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#66 ワイナポトシ登頂記-2

※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです

翌朝目覚めてから真っ先に熱を計ると、36.0度。昨晩寝る前に飲んだ解熱剤が効いたようだ。まだ胸のムカムカとお腹の方に名残があったけれど、行くことに決めた。

初日の今日は、ラパス(標高3,650m)からベース・キャンプ(標高4,700m)までの車での移動がメインで、本格的な登山はない。ただし3日目最終日の雪山登山に備えて、ベース・キャンプ近くの雪面でアイゼンを付けての歩行やピッケルの使い方の練習、それにアイスクライミングがあった。

ベース・キャンプまで同じ車で向かったメンバーは、フランス人カップル、イスラエル人男性、イギリス人男性、日本人男性のマツノスケ君(昨日申込みがほぼ同時)、そしてわたしの6名。他にガイドが3名同乗した。
わたし以外はそこそこ登山経験の持ち主ばかり。ここでもやや場違い感を覚えつつ、後悔しても既に遅い。気を取り直して車窓を楽しみながら進んで行ったが、いくらラパスで身体を慣らしたとはいえ、数時間で標高4,700m(ラパスとの標高差1,000m)まで来ると、さすがに身体にこたえた。

念のため朝のうちにダイアモックスを飲んでいたので、ひどい頭痛こそ無かったものの、高山病の症状としては初めての膨満感がひどかった。ベース・キャンプに着いてすぐランチを用意してもらったのに、胃の上辺りに圧迫感を感じて、とても食べられない。それでもこの後のアイスクライミングに備えて、無理やり押し込んだ。

食後は、プラスチック・ブーツをはいて近くの氷河まで移動し、アイゼンを付けての歩行練習。
この旅で3回目のアイゼン装着(一度目はアルゼンチンのペリトモレノ氷河、二度目はチリのビジャリカ登山)。最初はブーツの重さに戸惑ったけれど、間もなくアイゼンを付けて歩く感覚が蘇ってきたおかげで、足に若干の自信がついた。

上り下りの基本的な歩き方の指導の次には、ザイル(登山時、安全確保のために身体を結び付けるロープ)でお互いを結び付けての歩行練習。この時、万が一足を滑らせて斜面を滑落してしまった時に、ピッケルを斜面に突き刺して、それを食い止める方法も教わった。
ここで実演ということで、ガイドがわたしの後ろにザイルで繋がっていたイスラエル人男性に、わざと滑落するよう指示した。彼が転ぶと同時にわたしの身体もザイルに引っ張られて大きく傾き、斜面に強くたたきつけられた。とっさに教わった通りピッケルを斜面に突き刺すも、体重のかなり違う男性と自分を同時に支えることはできず、そのまま二人して斜面を数メートル滑り落ちた。この時ウエアの腕がまくれ上がったせいで氷の斜面にこすられ、右腕には血がジワリとにじむスリ傷。初日の簡単な練習なのにとんだ名誉の負傷を得てしまって、先が思いやられた。

アイスクライミングは、期待以上に面白かった。
実際の登山には無い90度近い氷の壁を、ピッケルを両手使いして登っていく。
もちろん身体はしっかりとザイルでくくりつけられており、壁のてっぺんと地面にはガイドがいて、ザイルをうまく引っ張り調整しながら安全を確保。
初めの方は傾斜の緩い斜面だったので、簡単に登っていけた。ところが三分の二くらい登った辺りから急に角度がキツくなる。ピッケルを壁に突き刺し、腕力で自分の身体を持ち上げなければならないのに、腕力・握力とも非力なわたしには、なかなか上手くいかない。壁が氷なせいで、ピッケルが上手く突き刺さらないのだ。

下ではマツノスケ君が「ガンバレ~! もう少し右、右!」などと、写真を撮りながら応援してくれていた。壁の上にいるガイドの顔が見えているのに、なかなか上まで登り切れず、もどかしい!
「Do you want to come back?」と何度も聞かれたけれど「No! A little more!!」と必死に叫んで、最後はなんとかてっぺんまで引っ張り上げられるようにしてたどり着いた。
アドレナリン全開の興奮。 苦しくて、でも、かなり楽しかった。

無事終わった時点でわたしの気持ちは「これができたから、例え本番で登頂できなくてもいいかな…」というくらい満足感でいっぱいだった。

人生三度めにして、この旅中に三度めのアイゼン
想像以上に腕力、体幹力が必要だった
ガイドが見えているのに、最後が登り切れない…
やったよー!とこぶしを振り上げた

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