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橙(池尻大橋/中華料理)

大学4年生の時、就職活動を途中でやめ、その後フリーで働いたり派遣社員をしていた私には同期がいない。自分が当時選んだ道に後悔はないけど、「同期」は欲しかったなあと、友人から同期に纏わるエピソードを聞くたびに思う。

ただ前に働いていた会社で「同期」のような存在がいる。それが関わっていたサービスのサポートエンジニアをしていた10名弱の人たちだ。エンジニアでありながら、営業の要素も強い仕事を彼らはしていて、社内でも異色の存在で。そのせいか、一度その部門を経験した人たちは、たとえ働く時期はかぶらなくても、その「同期」のようなグループの一員になる。私は彼らたちと数か月だけ同じ部門になったこと、その部門のグループリーダーと仕事で関わることが多かったおかげで、何となくその仲間に入れてもらった。

その仲間たちと何かあるとよく行くのが、池尻大橋の橙だ。池尻、といっても駅から遠い。246通り沿いで車でのアクセスがよかったので、待ち合わせて皆でよくタクシーで移動した。
ここには「地獄谷の麻婆豆腐」というとにかく辛い麻婆豆腐がある。それをMaxの辛さにしてもらって、10人弱のその仲間たちで、分け合って食べる。美味しいか、と聞かれても何だかうんと言いづらい。ただこの辛い麻婆豆腐をみんなで半ば押し付け合いながら食べるのが、エンタメとして最高に楽しい。

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「同期」がいいのは、少々疎遠になっても、その関係が続いていくと信じられることだ。人の時間は有限で、家族ができると、しかも小さい子を育てるとなると、意図しない人間関係の断捨離を迫られることになる。「同期」なら、多少集まりに顔を出せないことが続いても、そしてひさしぶりに顔を出しても、あたたかく受け入れてもらえる、そう純粋に信じられる。

なおこの「同期」の面々、今ではほぼ全員が退社して別の会社で働いている。グループのメッセンジャーがあって、誰かが◎◎に転職した、なんて時に、自然に集まろうという声があがる。コロナが落ち着いたらまたみんなで、橙で、麻婆豆腐を食べるんだろう、その日が今からとても楽しみだ。


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