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67.現代を生きる語り部たちの頂上会議(サミット)

「平家物語」とキルギスの「マナス」、アルタイの「カイ」を一堂に会してみたい。現代を生きる語り部たちの頂上会議(サミット)ができないものか。もちろん物語と英雄叙事詩の違いもあり、もともと性格が違うのだが、ぼくはこの耳で音として芸能としての発声に注目しながら、出会いによる気づきを求めたいと思ったのだ。「平家物語」は1240年頃に成立したのではないかとのことだが、「マナス」は7世紀なのか15世紀なのか、成立年ははっきりしない。「マナス」は15万語という長大な詩であるから、大胆にいうとおおむね近い時代の話ではないかとも思っている。
 2020年1月18日に渋谷の公園通りクラシックスで「いにしえと未来が夕闇に溶ける瞬間(とき)」と題して、試演会を催した。久保田 晶子さんの「平家物語」の琵琶語りに、パーカッションやテルミンの音を加えてのコラボレーションだ。出演は、アルジャンスー (巻上公一 声、尺八、テルミン  佐藤正治 ドラムス、パーカッション) 久保田 晶子 語り、琵琶、ウメトバエワ・カリマン コムズ、口琴である。
 その響きは、とても魅力的で、3月の交流に向けて手応えを感じていた。
 さて、今回の交流の大きな目的は、こうだ。
 アジア北方の遊牧民が信じているとされている創造神「テングリ」の思想を軸として、伝統と再生、音楽と口承文学、そして日本と北方アジアとの文化的な交流を図り、広くユーラシアの音楽を見直し、新たな発見と発展につなげたい。現在アセアン諸国との交流が深まる反面、ロシア連邦からCIS諸国の交流に弱まりを感じる。文化圏として非常に重要であるので、より強固な関係が必要である。数年にわたるプロジェクトを意識し、北方アジアと日本の大きな交流の輪を築きたい。
 ところがである。2月に入って、武漢からはじまった新型コロナウイルス感染症 (COVID-1)が、次第にアジア全体に広がりつつあり、後半に入っても収束するどころか、次々に世界に広がっていった。そして、キルギス共和国は、中国に国土が隣接していることもあるのだろう。3月4日付のキルギス共和国の公式サイトにおいて「特定の国(中国,イラン, 日本,韓国,イタリア)の国民に対するキルギスへの一時的な入国制限」を発表した。
 それによって、われわれのチームは、まずキルギスで既に決まっていたキルギス中央テレビとの共同制作コンサートを諦めねばならなかった。Bakyt Chytyrbaev(伝統楽器kyl-kyjak演奏家) とNamazbek Uraliev(Lute Komuz演奏家)との共演。マナスチ(語り部)のSamat Kochorbaevは、以前カルムキアの語り部フェスティバル以来の邂逅に期待をしていた。
 そして、ヨーロッパにCOVID-1が広がりつつ中、ロシアは意外にも冷静な対応で、中国人は早々に入国制限していたが、日本人にはまったく制限が加わる様子がなかった。
 アルジャンスーのふたり、巻上公一と佐藤正治は、共通で参加しているヒカシューのエストニア公演のために、早めに出発することになった。


巻上公一

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