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噛ませ犬ごはん (410字) 〜毎週ショートショートnote参加作品〜

「つまり、最初から勝敗は決まっている、と?」

「……そうです」

開店前の店のテーブルで、ディレクターは一瞬間をおいてそう答えた。

『ごはんの達人』。毎週、様々な料理人が「達人」と呼ばれるレジェンドと料理で対決する人気番組だ。

独立して自分のフレンチの店を持って2年。細々とやってきたが、正直言って経営は苦しい。そんな折に舞い込んだ番組出演の話。これはビッグチャンスだ。しかし……。

「私も料理人の端くれ、負けが決まっている中で料理を作るのは……」

「視聴者は強い達人を求めています。もちろん僅差で惜しくも、という展開にしますから」

ディレクターが悪びれもせず言い放つ。出演は一旦保留にしてもらった。

私にもプライドがある。店の味にも自信がある。おいしい料理を作る、それが私の使命だ――。


「勝者、達人!」

悔しそうに顔を歪める自分をオンエアで観る。我ながら名演技だ。早速、店の電話が鳴った。

「おいしい」は、味の話だけではないはずだ、きっと。

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