忘れられない先生
「まき子さんが、いじめにあっています。」
忘れられない先生は
小学生の頃の悲しい記憶の中にあります。
黒板の前で、
涙を流しながらクラスメイトに
訴える先生。
いじめにあっていたことが悲しいのではなくて、求めていないことをされたことが悲しかった。
クラスメイトの前で、わたしをいじめの被害者に、クラスメイトをいじめの加害者に定義されたことが悲しかった。
だからわたしは
「教師」という意味の「先生」に
いい思い出がありません。
教師、医師、作家などなど。
「先生」と呼ばれる職業は
たくさんあるけれど、
「先生」と呼ぶ職業の方で
冒頭の悲しい記憶を消してくれるような
忘れられない思い出を残してくれた方に
いまだ出会っていません。
でも、
「気づきを与えてくれた存在」という意味…「師匠」とでも言うのでしょうか、そんな人生の「先生」でしたら出会ったことがあります。
その方は、
大手企業に勤めたとか
有名大学を卒業したとか
ハイスペックな旦那がいるとか
そんなことは全然ない。
専業主婦で、
幼稚園に通う子どもを育てているお母さん。
特別変わった性格でもないし、
特別変わった趣味があるわけでもないけれど
出会った人みんなが頼りにする存在で、
忘れられない存在になってしまう人物。
どうして彼女が人々の記憶に残るのか不思議に思っていたのですが、一つ、彼女のこういう部分が人々の心に残るのかなと感じる出来事がありました。
それは
「自分に無い感情を教えてくれる」
のです。
むかし社内いじめにあっていた時、彼女に現状を話したことがあります。
「今日もわたしが担当の書類が回って来なかったんだよね」
「え〜!?マジあり得なくない!?わたしだったら耐えられない!?イライラして会社の外のゴミ箱とか蹴っちゃう!!!ってか書類回す人にブチキレるかも。でもまき子ちゃんは強く言えるタイプじゃないし、そんな会社辞めていいと思う!!マジ無い!!!!」
彼女は普段よりも大きく、高い声で、身体全体を大きく動かして怒りを表現してくれました。
わたしは自分にされたことに対して怒りの感情をあまり覚えません。
辛いことがあっても、
自分が悪い、自分のやり方や考え方が悪い、
他者は変えられないのだから…
とやり過ごしてしまうのです。
だから彼女がわたしの代わりに怒ってくれた時、
「あ、こういう時は怒っていいんだ」
と、綾波レイが笑えばいいか分からなかったのと同じような気づきがわたしにはあったのです。
「エピソード記憶」をご存知でしょうか?
記憶の種類には大きく短期記憶と長期記憶という2種類があって、文字通り長い間覚えていられる記憶を長期記憶と言います。
エピソード記憶は長期記憶の一つで、覚えたり経験したりしたこと自体に加え、その当時の自分自身の置かれた状況・感情などもセットで覚えている状態となります。
そう、
強い「感情」は記憶に残りやすい。
彼女は自分の弱い感情を増幅してくれる。
だから人々の記憶に残りやすい。
さらには怒りの感情だけでなく、楽しさや喜びや悲しみも我が身のごとく…自分以上に表現してくれるのです。
相手の代わりに感情を表現し、
相手に気づきを与えると同時に
相手の記憶に残る存在となる。
相手のことを思って感情を表現してくれるような人物なので、困った時に力を貸してくれるし、こちらも頼みやすい。
そうして誰かの忘れられない先生となる。
彼女に直接「先生」と呼びかけることはないけれど、悲しい記憶がふとした時に蘇り、心がギュッと苦しくなった時は頭の中で、ゴミ箱を思いっきり蹴飛ばす。
キラキラとゴミたちが青空を舞う。
まき子🍙子むすび屋さん(@makicome1986)
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