あの日の僕(第3話)━絵本

あの日の僕(第3話)━絵本

少し過去の記憶を書いてみたけど、しんどい事だらけで、楽しいエピソードがちっとも出てこない。いや、楽しい事も沢山あったはず。それなのに、すぐに思い浮かんだのはしんどい景色。
楽観的に生きてきたのに、実はそうではないのかな?ただその感情に蓋をしているだけなのだろうか。しんどい記憶が優先的にどんどん忘れて去っていると考えていたのは、間違いなのか。

僕はわりと早い段階で、周りの人と自分は少し何か違っている事に気がついた。その「何か」をうまく説明する事は難しかったけど、違和感を覚えながら生きてきた。きっと、周りも何か違っているとわかっていたのだろう。確かに、自分でも当時の自分の言葉と行動を見たらそう思ったはず。

その違いにまず気づいたのは幼稚園の頃。

年長クラスの時、手作り絵本を製作するチャレンジをみんなでしていた。
僕が選んだ題材は「ピノキオ」。
どうしてこれを選択したかまでは覚えていない。そんなに好きではなかったはず。

各々がそれぞれの課題に取り組む中、僕も当然挑戦した。どう作ったか今だに覚えている。記憶力がすこぶる悪いのに、こういう所を鮮明に覚えているから不思議だ。色画用紙を黄色のハサミで切って、貼っていく。糸なども使い、動きのある絵本にした。きっと先生にそう教えてもらったのだろうけど、僕は夢中になって作った。

一番使った色は青。

僕は当時から青色が好きだった。けど家にある自分のお箸などは緑色だった。本当は青色のものを持ちたかったけど、お兄ちゃんと被る事から、僕は青じゃなく緑色を使う事が多かった。青に憧れ、ここは家じゃないから僕はここぞとばかりにふんだんに使った。そして、丸いボールを絵本の中に入れたくなくった。けど、自分で切ってみると、ちっとも丸くならなかった。カクカクとした丸。丸、ではない。おかしいな、とあきらめず、もう一回、もう一回と切ってみた。しかし、丸ではなかった。何度も切っていくうちに、僕は一人で怖くなった。

どうして僕は丸く切れないのだろう?みんなはきちんと丸く切れているのかな?その確認をする事すら怖かった。その時丁度、副園長先生がクラスの中に入ってきて、僕の前を通った。
「せんせい!ねー、ねー、まるくきって!」
思わずそう声をかけた。そしたら、どれどれ、と僕の代わりにキレイな赤い丸を切ってくれた。誰が見てもボールだ。僕の切ったカクカクした何かとは大違い。さっとそのボールを僕は絵本の中に貼り付けると、次の作業に進んだ。

記憶力が悪いから、このカクカク事件もすぐに忘れて幼稚園の間は思い出す事なんてなかった。しかし、それからいくつもの困難にぶち当たる度にこの記憶が鮮明に甦る様になった。

絵本作りは楽しかったはずなのに、絵本作りを思い出すと、こうやって苦しい景色もセットで頭に浮かんでしまう。だから僕は忘れっぽくなったのかな。あ、忘れっぽいのは元々か。忘れっぽいのは困る場合が多いが、こうやってしんどい時間も忘れられるから、プラスな部分もあると思っている。だからこの部分は嫌だけど良かったとも思う。

そして、カクカク事件の違和感はまだまだ序奏にもなっていなかった。まだまだ、これからしんどい時間が繰り返されていく。ほんと、なんでだろう、大人になった今、楽しいし、楽しんでいるし、前向きな思考を持って生きているはずなのに、過去の景色を遡ると、苦しいことを先に見てしまうのだろう。勿論楽しい事も沢山あった。それも書いていきたい。一杯笑っていたし、好きな遊びもあった。一人、夢中になって時間を忘れて没頭していた。いつまでもずっと遊べた。僕の人生は病気が全てではない。子供の頃なんて、それより好きな遊びの事ばかり考えていた。それは今も変わらない。たまたまいくつかの病気を持って生まれただけで、それが僕の全てではない。むしろ、それより困った事、しんどい事の方が多かった。

あれ、やっぱりダメだ。何も重い日記になんかするつもりないのに、重くなってしまっている気がする。違う、僕はこの一度しかない人生、それでもとても楽しんでいる。それも書いていきたい。

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