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同人誌の頒布数は面白さに比例しない

前回の記事、

同人誌の値段は"販売"価格ではなく"頒布"価格と呼ぶ

は、ご覧いただけましたでしょうか。
ぜひ同人誌のことは販売ではなく頒布と呼んでください。
でもこの記事では敢えて“売買“と言う言葉を使ったりもしますが、ご了承ください。

同人誌制作業界におりますと、よく「自分は実力がないから売れない…」「こんなクオリティの本誰も買わない…」などと言ったネガティブ言葉が多く散見されます。

が、基本的にはその考えを持つのは早計というものです。

どうして我々は「クオリティの高い物なら売れる」と勘違いしてしまうのか?

それは、ユーザー目線で常に「クオリティが高い“と思われる”物」を選択して購入していると思っているからです。

我々が使うシャンプーや化粧品、今日のおやつに買ったチョコレートさえ、「なんとなく安くて良さそうな物」を選んで購入していると思います。これを購買心理と呼びます。

実際に購入して利用してみて「やっぱコスパ良かったやん!」となると、リピート購入しようとします。物凄く気に入ったら、お友達に薦めたりもするかもしれません。

ただ、同人誌においてはそれ以前の「認知」に対するプロセスを怠っている作家があまりにも多すぎます。
甘いよ!!!ケーキの上に飾りで乗せられている砂糖菓子より甘いよ!!!!!!

いくら伝説級に美味しいうどん屋さんがあったとしても、誰も知らない荒野にポツンと立っていたのであっては、宝の持ち腐れという訳です。

寂れたシャッター街に並ぶ店舗より、銀座の一等地に並ぶお店の方が“潜在顧客“が多いって訳ですよ。
斜陽ジャンルはどう足掻いても旬ジャンルほどの潜在顧客は得られないんだよ!!(半ギレ)

しかし銀座の一等地にお店があれば物が売れるという訳ではありません。
第一段階の「知ってもらう」と言うことはクリアできても、「そこに良い物がある」と認知されなければ意味がありません。
それが“宣伝”です。

まず、「ここにこんな物があるよ!」と知ってもらわなければ、購買に至るわけがない!!!
ここをおざなりにしている同人作家があまりにも多すぎるよ!!!!

実はそれを助けてくれるのが“同人誌即売会”でした。
リアルイベントは“ジャンル買い“と言う行為ができるので、「目当てのサークルの隣のサークルをついでに立ち読みして良かったから買った」と言うことができたわけです。
目当てサークル以外のオーパーツを見つけた時は、ちょっとしたインディージョーンズ気分で凱旋ですよ。
同人誌即売会ってのは、そう言った一期一会があるからやめられねェ訳です。

印刷物の仕様にこだわる文化は、そういったところから派生していきました。
まず手に取ってもらうために、パッと見で豪華な見た目や表紙イラスト、値札の工夫やスペース装飾なんかに力が注がれていったわけです。

ところがこのコロナ禍によりリアルイベントが制限され、“ついで買い”が難しくなってきました。
更に世はインターネット大戦国時代。
購入したいものは、あらかじめネットでチェックしておくのが当たり前の世の中です。
バブル期の同人誌業界では、同人誌の売り上げで御殿が建てられたとの噂もあったくらいですが、失われた30年の時を経た日本では、趣味の世界でも皆さん財布は固く、より慎重に購入を決断している訳です。
誰だって金が無限にあったら、推しジャンルの端から端まで全部購入しているに決まってるだろ!!!!

さて、ここでちょっとしたミスリードがある訳ですが、普通なら「良いものだから宣伝すれば売れるだろう」と考える訳です。

違います。

みんな“良い”とはどこで判断していますか…?

今選んでいるシャンプーも、化粧品も、今日購入したチョコレートでさえ、“なんとなく良さそうな気がしたから買った”と言う程度だと思います。
成分表までじっくり見て、原価率を考えながら、その成分が人体に与える影響まで全て把握して購入している人なんて、ほんの一握りではないでしょうか。

では、なんとなく良い気がしたのは何ででしょう…?

売り場のPOP、パッケージデザイン、芸能人のCM、友達が使っていたから、ネットの口コミを見て、Twitterでバズってたから。
期間限定商品だったから、割引商品だったから、有名企業の商品だから。

理由はそれぞれだと思いますが、実際の商品の質の違いなんて微々たる差で、実は本質的に良質かどうかなんて、気にしている人はあまりいません。
良質だと思わされることを、“営業“と言い、または“洗脳“と言い、“教育“と言います。

もちろん良質なものを提供するのは大前提なのですが、あまりよく知らない人が「いや今回全然自信ないっスわ、ハハッ」って言って出した本と、よく知っている友達が「部活も勉強も頑張りながら、めちゃくちゃ一生懸命作りました!!」って言って作った本と、あなたはどちらの方に価値を感じるかと言うことです。

物やサービスを流通させるのに必要なのは、良質さではなく「人の数」×「良質と思わせるテクニック」です。
なので反応数がうまく伸びなくても、「自分の作品の価値は低いんだ」と自己卑下する必要は全くありません。

どうしてもどうしても自分の作品の反応数を伸ばしたいのであれば、クオリティにこだわるよりも、どうやったら作品が認知され、“良いと思わせる仕掛けを作るか”に尽力された方が良いと思います。

ただそれは同人誌頒布の本質から外れるものになりますし、そこを求めることはおすすめしません。
だけど、“数”こそが自分が認められているような気がしてしまう気持ちもとてもよく分かります。

人間はそもそも承認欲求がある生き物ですから、社会的に認められることは喜びを感じて当然な訳です。
次回はそんな“承認欲求”とどう付き合っていけば良いのかという考えをまとめてお伝えできたら良いなと思います。

〜今日のまとめ〜

  • 反応が薄い=クオリティが悪いではない

  • 反応が欲しければ"魅せ方"の工夫が必要

  • 反応を求めるのは同人誌の本質ではい

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