ヒハマタノボリクリカエス23

 そこは、おかまバー、じゃなかった、ゲイバーだった。
 いきなり濃いキャラのおかま、じゃなかった、濃いキャラのゲイに迎えられた。
 濃いキャラのゲイはついでに髭も濃かった。
 ま、どうでもいいけど。
 なんか、最近こうやって人を観察する癖がついてしまっている。
 それもゴンちゃんに会ってからだ。
 髭のゲイにも驚いたけど、席に着いた時、もっと驚いた。
 あの写真の男の子がいた。
 あの写真展の作品のなかのとくに気になっていた、あの彼だ。
 どうして?髭のゲイは名前をユウだと、頼んでもいないのに勝手に自己紹介をしてきた。
 あの男の子はセイジと名乗った。
 セイジ君。
 ハルは四人分のお酒を注文した。
 私とハルと、ゲイの二人のお酒。
 自然とセイジ君を意識してしまう。
 ハルもかっこいいけど、セイジ君もかっこいい。
 セイジ君はかっこいいというか、かわいい系かもしれない。写真よりも実物の方がずっと魅力的だし。
 茶色い髪に、病的に白い肌。いわゆるジャニーズ系。それもかなりの高いレベルの。
 髭が慣れた手つきでお酒を作ってくれた。
 案外器用かもしれない。
 ま、どうでもいいけど。
 あれ、髭の名前って何だっけ。
 ま、どうでもいいけど。
「ハル、なんなのこの小娘。アタシというゲイがいるというのに」
「ブー、ハルは女子が好きなの。ねえ、ハル」
 髭がハルの体を触ってくるので、私が払いのけた。
 ハル、ちょっとは抵抗しようよ。
「超むかつく」
 髭がほざいた。
 髭、うざいよ。
 マジで。
「ハル、抵抗しようよ。気持ち悪いでしょ」
「ええ?気持ち悪くないよね、ハル?」
「そうだな。いつものことだしな、このセクハラ」
「いつもされているの?犯罪だよ、犯罪」
「いいの、アタシはてめえの体で稼いだお金でハルのホストクラブに行っているから。文句は言わせないわよ」
「男でもホストクラブっていけるの」
 意外だ。
 また、知らないこと。知らないことが多すぎる。
 髭は当然だと、怒って酒を一気に飲み干した。
 確か名前も何か名乗ったけど、本名じゃないに決まっている。きっと髭らしい名前に決まっている。喋り方、見た目、その全てが受つけられない。
 無理。
 これがゲイ?
「男でも、ホモでもいけるのね」
「ちょっと、ホモじゃない。ゲイって言って」
「ゲイ?どうしてホモって言ったらだめなの?」
「とにかくゲイって言って。ホモはやめて」
「わかった」
 切実そうだったのでさすがに素直に従った。
 どうしてホモはだめで、ゲイはいいのだろう。
 そして、髭の独壇場になった。
 髭の喋ること、喋ること。
 それがまたおもしろいからむかついた。
 やっぱりゲイの人っておもしろい。
 テレビでよくこういう人を見るよねって思ってしまった。
 あ、セイジ君もハルも喋っていない。
 あ、私も口を開いていない。
 私達は髭の身の上話も延々と聞かされた。
 それがまたおもしろいからむかついた。
 髭、あんたは何者だ。
 私はほんの少しだけ髭に興味を持った。
「ねえ、いつゲイって気づいたの?」と髭に聞いた。
「あ、アタシ?アタシは、高二の夏かな。その時までは別に男が好きとか思っていなかったの。これ本当よ。彼女もいたしね。その高二の夏に、公園の公衆便所で知らないおっさんに犯されたのよ。それがきっかけ。もう、その頃は今みたいにデブじゃなくって、ずっと今より痩せていてさ、そのおっさん力強くて、抵抗しても無駄だった。痛いの、なんのって。けど、それで目覚めてしまったよね」
 髭が笑いながら、そして本来重い話をさらっとした。
 え?
「もしかして、地雷踏んじゃった?ごめんなさい」
 焦った。
 そりゃあ、焦るでしょう。
 予想外の答え。
 マジ?
 どうしてそんなにさらっと言えるの?
「いいの、いいの。もうふっきったし。あのおかげで目覚めたっていうのもあるしね」
「そういうものなのかな」
「そうよ。まあ、いいじゃない。呑みなさい」
 髭もセイジ君も楽しそうにお酒を呑んでいる。
「おもしろいでしょ、ユウさんって。俺、ユウさん大好き。ここの先輩で、色々やさしく教えてくれるし。ここで働けてよかったよ」
 セイジ君は、髭みたいなお姉言葉ではなかった。普通の男性の喋り方をする。
「こういうところって初めて?」
「うん、初めて。いろんな人がいるね、この世界には」
「そうだよ。ユウさんはいかにもって感じかもしれないけど、俺はゲイってわからないだろ?」
「うん。わからない。ていうか、かっこいいしさ。セイジ君って本当にゲイなの?」
「ゲイだよ。百パーセント。女子にかっこいいって言われても、何とも思わない」
「百。一パーセントも残っていないの?」
「そうだよ」
「そっか。そういえば、セイジ君って市内の写真展に出ていたよね?」
「ああ、見たの。だから今日ハルが来てくれたの?」
「そういうこと。別にいいだろ?俺達の自慢だし」
「何か恥ずかしいな。嬉しいけど」
 やっぱりセイジ君は写真のなかの美しい男の子だった。実物もやはり美しいが、彼はゲイらしい。なんてもったいないの。セイジ君が、普通に女の子が好きなら、かなりもてるのに。男受けもいいかもしれないけど。
「セイジ君ってモデルなの?」
「あれはバイトだよ。たまたま知り合いに、あの写真家さんの友達がいて紹介された。けっこうギャラが良かったから、嬉しかったな。けどまさかあんな大々的に展示されるなんて思わなかったよ」
「凄いよね。私、見惚れてしまったし。まさかゲイだったなんて。好きとかじゃないけど、女子からしたらめちゃくちゃかっこいいって思うよ」
「こいつ、写真の前からしばらく動こうとしなかったぜ。かなり気に入っていたよな」
「ごめんね。女子には興味ないから。ハルはどうだった?良かった?」
「うん、いけていたよ」
「そう?ありがとう、凄く嬉しいよ」
 セイジ君までハルに抱きついた。一瞬、髭と違ってそれが綺麗に映ったから止められなかった。
 かっこいいヒトってお得だよね、髭。
 そしてそんなゲイ達に私は嫉妬した。
 私だっていっぱい抱きつきたいよ。
 どうして髭とセイジ君はそんなに簡単にハルに抱きつけられるのかな。私は絶対ムリだ。
 二人は行動も前向きだし、見習いたい。
 けど、私には不可能。
 あれ、どうして私は不可能なのだろう。
 どうして?

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