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アラフォーのしがないサラリーマンが文学賞で大賞を獲る話

こんにちは、makihide00と申します。アラフォーのサラリーマンです。

このたび「第8回 54字の文学賞」で、なんと大賞をいただきました!

別にまとめる必要もないんですが、いい記念なのでこれまでの歩みをまとめてみようかと思い、書き始めたら思わぬ長文になりました(笑)。半分自分の忘備録的な内容ですが、ご興味があればお読みいただければと思います。

駄目な僕

2019年2月9日。

この日、小倉競馬開幕でテンションの上がった私はいろんなレースに手を出してしまい、結果、大敗を喫した。負けを取り戻そうとして穴を狙い、さらに負けが込むという王道のパターンであった。

冬競馬の重賞もない日にいったい何をやっているのか。こんなことではいつか資金も尽きる。30代後半、安月給で妻1人子供2人を養う身。なにかお金のかからない趣味を見つけなければならない……。

年に数回襲い来る堂々巡りの夜。気分は灰色。いつもなら「でも明日はきっと……」なんて根拠のない期待を胸に翌日もラジオNIKKEIに耳を傾けているところだが、この日はなぜか違った。

創作……そうだ、創作ならお金はかからない。随分前に長文ブログを垂れ流していた頃は、筆がのった時は寝食を忘れて没頭していたではないか。

余計なレースを予想購入する時間を創作にあてれば、きっと心が豊かになるし、ひいては懐も豊かになるに違いない!(←そもそも競馬をやめようという発想はない)

そんなこんなで脳裏にふと浮かんだのが、たまたまテレビで目にしたことがあった「54字の物語」。こういう短い文章なら自分でも気軽に書けるのではないか……?

その後、ジェネレーターの使い方に四苦八苦しながら、思いついた54字の物語を1本、Twitterに投稿した。

それだけのこと。はじまりは、たったそれだけのことだった。

進撃の中年

私はいつだって、自分に自信のない男だ。しかし、おだてられるとすぐ調子に乗る男でもある。

当時、自分のTwitterのフォロワー数はひと桁だった。当然反応などあるわけもない……のはわかりつつも、やはり期待してしまうのが人のサガ。通知がこないか、スマホを気にしている自分がいた。しかしまったく通知は来ない。やはりこんなど素人が書いた物語なんて、誰も読んでくれないよなぁ……。少しがっかりしながら、その日は床についた。

翌朝起きると、いいねが1つだけきていた。毎日54字を投稿している方からだった。不思議なもので、そのたった1つのいいねに背中を押された気がした。書いていいんだぞ、と。

それから、思いつくままに数時間おきに新しい物語を投稿した。初めていいねが5つついた時はとても嬉しく、さらに創作意欲を掻き立てられた。気づけばそんなことを10日くらい続けていた。

ここまできたら、いつかバズるまで毎日書き続けてみよう。1日でも途切れさせたら、なんだかもったいない。

そうやって書き続けていると人の目にとまることも増えるようで、フォロワーさんもそこそこ増えてきた。そして、徐々に賑やかになっていくタイムラインで様々な公募の存在を知る。

私はいつだって、自分に自信のない男だ。しかし、祭りには極力参加したい男でもある。

キャッチコピーに川柳……いろいろ乗っかって応募してみた。そして運よく受賞する機会があり、それでまたフォロワーさんが増えていった。リプ等で交流する機会も格段に増えた。

そこでのご縁で、電子書籍に自分の書いたショートショートを載せていただくことにもなった。ここまで54字の初投稿から約半年。まさかそんなことになるとはまったく想定だにしていなかった。

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そして、殿になる

そのベリショーズに参加する少し前に、54字の物語で「しばり」なる企画が偶然発生した。要は1日限定で同じお題でとにかく54字をたくさん書くという企画なのだが、なぜか途中から戦国時代の設定となり「殿」と呼ばれはじめた。54字で何の実績もまだない自分がである。内心「おいおい」と思った。

私はいつだって、自分に自信のない男だ。しかし、フリには可能な限り応える男でもある。

精一杯のサムライ口調でリブを返す。なぜか軍師や忍びといった役割のフォロワーさんも誕生し、その城には「緊縛城」という名がついた。

しばり企画は思った以上の拡がりを見せ、いまや常時40人近くが参加する一大イベントとなった。いやはや、まさかここまでになるとは……。

その中で私も54字の毎日投稿をコツコツと続けていた。正直なところ、途中2度ほどもうやめようと思った時があった。

1度目は「Zoo事件」である(たった今、事件の名前をつけた)。

自分が初めて参加した54字の文学賞のお題は「動物」。毎日投稿していたし、しばり企画もあったので、おそらく結果的に150本近く出したと思う。

受賞できなかったことは全然問題ではない。その後優秀作が集められ出版された本に1本も載らなかったこと。これがかなり堪えた。

仮にも殿と呼ばれ、全体の中でも1,2を争うくらいの応募数で1本も載らない……フォロワーさんはほとんどみんな載っているのに……。もはやモチベーションはどん底である。だが、優しいフォロワーの皆さんの温かい励ましによって、なんとか持ち直すことができた。

2度目は700本目前後だっただろうか。単純にいってマンネリ感とネタの枯渇によるものである。あのパターンも書いた、このパターンも書いたとなり、
まったくネタが浮かばなくなった。ストックはなくなり、寝る前に翌朝の分を考えながら寝落ちし、朝起きて苦し紛れに作った物語を投稿するような日々だった。

物語の質の低下は自分でも明らかで、無理やり毎日続けるよりはいっそ終わらせたほうが……と思うようになっていた。

そんな折「54字の百物語」に拙作が掲載されるという一報がもたらされた。しかも……7本も。これまで、いいねの数で察するに評判のよかった物語は何本かあった。しかし、書籍化されるというのは公式に一定の評価を得たということ。これは嬉しかった。個人的に「Zoo事件」のリベンジにもなった。そして800本目で皆さんに掲載の報告をした時、心の中で決めた。

1000本目までは何としてでも毎日投稿を続ける。あと200本は物語の質にもこだわる、と。

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おもしろおじさんでいい

終わりを決めた途端、精神的に楽になった。それがよかったのか、自分でも手ごたえのある物語をふたたび書けるようになってきた。

第7回の文学賞では「東北地方賞」に選んでいただいた。54字では初の受賞。これもうれしい出来事だった。流れは来ている。よし!次回の文学賞では念願の大賞を!

……なんてことはみじんも考えなかった。

私はいつだって、自分に自信のない男だ。そして、野心などほとんどない男でもある、

ダジャレや大人向けの話の多い自分の作風では、大賞なんてとれるわけがない。少しでも自分の書いた物語で皆が楽しんでもらえればそれでいい、そう考えていた。

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その先へ

2021年1月18日。

足掛け2年弱に及ぶ54字毎日投稿は、1000本到達をもって予定通り終わりをむかえた。1000本目の投稿へのいいねの数は100を超え、リプも多数いただいた。氏田さんからリプをいただいたのはビッグサプライズだった。

最初に投稿した物語には、いいねが1つしかつかなかった。それが2年弱でこんなに大勢の皆さんに反応をいただけるようになったこと、純粋に感動したし、やり遂げた自分自身を少しだけ褒めてやりたい気持ちにもなった。

だが、毎日投稿を終えたとはいえ「殿」としての役割は残っている。相変わらずしばり企画を時々おこない、時々思いついた物語を投稿し、お題「ハッピーエンドの物語」の文学賞は終わった。

ある日、仕事で何時間か現場に入っていたら、いつの間にかスマホの電源が落ちていた。さすがにもうバッテリーも限界か。思えばもう2年以上使っている。(そう考えると、すべての54字の物語はこのスマホで書いてきたのだなぁ)

車に戻り、充電しながら電源を入れる。Twitterを開くとDMが届いていた。

あんたが大賞

DMを開いて「大賞」という文字を見た瞬間、なぜだかわからないが、自分でも驚くほど冷静だった。それはきっとすぐに実感が湧かなかったからと、受賞なんてまったく考えていなかったからの両方だろう。

それでも、帰路につきながらじわじわと喜びが溢れてきた。早く皆に報告したかった。だが、1週間後の公式発表までは漏らせない。非常にそわそわした日々を過ごした。

そして、発表。たくさんの方に祝福の言葉をいただいた。本当にありがたかった。まるで自分のことのように喜んでくれる緊縛城の面々。「人は城、人は石垣、人は堀……」という武田信玄の名言が思い浮かんだ。私は、「殿」は本当に、人に恵まれた。

結局、人が審査する以上、100人いれば100通りの結果がある。たまたま今回は自分の作品が審査員の好みにハマったというだけで、大賞に選ばれたからといって、おごり高ぶる気持ちはない。「ついに天下とったり!」とか、「第8回大賞の者だけど、今夜食事でもどうかな?……だけど、君の魅力は54字ぽっちじゃおさまんないぜベイベ」などとマウントかますつもりもない(2番目はただの変態やで)。

大賞に選ばれたことはもちろん名誉なこと。だが、それ以上に自分の作品がより多くの人に届き、多くの人が祝福してくれる、その状況こそ受賞の一番の喜びではないかと思うのである。

今まで自分の書いた54字を読んでいただいた全ての方に感謝を伝えたいが、特にと言われれば、やはり最初の投稿に唯一のいいねを押してくれたあの方に感謝したい。あのいいねがなければ、ここまで絶対にこれなかった。私の30代後半は、きっと灰色のままだった。なにかの形で今回の受賞の知らせが届いていてくれればうれしく思う。

私は相変わらず、自分に自信のない男だ。しかし、自信があろうとなかろうと、自分がおもしろいと思ったならとりあえずやってみたほうが、きっと楽しい。

今もなお競馬は負けているし、仕事でも家庭でもうだつがあがらないし、ダメダメな毎日だけど、でも、今回の受賞で自分の心にひとつかけがえのないものを刻めた気がする。

もうすぐ40歳。かつての退屈な日々からすれば、まるで魔法にでもかけられたかのような30代後半のシンデレラストーリー。

だけどこの魔法は、てっぺんすぎても、まだきっととけない。


※おまけ【自薦54字3選】

タイトル「結婚」……通算4本目。これは公開した当時、バズると思ってました(笑)


タイトル「かなしばり」……通算576本目。これに少し添削の入ったバージョンが「ミラクル9」でクイズとして出題されました!カズレーザーさんの「いい問題ですね」のコメントでもう飯何杯でも……(笑)「54字の百物語」でも読めます!


タイトル「恋したっていいじゃない」……通算823本目。児童書に載るわけないっつーの(でも好き)。たぶんこういう物語が一番自分らしいんじゃないかと思って選びました(笑)


ちなみに、Twitter上でモーメントに全部まとめておりますので、今までの54字すべてまとめ読みできます!(誰が全部読むんや)

https://twitter.com/i/events/1107634836343144448



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