ヒハマタノボリクリカエス 10

 自分が描くわけじゃないけど、手に汗が出た。
 そういえばハルは一年ぶりに人を描くよね。
 ちゃんと、描けるの?
 といった心配は無用だった。
 できあがった作品。
 そこに私がいた。
 力強く、生きている。
 大きな茶色い瞳が訴えかけている。
 漫画タッチではない、完全な芸術作品。
 そこに私がいる。
「ま、こんなものかな」
 私は、自分が描かれた絵をしばらく眺めた。
 こちらを見て、元気に微笑んでいる。私ってこんなにきれいな顔していたかな。
 美化百パーセント。
「凄い、凄い、凄いよ」
「そう?ありがとう。嬉しいよ」
「凄いよ。ほんとだよ。私、これ」
「ありがとう」
 凄い、としか褒め言葉をかけられない自分が恥ずかしかった。美術の授業をもっとまじめに受けとけばよかった。けど、まぎれもなく彼の絵は本当に凄かった。頬を赤らめ、絵の自分も喜んでいる。 
 ハルはそのページをちぎって私にくれた。
「よし、じゃあタカシの家に行くか」
「え、今日?」
「今日。とりひきしたろう」
「したけどさ、そんないきなりはちょっと」
 ハルはそんな私なんて無視して、スケッチブックを鞄に入れ、立ち上がった。
「公園の絵は?次はあのカップルを描いてみようよ」
「そういえば、ユキと約束していたの、忘れていてさ。タカシの家で会うことになっている。一緒に来いよ」
「はい」
 断る理由がすぐに浮かばなかったので、まんまと行くはめになってしまった。
 ぐすん。
「ミホは歩き、だよな」
「うん。ハルは?」
「バイク」

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