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昔の文通相手に謝りたい

初回公開date: 2015年02月14日 22時47分
※内容は初回公開時のものです。


小学生の時の文通相手のことを思い出すと、罪悪感で胸がいっぱいになる。

当時の私はいろいろなアニメにハマり始めていた時期で、新作情報が載っていたりポスター等の付録が付いているアニメ雑誌を毎月買うのが密かな楽しみだった。
その雑誌には『文通相手募集』のコーナーがあった。
インターネットなんてまだ一般的なものではなかったし、小学生で行ける場所は地元周辺だけだった当時、好きなものを語り合うことや趣味の共有はとても難しいものだった。
毎月そのコーナーはチェックしていたが、なかなか自分の趣味に合う文通相手が見つからなかった。
だったら自分で募集してみようかと何の気なしに『文通相手募集』のコーナー宛てにハガキを出してみた。

そしてそんなハガキを出したことをすっかり忘れていた数ヵ月後、「文通相手になってください!」と書かれた手紙が数通届いた。
買ってきたばかりのアニメ雑誌を見てみると、私の名前と住所がそのページに載っていた。まさか掲載されるとは思ってもいなかったので本当にびっくりした。

それからほぼ毎日のように手紙が送られてきた。
掲載されるとこんなに手紙が送られてくるんだ、雑誌に載るって本当にすごいな、と思った。
途中からその多さに対処しきれなくてお断りする手紙も何人かに書いたが、それでも常時10人くらいとは手紙のやり取りをしていたと思う。

毎日学校から帰るとポストを覗き、新しい手紙を読んでは返事を書くのが楽しみだった。
文通相手の年齢は幅広く、同じ小学生から中高校生、大学生の人もいた。
アニメのこと以外に学校生活について書いてくる人もいて、新しい世界を知ることもできた。
人によって文字の書き方も文章のテンションも違うので面白かった。
顔はわからなくても、親しい存在の友人がたくさん出来たような気分だった。

しかし、その交流はあっという間に終わりを迎えてしまう。

きっかけは我が家の厳格な祖父だ。

前々から私宛てに手紙がたくさん届くので「何か怪しいことをしているのか」と思っていたらしい。
そんなある日、その文通相手のうちの一人(大学生)からビデオが送られてきた。
私が好きなアニメのOVAだったのだが、私の家の近所ではアニメショップがないので入手できなかったと手紙に書いたところ、プレゼントしてくれたのだ。
しかし祖父はそれを見て「いかがわしいものが送られてきた!こんなものを送ってくるやつは怪しい奴だ!こんな輩とやり取りをしているのか!」と激怒してしまった。

祖父にとってみれば、毎日手紙が届くので孫が変な人とやり取りしているんじゃないかと不安だったのだろうと思う。
しかし私にとってはそれは趣味を共有している友人との交流手段であり、ビデオを送ってくれた文通相手も良かれと思って送ってくれたのである。
私がいくら説明しても聞く耳を持たず、そのビデオはおろか、これまでやり取りした文通相手すべての手紙を取り上げられ、更に今後私に送られてくる手紙は破棄すると言われてしまった。

私が学校から帰ってくる前に郵便物は届いてしまうので、家にずっといる祖父より早くポストから回収することなど到底不可能なことである。
こうして、文通相手たちの手紙は祖父の検閲にかかることになり、その日を境に私のもとへ届かなくなった。
(余談だが、某バンドのファンクラブ申込書を申し込んだときも、その返信されてきた封筒に送付者の宛名がなかったため「怪しい手紙だ!」と言われて破られたことがある)
すべての手紙を取り上げられたため、文通相手の住所もわからず、こうなった経緯の説明や謝罪の手紙も書けなかった。

祖父の機嫌が良い時に「今でも私宛ての手紙って来るの」と聞いてみたが、「何通か来ているが、中を見たらお前の悪口が書いてあったぞ」と返されたことがあり、胸がつまった。
今までやり取りしていた相手からいきなり手紙が来なくなったら心配にもなるだろうが、確かに悪口のひとつでも書きたくなるだろう。
同じ趣味を持った友人たちをそんな気持ちにさせてしまったことが申し訳なかった。

今はインターネットで同じ趣味の人と交流がすぐに出来るし、メールで簡単にやり取りも出来るようになった。
しかしなかなか同士を見つけられなかったあの頃、やむを得ない事情だったとは言え、文通相手たちと突然交流を絶ってしまったことは今でも自分の中で苦い思い出になっている。

あの文通相手の友人たちに、この場を借りて謝りたい。
そしてあの時の友人たちが、このnoteを読んでくれたらいいな、と思う。

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