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2021/8/2 娘とは違う私、私とは違う娘

子どもを育てる中で時折ハッとするのは、自分の経験に基づく先入観。

人生を振り返って最もラッキーだったこと、それは父親の仕事の関係でイギリスとアメリカに1年づつ暮らす機会を得たことだ。だから娘にも、英語圏で暮らす経験をぜひプレゼントしたいと思っていた。

今勤めている会社の本社はアメリカにある。難易度は高いけれど、異動を希望することはできる。それが無理でも、たとえば1年間、WFHを活用し、一定期間、子を現地校に通わせるというプランも悪くはない。私がアメリカに住んだ小1をターゲットに、考えてみてもいいのかも。そう思った。

ところが計画を打ち明けたところ、パートナーの彼は全く違う見解を持っていた。人と打ち解けるのに時間がかかるうちの子にとって、環境が激変するのは負担じゃないかということ。
そういえば確かに、同じ時期に渡米したうちの弟は半年間、毎日泣きながら幼稚園に通い、馴染んだ頃に帰国。帰国後も新しい人間関係を作ることに私よりずっと時間がかかった。そう、私にとって最高にポジティブな経験も、立場が変われば全く別の意味を持つことを、時々忘れてしまいそうになる。

そこからあっさり、今のうちの子に最適なのは安定した環境を継続させることだという結論にいたり、子が産まれてからずっと頭の片隅にあった幼稚園からの小学校受験という選択肢に、No Go のフラグをたてた。

さて、ではどんな育て方、暮らし方を?と考えた時に、ずっと昔に読んだ山田詠美のエッセイの一節が頭に浮かんだ。

夜、雨戸を閉めるために、下の妹が窓を開けた。そして、彼女はくんくんと鼻を鳴らして叫んだ。
「うーん、いい匂い!」
「えっ?なーに!?なーに!?」
窓辺に殺到する家族全員である。
「春の匂いがするんだよ。あー、いい匂い。この季節の匂いだよね。あー、たまんない、くんくんくん」
ここで普通は、一同解散する。ところがポンちゃん(※1)のおうちの人たちは、窓から一斉に首を出して、落ちそうになりながら、くんくんと鼻を鳴らすのである。

山田詠美「熱血ポンちゃんが行く!」
※1 ポンちゃんとは山田詠美の愛称のこと

仲が悪い訳ではないけれど特別いい訳でもない家で育った私は、山田詠美さんのご実家に憧れた。そして山田詠美さんの感性は、こういう豊かな家族体験が育んだのもあるよなあと羨ましくも思ったのだ。

ただ、まてよ。これもまた、「私の理想」であって、「娘の理想」ではない。そもそも春の匂い、なんて曖昧な表現を、ガチ理系の彼は気に入らないだろうし。

娘とは違う私、私とは違う娘。

口にするのは簡単だけど、まだ腑に落ちてはいない模様。精進したい。


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