草食系男子に教えられたこと (410字) 〜毎週ショートショートnote参加作品〜
「ルミ、また別れたの?」
社食で同期のサクラの問いかけに頷く私。
「うーん、ルミみたいな肉食系には草食系のほうがいいんじゃない?たとえば……」
サクラの視線の先には、窓際でパンを貪る後輩の田中。おいおい、田中なんて眼中にないっつーの――。
ところが、なぜかその後から田中の姿が妙に目につく。オフィス、駅前、帰りのホーム……とにかく私の視界に田中がいるのだ。え、私、もしかして意識しちゃってる……?
そんなことを考えていたら白線をはみ出していたみたい。響く電車の警笛。
「あぶない!」
腕を掴まれ引き寄せられる……田中だ。
「あ、ありがと」
「先輩、コイツ草食系のくせに大胆って思ったでしょ?実は僕……」
急に違う方向から声……田中だ。
「草食系男子じゃなく……」
また違う方向から声……田中だ。
「増殖系男子なんです」
三人の田中が一斉に言った。
私は声にならない声を上げ電車に逃げ込んだ。乗客達が怪訝そうにこちらを見ている。
その顔は全員……田中だ。
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