ヒハマタノボリクリカエス21

 しばらく進むと一軒の古ぼけたレストランがあり、ハルに連れられて中に吸い込まれた。
 店内は外観ほど古ぼけていなかった。毎日掃除を欠かさないのだろう。それに洋風のアンティークが多数あり、とてもおしゃれだった。
 ハルは常連なのか、係が案内する前に奥のテーブル席に座った。
 意外と店は繁盛しているみたいだ。その席以外は全てのテーブルが客で埋まっている。その数三十人くらいで結構多い。
 私はハルと向かい合って席に着く。
「おなか空いたよな。ご飯食べよう」
「うん。ここってハルは常連なの?」
「常連っていうか、よく来るよ。味は保証する。どれもうまいぜ。さあ、選ぼう」
 ハルがメニューを渡してくれた。
 どれにしようか迷う。
 だって、ウツになってから食欲なんてないのだから。
「どれがおすすめ?」
「ステーキとかおいしいよ」
「お昼からステーキ?うーん、どれにしようかな。ハルはもう決まっているの」
「俺は決まっているよ。ハンバーグセット」
「ステーキじゃないよね、それ。じゃあ私も同じのにしようかな」
「「よし、注文しようか」
 店のスタッフに料理を頼んだ。私はその人が離れてから、水の入ったグラスに口をつけた。冷たい。
 確かにハンバーグはジューシーでおいしかった。食欲がないにもかかわらず箸が進んだ。
「ハルってさ、いつもどんなの、食べているの」
「別に、普通だと思うけど。うーん、洋食が多いかな。結構食べるのを忘れてしまうけど、それだと痩せてしまうから、最低一日二食はとるようにしている。面倒な時がほとんど。こういう時は女の方がいいなって思ってしまう」
「洋食好きか。けど、どうして女の子の方がいいなって思うの」
「だって、女は筋肉なくても問題ないだろう。男の場合はそうはいかないし。ガリガリなんてだめだろう」
「充分ハルは痩せている気がするよ」
「これでも無理して食べている。無理しなかったらもっと痩せているし。俺ってさ、痩せたいって相談にくる女が一番嫌いだ」
「え?どうして嫌いなの?世間の女の子は誰だって痩せたいって願っているよ」
「食べなければいい、そしたら痩せる」
「ま、まあそうだけど。普通の子はやっぱり、難しいかな。あ、私はウツで食欲ないからその方法でもいけるけど」
「痩せたいって相談しにくるやつは、俺がそう言うとたいてい無理ってほざく。じゃあ痩せたいとか言うなよってなる」
「う、うん。そうだね」
 ハルはハンバーグを食べながらタバコを吸った。
 ちょっと行儀悪い気がする。

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