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#73 アンデスの秘湯で旅の満一年を迎えた話-1

※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです

2014年6月末、数日前にマチュピチュ観光を終えて、わたしはペルーのクスコに居た。
去年の6月30日に日本を出てから、ちょうど一年が過ぎようとしていた。

「何かささやかなお祝いがしたいなぁ」
手っ取り早いのはちょっと贅沢をして美味しいモノを食べることだけれど、実はそれほど食にこだわりがなく(好き嫌いは結構あるけれど)、「郷に入っては郷に従え」で現地の屋台のそこそこ美味しいモノで十分満足できてしまうわたしは、今抱いているもっと切実な欲求に従うことにした。

そうだ、アンデスの秘湯へ行こう!
最近のわたしは和食よりも数倍、日本のお風呂恋しくてしょうがなかった
長期の旅で、できるだけ安い宿を探して渡り歩いていると、 湯船につかる機会はなかなかない。ごくたまーに、シャワールームに湯船がついていても、決してお湯をはってゆったりつかりたくなる代物ではない。

湯船に入った一番最近の記憶は、今年の3月半ば、南アフリカはヨハネスブルクの国際空港のホテル。
「なんだ、3ヶ月しか経ってないだろう」という突っ込みはさておき、あれは、ヨハネスブルクから飛ぶはずのマダガスカル行きの飛行機が、突然の渡航中止とオーバー・ブッキングで、 2日間も空港で足止めを食らってしまった時に(あの時のことは、今思い出しても腹が立つ!)、マダガスカル航空が用意した空港直結のホテルに泊まってのことだった。

普段泊まっている宿の100倍くらい良いアメニティで「こんなホテルに泊まるのは、おそらくこの旅で最初で最後だろう(また航空機遅延がない限り)」と張り切り、朝晩ともバスタブにお湯をはって、4回も入ったのが懐かしい。後からホテルの宿泊費をネットで調べてみると、いつも泊まっている宿の20倍くらいだった。

その時以来のお風呂を求めて。
実はこの秘湯情報は、南アフリカのケープタウンで出会ったチャリダー(自転車で旅をしている人)のイトウさんが以前、Facebook上で教えてくれたものだった。
もちろん日本の有名なガイドブックには載っておらず、ネットで調べてみても、そこへの行き方の詳しい情報は、なかなか見当たらなかった。イトウさんは「プーノからクスコに向かう途中にある」と教えてくれたけれど、多くの旅人同様、大きな街から街への移動に基本ツーリストバスを利用しているわたしの場合、 自転車旅のように通りかかった町や村で気軽に降りるというのは、かなり難しい。

いったんは行くことを諦めかけたけれど、ふと、マチュピチュ行きで利用したクスコの旅行会社に相談してみると丁寧に行き方を教えてくれた。 とあるネットのブログには「クスコの観光案内所の人も知らないくらいの秘湯」と書かれていたけれど、旅行会社の話によると、最近はクスコの人が週末に訪れる保養地みたいになっているそう。
ただ、さすがに外国人観光客で訪れる人は、まだほとんどいないという。数か月前、たまたま彼は「クスコ近辺でどこか珍しい所に行きたい」というオランダ人家族の求めに応じて、プライベート・ツアーを組んで、 泊りがけで同行したらしい。その家族も大満足だった、と得意気に話してくれた。

「観光客はほとんどいない」
旅も長くなってくると、このキーワードはかなり魅力的。なにせ、一大観光地のマチュピチュへ行った直後だ。そういえばマチュピチュの麓の村にも温泉があるのは有名な話だけれど「お湯がぬるい」という話をよく聞くし、人が大勢いそう…という理由で行かずにスルーしていた。

南米には所々にいくつか温泉があるけれど、日本と違って基本的には水着着用で入るもの。対して今回目指す秘湯は、夜になるとペルーの人達は皆帰ってしまうらしく、裸で入れる可能性があるという。なんて素敵! 期待大。

「どうせなら、泊りがけで月見風呂」ということで、さっそく荷物をまとめ、クスコからバスと乗合タクシーを乗り継ぎ、約4時間かけて、秘湯に向かった。

乗合タクシーで行くと、道沿いに突然「アグアスカリエンテス」の看板が現れる
もうもうと湯気立つ湯畑を見て、心が躍った

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