詩「電車は知っている」
電車は束の間のパラダイス。
電車は知っている。
僕らが朝に昼に夜に、息つく間もなくぎゅうぎゅうに詰め込まれていることを。
だから電車は僕らに夢を魅せる。
ご当地のスタンプラリー、
新しい特別展覧会とソーシャルゲーム、
安い日帰りの海外旅行。
今すぐにでもほしい僕らの安寧が並んでいる。
本気を売りにするジム、
綺麗を叶える脱毛サロン、
英会話スクール、
お金と健康を守る自己啓発本、
憧れを形にしたような美しいモデルルーム。
僕らの今を肯定し、あるいは煽るような鼻面の人参。
夢いっぱいのオープンキャンパス、
成功体験に溢れた学習塾、
きらきらの未来だけ切り取った結婚準備雑誌。
若人が僕らと同じ道を歩むための教育はもう始まっている。
お金さえ投じれば、ほら僕らは“幸せ”になれる。
心が擦り切れ体が軋んでも、僕らはいつか叶うであろうそれを信じて今日も電車に乗る。
電車は知っている。
一服のお茶をどうぞと微笑みながら、最後はドアガラスの前で「転職してしまえ」と囁いてくる。
電車は知っている。
電車は束の間のパラダイス。
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