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#33 カルマ -ハンピ

※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです

ハンピは文句なしに居心地の良いところだったけれど、個人的には、ずいぶんと立て続けに、ハプニングに見舞われたところでもあった。

まず最初は、ハンピで有名な川で水浴びしている象を見に行った時のこと。
これまでの約4か月間にも、泥水にハマって靴がヒドいことになったり、雨上がりの境内で転んで頭を打ったり、散々足元の弱さは思い知らされていた。だから、ここで水浴び中の象に近づく時にも、近くに居たインド人から「そこ滑るから気をつけて!」と言われた足場は、十分に注意したつもりだった。
にもかかわらず、にもかかわらず…!
大勢の見物客の真ん前で、マンガのように見事に滑って転び、大切なカメラが水没した。
もちろんすぐに救出し、ビショビショの自分の身体を気にする余裕もなく、レンズを外して電池とメモリーカードを抜いて乾かしたけれど、丸一日は、電源も入らず全く動かなかった。
完全に復活した今だから(いや、心なしか動きが鈍くなったような気がする…)、笑い話のネタにもできるけれど、この日一日は、放心して、観光する気も全く起きなかった。

次は、パリッパリのドーサが美味しいレストランにて。
南インドで人生初のドーサを食べて以来、すっかりハマって何度も食べたけれど、ハンピのこのレストランのドーサは、お皿からはみ出るデーンとした構えと、パリパリ具合がちょうど良くって、ほぼ毎日通った。このレストランに限らず、ハンピは町中(というか村中)にサルが沢山いて、よく家々の屋根やバルコニーの手すりをひょいひょいと歩き回っていた。そして、食べ物(バナナやアボカド、木になっているアーモンドまで!)を盗んだところを見つかって、棒を持った人間に追いかけられて、怒られている姿をよく見かけた。

そんな見慣れたサルではあったけれども、向こうから何かを狙った目つきで近づいてくると、ちょっと恐い。ある朝わたしが、バナナ農園を見渡せるお気に入りのバルコニーの席で、お気に入りのドーサを食べていると、一匹のサルが近づいてきたので、とっさにドーサのお皿をサッと後ろに隠した。するとヤツは、テーブルの脇に置いていたカメラのバッグに触ろうとした。もちろんそれも「あー!ダメ!!」と言って後ろに隠すと、なんと、ヤツはわたしのおでこをピッシャと思いっきりたたいて逃げて行った。サルを追い払うために駆けつけてきたお店の奥さんは、その一部始終を見ていて、笑い転げていた。復活したばかりのカメラが無事で、怪我することもなかったので、幸いではあったけれど…。

最後は、川を渡った隣のエリアに行こうとした時のこと。
ボート乗り場が、前述の象が水浴びする場所とほぼ同じところだったので、かなり慎重に気を引き締めて近づいて行った。今度また滑って転んだら、シャレにならない…と。
ハンピでは、サル以外に水牛もよく道をのそのそと歩いていた。これまでのところ、牛から襲われたことはもちろん一度もなかったので、特に警戒することなく、彼らの横を通って川べりに降りて行こうとすると、突然、左ももの後ろに鈍痛。

えっ?と思って振り返ると、一頭の水牛がそのツノでわたしの太ももを頭突きしたようだ。
近くにいたインド人が、急いで何かを叫びながら石を投げて、その水牛を追い払ってくれた。呆然とするも、歩けないほどの痛みでは無かったので、とにかく川の方に降りて行こうとすると、そのインド人が「マダム!マダーム!」と言いながら走って来た。そしてわたしの左ももを指さした。なんと、なんと!着ていたワンピースの頭突きされた箇所が、パックリと裂けていた…。後から見ると、流血こそ無かったけれど、太ももには大きな青あざができていた。

そういえば、最初に川で滑って転んだ時に助けてくれたインド人が、「カルマだよ。これで悪いカルマが水に流されたから良かったよ」と言って、なぐさめてくれた。カルマの正確な意味をわたしは理解していないけれど(実際、時代や人によって意味は異なっているらしい)、この時の彼は、”運命に影響を及ぼすエネルギー”というような意味で使っていた気がする。

そんなこんなで、ハンピにもう少し居たい気持ちはあったけれど、「これは何かの啓示かもしれない」、「ここで悪いカルマをそぎ落して、進め、ということかもしれない」と妙な納得感を持って考えたわたしは、サキさんと話したことの後押しもあって、新たな地に進むのではなく、どうしてももう一度訪れる必要がある、と感じていたアレッピーに戻った。

この象の水浴びを写真におさめた直後、転んでカメラが水没した・・・
水牛に頭突きされたワンピースをハンピのお店でお直ししてもらった。なんともクリエイティブ!
そこかしこにいる牛たち


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