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「シブヤのサカイメ」②松見坂交差点

学生の頃に憧れた場所、といえば、ダントツで西郷山公園のそばだった。特に公園の横に接していてガラス張りの出窓がある、煉瓦の外装のマンションがお気に入りで、公園のベンチに腰掛けてそのマンションを眺めては、いつかあんなところに住めたらいい、と願をかけるような気持ちでいた。

それから20年ばかり経ち、公園がある丘をくだったあたりであれば候補になるような、そんな予算感で家を探すようになった。その辺りは付近の小学校の評判もよく、子の習い事のバリエーションも多く、他にも菅刈公園という大きな公園がある。スーパー銭湯つきのスポーツジムや、食料品の品ぞろえが豊富なドン・キホーテまである。
だから、付近の新築マンションの内見に行くことになった時、学生の頃の夢を思い出した。そして本当に気に入ったら、引っ越しちゃうかも?夢が叶っちゃうかも?と胸を膨らませた。

結論、残っている部屋はそこまで気に入らなかった。まあ、だけどいつかは、なんてパートナーと話しながら、あたりを少し自転車で散策。前職の同僚が住んでいた家が菅刈公園のすぐ近くで、広々としたキッチンにバーベキューができる、とても素敵なテラスがついていて。いつかこんな所に住みたい、と、彼主催のバーベキューパーティの日に思ったのだった。あの部屋、中古だったらいくらだろう?築年数がそこそこだったから案外手が出るのでは?なんて思いながら、ドン・キホーテで買い物の後、帰途についた。

渋谷に戻るにはいくつかルートがあるけれど、その日は山手通りを辿っていった。首都高が近くを走ることもあり、交通量が多い。ただその分物件の価格は安く、気軽に西郷山公園にいけるならいいかも、なんて、近くのマンションをチェック。だらだらした坂道で少し息が切れたけど、何とか自転車をおりずに上る。そして上りきって、松見坂の交差点を渡り切った時に振り返って、渋谷に帰ってきた、とそんな心持ちになった。

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松見坂交差点

松見坂の由来はちょっと面白い。江戸時代、道玄太郎という山賊がこの近辺によく出没していたそうだ。道玄が盗みのターゲットにする旅人を見つけるためにのぼった松の木を「道玄物見の松」といったそうで、そこから松見坂という地名がついたという。

渋谷で一番有名な坂、「道玄坂」も、この「道玄太郎」が出没したことが由来になっているとかいないとか。

松見坂を越え「渋谷」に戻ってきてなんだかほっとした。よそゆきの場所から普段の場所へ。ちょっとした緊張感がほどけた気がして、自転車を漕ぐ足が軽くなる。

更に気が付いたのは、思っていたよりずっと私は、渋谷に愛着がある。すっかり馴染みになった渋谷の山手通り沿いのお店~すし菊池・うなぎのいちのや・ラーメンの砦、を通りすぎ、思ったこと。それは西郷山公園の近くに住む夢は、叶わないかもしれないな、ということだ。


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