪くはないのですが悪く思っても悪くは書かないだろうので、本音はすごくわかりにくかったです(笑)。この年代なので仕方がないですね。でも話の趣旨は伝わった感じのリアクションはいただけたので、大人になる途中でふと思い出してなにか感じてくれたらいいなぁ、と思っています。

話してみて、思ってたんと違ったところ

Nさんと帰りの釜石線で話したのが、「東京でデザイナーとして働く」「子持ちでフルタイムで働く」というのが彼らにどれだけ魅力的に映ったかは微妙だったね、という点。

私なんかは東京に価値と愛着を感じすぎていて、何が何でも東京!東京以外で死ぬもんか!という執着心で生きてきたくらいだけれど、釜石の高校生にとって、地元で無難に就職して地元で家族を作って…というのが王道のよう。確かに、岐阜の同級生も留学する子が多いクラスではあったけれど就職や結婚・子育ては地元で親の力も借りつつ暮らしたほうが安心だよね、という雰囲気がありました(親が地元に残れと言うパターンもあり)。今はインスタとかで都市部の暮らしが昔よりつぶさに分かるようになって結構憧れてる子もいるんじゃないの?とも思っていたのだけれど、釜石の女子高校生はインスタグラムはそんなに…という感じだった。だから、「すごいなと思いました」みたいな一歩引いた感想が出てくる。そうだよね、東京で生きるばかりが地方ティーンの望みじゃないんだ、社会としてもそのほうが地方活性にはいいのか…?と、自分としても見えていなかった視野が開けた感じがしました。

ただそうすると、カードの話自体は間違ってはいないけれど、前提として「憧れの姿」がないまま講義を進めてしまったのは一足飛びだったな、という反省点もありました。東京のIT企業で子供を育てながらフルタイムでバリバリ働いてる人から話が聞ける!かっこいい!そんなんなりたい!どうやったん?みたいな、話を聞くためのモチベーションが欠落していたというか。理想がないままカードなんか切れないし、どこの誰に切るのかもわからない。今度こういう機会があるなら、まず「こんな世界があるんだ!」という感動経験と憧れを持ってから話をするべきですね。私がキラキラしながら東京風吹かせればよかったのかもしれないけれど、ちょっとキャラ的に無理そうなのと、1時間の枠で終わらなそうなところが難点です(ゝω・;)

話を少し戻すと、地方で生きていく判断はよいとしても、地方と都市部の両方に住んだことがある身としては、その格差は昔も今も本当に、本当に大きいなと思います。収入の格差が統計上一番わかりやすいですが、それが結果として出るまでの情報格差、環境の格差、意識(特に向上心)の格差も大きいと思います。憧れる姿を見たことがない、持てないことで現状維持をよしとする考えが蔓延するのは、一時的な心地は良いかもしれません。でもこの格差が広がって、アメリカみたいに貧富で国を2分してしまうんじゃないかという恐れすら感じます。※この記事↓を読むと特に。

正直なところ、自分が高校生の頃までに見てきた「地元」には目標にしたいものがほとんどなく、自分で道を切り開こうとしない割に不遇を人の所為にしがちな人を多く見かけたのでした。もし、そんな世界しか知らないのであればもったいない話です。もっとフラットに見れば、地方だとか東京だとかは案外どうでもいいのかもしれませんが(東京でも向上心ゼロの人はいっぱいいるし)、でもでもやっぱり地方の方がこの引力が強いのです…

そういうわけで、高校生たちにコンタクトできたのは貴重ないい機会だったなと思います。今回の講義ではおそらく憧れるイメージまで持ってもらうことはできなかったけれど、この先彼らがどこで暮らしていこうとも、自分にとっての憧れの姿を持って前に上にと道を切り開く必要が出てきたとき、今回の講義をちょーっとでも思い出してくれたら幸いです。

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