約束を守る

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Perch.のお手紙 #140

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彼は今年も赤いバラを一輪持って階段を上ってきた。

すきを伝えることと、約束を守ることは、似ていると思う。

アトリエのご近所に住む小さな彼と出会ったのは、3年前。

クリスマスディナーのテイクアウトのご予約に、お母さんに連れられてクリスマスイヴの夕方にやって来たのがはじめてだった。

まだ小学校に入学する前だった彼は、その日「これ、どうやって作るの?」とクリスマスチキンの作り方を私に聞いた。「明日来たときに作り方を教えてあげるね。」そう約束をした。

オーダーを受け取りに訪れた彼に、私は平仮名と絵を使って書いたクリスマスチキンのレシピをプレゼントした。前の日の約束を守ったのだ。

こどものセラピーに関わる仕事をしていた頃、大人たちがどれだけ出来ない約束をするかを見た。そしてそのことにどれだけこどもたちが傷ついているのかに触れた。


「こどもはそんなこときっと覚えていない。」という大人の言い訳を苦しくなる程目の当たりにし、どれくらいこどもたちが約束の隅々までを記憶しているかを知った。

そして本当は大人たちも、約束はうれしいことや、約束を守れなかったことに苦しんでいるのかも。

約束をする時は、慎重にする。

出来ない約束はしない。

した約束は全力で守る。


誰かと約束をすることは、その人にすきを伝えることに似ている。

人見知りで、上手にすきを伝えることができない代わりに、私は約束をする。

赤いバラと一緒にくれた今年のお手紙には


「まきち

ゃんへ

いまなにしてる?午前8.30

おべんとう?をつくってくれてありがと

う」

と描かれていた。


バレンタインデーになると階段を上って、毎年すきを伝えに来てくれる小さな彼。


久しぶりのレシピでブラウニーを焼いた。

まだほの暖かかったそれを受け取って、彼は恥ずかしそうに「熱い」と言った。


いつも考えている。したけれどまだ叶えられていない約束を。

あなたがすきだよと伝えたくて、代わりにした約束たちを。