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推し映画について語る-14:「タゴール・ソングス」

ドキュメンタリー映画が好きです。群像物だとなおさら。加えて”人の強さ”を感じられて、自分も勇気がもらえるような、メッセージ性がある作品が好きです。そして”人の成長の過程”を目にするのも好きです。そして、歌が好きです。

そんな”私が好きなエッセンス”がぎゅっと凝縮された映画を観ました。上映中の映画館もあるかもしれませんし、私のように「仮設の映画館」で鑑賞されるのも良いと思います。いろんな人に観てほしい映画だと思いました。

推し映画14:「タゴール・ソングス」

アジアで初めてノーベル文学賞を受賞したラビンドラナート・タゴール。偉大な大詩人が作った2,000曲以上の歌は、100年の時を超えて、今もベンガルの人々の間で歌い継がれているそうです。バングラデシュやインドの街の中で、村で、雑踏で、様々な”市井の人々”がタゴールの歌を大切にし、歌いながら大切なものを得て、成長していく様を、美しい映像と歌で綴るドキュメンタリー映画です。素晴らしかった。

”歌”の群像劇です。「人と歌と街の関わり合いの映画」だと、佐々木監督は仰っていました。タゴールの歌が、詩(言葉)が、インドやバングラデシュの人々の心の中に息づいている様がよくわかる。信念、情熱、魂というのか…とても大切なものが心に刻み込まれていることが、ものすごく尊いことだと思いました。そして猛烈に”羨ましい”と感じます。今の私には、映画の中で何度か登場する「ひとりで進め」という歌が染みました。

いろんな年齢、立場の人々が登場するのだけど、何処で出会っても、知らない人とでも「タゴールの歌」で一瞬でわかりあい、繋がりあえるのが素晴らしく、羨ましいと思いました。若者たちが、タゴールの歌をアレンジして歌い繋いでいくのも、素敵です。


ベンガルの人々の”魂”に触れられる映画

「歌」という側面で切り取ったから、こんなにも短い時間(ひとつの映画作品の中)で、ベンガルの人々の、魂の深いところに触れられたんだなと思うと、すごく興味深いです。

「タゴール・ソング」を歌えば、一瞬で価値観を共有できる、想いは同じだとわかりあえる。たとえ生まれた土地や、生きる場所が違っても。なんて言い表せばいいんだろう?とずっと考えています。心の真ん中にあるモノ。ベース。拠り所。祈り、信念、信仰に近い。理想。哲学。絆。

バングラデッシュの若いラッパー達が、“この国の政治的汚職を廃止してやる”と歌いながら「俺たちはタゴールと一緒だ」と言うのが本当にぐっときたました。劇中、歌で世界が変わるのか?という問答があったけれど、自分と世界を変えていくための原動力というか、勇気の核心部分にタゴール・ソングがあるんだな…と思って、羨ましくなりました。

「歌」で伝えていくのが、また、素晴らしい。哲学を哲学として伝えたら、あるいは詩や随筆だけだったら、これだけ多くの、学のあるなし関係なく広まっていなかったんじゃないか。”歌”だったから、街でも村でも、貧富の差関係なく、親から子供へ、成長した子供から子供へ受け継がれ、伝わり続けたんだろうなと思うのです。

ミニシアターエイドLIVE」で加藤るみさんが「(ミニシアターでかかる映画は)世界各地の社会情勢や、文化を学ばせてくれる」と仰ってて本当に同意、この「タゴール・ソングス」はまさに”そのもの”でした。まだうまく言語化できない部分もあるけれど、本当にたくさんのことを学ばせてもらいました。


何かを”信じられている”人達への憧憬

映画を観る前に、YOUTUBE LIVEでティーチイン的なトークセッションを観ました。私はこの時、島田監督の「春を告げる町」しか観ていなかったのですが。ふたつ、強く印象に残っていたやりとりがあって。

タゴールの歌を大切にするベンガルの人々に憧れると、”何か”を信じれている人達が羨ましいと、島田監督が仰っていて。一方、佐々木監督は、映画を撮りながら、ベンガルの人達と同じくタゴールを「信じている」境地になっていたと仰っていて。私は島田監督に強く共感をしていました。そして”羨ましい”と思い続けながら生きていくのもいいものだと、今は思っています。

島田監督はずっと「信仰を持つ人たち」のことを、羨ましいと思い続けて映画を撮っていらっしゃるんですね。羨ましいから知りたくて、でも追いかけても追いかけても「自分のものにはならない」から、きっと永遠に探り続けていかれるんだろうなと。そういうものを、私は観たいです。

もうひとつ、「タゴール・ソングス」の中盤、佐々木監督が歌い手に「歌は歌でしかありえないんじゃないですか」と質問していました。「タゴール・ソングを歌っても、問題は解決するのか?」と。島田監督からの「歌は現実をどう超えていく?」という問いかけに、佐々木監督は「歌ではおなかはふくれない。外の世界が大変な状況下で、それでも歌で、自分の心の持ちようは変えられる。それだけでも、歌の持つ意味はある」と仰ってて。そして映画の中で、歌い手さんはこう仰っていました。

歌は歌でしかありえない
だからこそ私達には責任がある
もしタゴールの哲学を皆に届けることができたら、この世界はより良くなるはずなのだから

揺るぎなく”正しいと信じられるもの”を持てるのは、本当に羨ましい。


好きな場面

作品の中で、いろんな人が歌います。私はこのtweetの左下の女性シンガーの歌声がすごく好きです。歌は「あなたの風が帆になびいた」。歌声が、旋律が、いまでも耳にリフレインしています。おそらく夕暮れの時間、どこかの屋上で撮影されていて、彼女たちの背後に広がる空の透明な色合いと相まって、美しい旋律と歌声が忘れられない場面です。

右上の彼女が、空港で、電話の相手に歌を歌ってあげるシーンも、すごくいい。


とある女子大生が、もやもやした感情を叔母さんに相談しに行くのだけど、その際に1曲のタゴールの歌(チットランゴダ)から「この歌は完全に私の心の声よ!」と自覚に至る場面にゾクゾクしました。たった1曲で、自分の道を見つけた。そして両親と本音をぶつけ合い、お父さんは「変化は勝手に訪れる」ものだといい、娘は「違うわ、変化というのは人が生み出すものよ」と反発して、行動に移していくのです。彼女の”心が育っていく”過程を目にすることができて、ちょっと胸が熱くなりました。

タゴールソングスの先生、オミテーシュと、弟子のプリタの声がすごく素敵で。ある夜、プリタが「皆一緒に進んでいた」を歌って、ベランダで煙草を吸っているオミテーシュが声を重ねる場面があるのですが、これは本当にドキュメンタリー映像なのか?と思うくらい、ドラマティックで、凄まじいな…と思いました。美しいプリタの歌声と、暗闇の中でオミテーシュが手にする煙草の火が赤く光る。歌い終わったオミテーシュが泣いていて、そして「皆一緒に進んでいった 暗闇の中 名もない道を」と呟くのがもう、本当に。

オミテーシュは最後、ひとりで何処に行ったんだろう。

そしてラストシーン、プリタがタゴールの「100年後の…」を読み上げるのが、とてつもなく「良い」です。しかも、まさに言葉の通り、南の風が吹き込んできそうなベランダで読み上げるその姿が、まるで時空、次元を超えているようで、なぜかちょっと、「インターステラー」を思い出しました。

この映画で知った、2篇の歌をここに記させて頂いて、感想文を終えます。本当に素晴らしい映画でした。佐々木美佳監督に感謝です。

好きな歌

「ひとりで進め」

もし君の呼び声に誰も答えなくとも ひとりで進め
ひとりで進め ひとりで進め 
もし誰もが口を閉ざすのなら 
皆が顔を背けて 恐れるのなら
それでも君は心開いて 
本当の言葉を ひとりで語れ
もし君の呼び声に誰も答えなくとも ひとりで進め
もし皆が引き返すのなら 
もし君が険しい道を進むとき 
誰も振り返らないのなら
茨の道を 君は血にまみれた足で踏みしめて進め
もし君の呼び声に誰も答えなくとも ひとりで進め
もし光が差し込まないのなら 
嵐の夜に扉を閉ざすのなら
それでも君はひとり雷で 
あばら骨を燃やして 進み続けろ


「僕らはみんな王さまだ」

僕らはみんな王さまだ この王国のなかで
自信があるから 王さまと一緒に頑張れる
僕らはみんな王さまだ
僕らはみんな王さまだ この王国のなかで
自信があるから 王さまと一緒に頑張れる
僕らは夢をもって進む いつかきっと王さまの道と一つになる
僕らは 渦に飲み込まれたりしない
勇気があるから王さまと一緒に頑張れるんだ
僕らはみんな王さまだ





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