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㉙Emmanuel(エマニュエル)のこと (Les Petites Maries レ・プチ・マリのぬいぐるみ)

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↑ い、痛そう、、、ですよね(笑)

聴覚・味覚・嗅覚にうったえる天職を持った人達のことを書いてきましたので
今回は「触覚」を大切にして仕事をしていたエマニュエルのことをお話ししてみたいと思います。

私はアクセサリー中心に輸入販売していますが、
なぜか「ぬいぐるみ」も初期の頃から扱っています。

プチ・マリという1963年から続く老舗のぬいぐるみで、
これも偶然の出会いから始まりました。

もともと、ぬいぐるみを商材として探していたわけではなく、
プチ・マリのぬいぐるみの柔らかな触り心地に
それこそ、ビビビッと魅了されてしまったのです。

その直感は間違っていませんでした。
プチ・マリのぬいぐるみは、
所謂、幼児のための玩具としてだけでなく
むしろ大人が自分の癒しの為に購入していく、
ロングセラーになっています。


起業当時、大量生産でなく、職人の手仕事で思いを込めて制作された、
長く愛される、今でいう「エシカルな」商品を扱いたいと思い、
パリの街をよく歩いていました。

もちろん、世界中のバイヤーが集まるパリのメゾン・エ・オブジェ
プルミエ・クラスなどの催事にも市場調査を兼ねて顔をだしてはいましたが、
街角の職人が家内工業で制作している他にはないものも
世界観を出すために取り入れたかったのです。

そんな中、パリの友人が日頃から着目していて、
連れて行ってくれたのが
サン・ジェルマン・デ・プレの子供服のお店。

マダムが、デザインから縫製も一貫してオーガナイズしていた
いかにもパリらしい品揃えでした。

個人経営の個性あふれるお店がだんだん少くなってきて、
どの街でも同じようなお店が多く、さみしい限りですが、
ご多分に洩れず、
そのマダムのお店もチェーン店に居抜きで譲り、現存していません。

その時、私は訪問の目的だった子供服には、
「商材としては」、それほど心を動かされませんでした。
ところが、ディスプレイ兼商品として飾られていたプチ・マリのぬいぐるみの
愛くるしさといい、柔らかい感触といい、まさに一目惚れ!

すぐさまコンタクトして
当時ロワールにあったパリから電車で1時間半ほどのプチ・マリ本社に行きました。

冒頭の写真は当時のプチ・マリの本社のものです。
このディスプレイは、可哀そうすぎて、私にはできません(笑)

ちょっと話はそれますが、

私は商材を扱う取引先はほとんどが小規模事業者なので、
かならず制作現場を訪れます。

アトリエや、その制作現場であるご自宅を拝見すると
制作姿勢はもちろん、信頼してよい相手かどうか、今後の(当方との)拡張性等々
おのずと透けてみえてくるからです。


最初の取り決めから、その後は日本とフランスと遠隔で取引する以上
非常に大切なステップだと考えています。
そこでの判断はほぼ100%外れたことがありません。

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話を戻しますと、、、


両親が設立した会社の2代目社長であったエマニュエルは
両親のエスプリを大切に引き継ぎ、数人のスタッフのみで
デザイナーやマーケティング・営業担当・縫製職人とのやりとり全て
孤軍奮闘、経営していました。

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テディベアで有名なドイツのシュタイフほどではありませんが、
プチ・マリの商品の質の良さはフランス国内でも認知されていて、
プラザ・アテネやホテル・ブリストルのノベルティを制作したり、
テレビ番組のキャラクターを作ったり、
個性あふれるぬいぐるみ達はまさにフランスらしい品の良さで人気を博していました。

が、数年前、エマニュエルは
自身の引退に伴って、息子さんには本人の意思を尊重して引き継がせることもなく
大手の会社に事業売却してしまいました。

プチ・マリ自体は現在も存続していて一応取引先にはなっていますが、
私が彼と色や表情にこだわってコラボ・オリジナル作品を作ったり、
パリもしくは彼の会社のあるロワールで商談したりというようなお付き合いは
残念ながら今はなくなってしまっています。


エマニュエルが何より大事にしていたのは
ぬいぐるみの触り心地でした。

その柔らかい癒される触り心地の為には、必要不可欠の生地がありました。
いくつかあった生地の仕入れ先のフランスの会社の一つが倒産し、
事業が韓国の会社に機械ごと売られ、
はたまた、そこも潰れ
機械の行方もわからなくなり、、、

理由はそれだけではありませんが、
少人数でこだわりのぬいぐるみを作っていく老舗プチ・マリ号という名の舟は
時代の荒波を自力のみで超えてはいけませんでした。

エマニュエルも相当葛藤していたようですが、
会社を売って、1ディレクターとなり、さらに引退してからは
ほっとした顔をしていました。

引退したら釣り三昧の日々を送ると言っていたけれど、
今頃どうしているでしょうか。


触覚は人間の感情に一番訴える原始的な感覚と言われています。
「第二の脳」と言われることもあり、「心は皮膚にある」と唱えている心理学者もいます。

アニマル・セラピーならぬ「ぬいぐるみセラピー」という心理療法もあるくらいですから、
優しい触り心地や「抱きしめた時の満たされていく感覚」は、

決して子供だけでなく、老若男女皆の癒しとなっているのを
実際、ぬいぐるみに触れた時のお客様の表情を見ていて感じます。


ただ商品を販売するだけでなく、
なにか気持ちを添えることができ、
手にした人の日常にぬくもりを届けられたら、と思っていた私には、
触り心地にこだわり続けたエマニュエルのぬいぐるみの紹介役となれたのは、
非常に幸運なことでした。


写真は、コラボ・オリジナルのオッド・アイ(左右の目の色が異なる)の黒猫用の生地をやっと見つけて
ちょうど到着し、満面の笑みのエマニュエル。

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Bonjour Hideko

J'ai été très content de travailler avec toi.
Je te souhaite beaucoup de réussite dans ton travail.

Cordialement,
Emmanuel

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