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#75 ピスコの苦い思い出-1

※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです

登山ブログでもないくせに、南米に来てから登山ネタが多くなってしまっているのは、さておき。

ペルーのワラスで挑戦したのはピスコ登山。結論から言うと、登頂できず。今回は、いろんな場面で少しずつ歯車が狂っていった感じで、苦い経験教訓を得る結果になった。

ワラスに来たのは、ペルーアンデス最高峰のワスカランと、世界の登山家達から「世界一美しい山」と称されたアルパマヨを見るためだった。その思いは強かったけれど、例によってよく調べず、ここに来るまでは「どちらかの山に登れたらいいなぁ」と淡い期待を抱いていた。

実際に来て話を聞いてみると、どちらも、とても素人が軽い気持ちで登れる山ではない。みな口をそろえて「more technical!」と言うのを聞いて、あっさり諦めた。
代わりに勧められたのが、ピスコ(5,752m)
ワスカランを含むブランカ山群の主要な山々に囲まれたピスコの頂上からは、天気が良ければ、ワスカランもアルパマヨも眺めることができると言う。

今回も何軒か旅行会社を回った上で、説明してくれた担当者の印象が良かった所に決めて、申し込んだ。ちょうどわたしと同じ日にピスコ登山を希望しているドイツ人男性がいるというのも大きな理由で、一人でプライベート・ガイドを雇うよりも、彼と二人で一人のガイドをつける方が当然割安になるため、その彼とパーティーを組むという話で決まった。

今回も二泊三日のコース。
初日はワラスの町からセボヤパンパまで車で向かい、そこからベース・キャンプまで登り、ベース・キャンプにテント泊。
二日目の夜中にベース・キャンプを出発して、頂上へアタック。その後、ベース・キャンプまで下山してテント泊。
三日目の午前中にベースキャンプを出発してセボヤパンパまで下り、午後にワラスの町に戻る。
一泊二日で、二日目にワラスまで一気にに戻って来ることもできるけれど「かなり身体にきつい」と聞いていたので、二泊三日コースを選んだ。

翌日、ガイド及びパーティーを組むドイツ人男性と初顔合わせ。
会ってみて驚いた。どう見てもドイツ人じゃない。聞くと、彼はペルーのリマ在住。名前はニコ。ガイドのファンも「英語ガイド」というほど英語ができる感じでは無かったけれど、まぁこれは想定内。ワイナポトシの時も”ベーシック・イングリッシュ”のガイドと聞いていたけれど、実際にはほとんどしゃべれなかった。

きっと例のドイツ人は予定を変更したかキャンセルになり、代わりにこの男性と組むことになったんだろう、と適当に想像して、この時は特に気に留めなかった。これが実際には、後で大きく影響してくるのだけれど。

初日のセボヤパンパからベースキャンプまでの道のりは、驚くほど楽チンな大名登山。なんと、荷揚げ用のロバとドンキー・ドライバー(ドライバーと言っても、ロバに乗っているわけではなく、ムチを持ってロバを先導して行く人)が登場し、テントや装備一式ほか、重たいものを全て運んでくれた。
道も歩きやすく、自分の荷物は水とカメラや貴重品程度なので「こんなに楽して良いものか…」と後ろめたく思ってしまったくらい。自分達で全ての荷物を背負っているグループを途中で追い抜かした時は、ワイナポトシでの苦労を思い出し、彼らに同情しつつ、景色のよい中を鼻歌気分でハイキングすることができた。

ベースキャンプに着くと、すぐにテントの設営。ここで次の驚き。「こんなに小さなテントに男二人とわたしの三人??」どう見ても、二人用に見えるテント。でもその疑問を今ここで訴えてもしょうがないので、胸にしまって覚悟を決める。とにかく明日の頂上アタックのために、狭くても何でもちゃんと眠ることが重要だ。
約4,700mのここまで来て、若干頭痛っぽいものを感じていたわたしに、笑顔で薬をくれたニコ。英語を全く話せない彼に、何度も「グラシアス!」と感謝を伝えた。

夕食を食べ終えた後、ガイドのファンと話していて、さらに大きな驚き。
なんと、ニコは今回の登山を一泊二日のコースで申し込んでいると教えてくれた。ファン自身も「次のガイドの予定が入りそうだから、明日中にワラスに戻りたい」と。「聞いてない! 話が違う!」と訴えるわたしに、ファンは「ワラスに戻ったら旅行会社と話して、他の一日ツアーをオマケしてもらえばいいよ。氷河を見るツアーなんてどう?」などと言い出した。

薄々感じてはいたけれど、どうやら今回のこのツアー、ドイツ人男性が外れたことで、もともと一泊二日で組んでいたファンとニコの所に、わたしが放り込まれた形らしい。
そういえば申し込んだ後、装備のサイズ合わせのために再度旅行会社を訪れた時、担当者がそわそわした感じで「一泊二日でワラスまで戻って来ることはできそうか?」などと、妙な質問をしてきたことを思い出した。体力的にきついから二泊三日を勧めると散々言ってたくせに、今さら何を言い出すんだ?と思いつつ「体力次第だから、行ってみなきゃ分からない」とその時は
答えておいた。

おかれた状況がだんだんと見えてきたわたしは「ワラスに戻ったら旅行会社と談判して、値引きくらいしてもらわないと気が済まない!」とにわかに腹が立ってきた。
明日(というか今日の夜中)の出発のために、少しでも体力を蓄えておかなければならないのに、その夜は狭いテントの中で怒りと疑問で悶々として、誰かが寝返りをうつ度にめが覚めてしまい、あまり眠ることができなかった。

ロバくん、ありがとう。とナデナデ
ピスコ登山の出発点、セボヤパンパ。ここの雰囲気は最高だと思う
ベースキャンプに張ったテント、借り物のの寝袋を干す
ひと息ついて、食事の準備をしているガイドのファン
ピスコへの道
ベースキャンプからはワンドイの雄姿を眺めることができた


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