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【漫画感想】『鍵つきテラリウム』2巻

前回の投稿から早速2日空いてしまいました。今日更新しなかったら本当に三日坊主で終わりかねないので自戒を込めて記事書いていきます。

今日は前回書いた感想記事の続き、『鍵つきテラリウム』2巻の感想です。

ページの全てを世界観、設定の説明に費やした1巻とは少し変わって、2巻は終末世界に生きる人間たちの姿に焦点が当たった内容となっています。


あらすじ

過去の大戦により荒廃した世界=完全環境施設<アルコロジー>

調査技官として世界崩壊の原因を探るべく旅をする少女チコと弟ピノは、調査中にとあるコロニーに迷い込んでしまう。

そこは常に雨が降り続け水が満ち満ち、人々は大樹の上に家を作って生活するコロニー155、通称<レインフォレスト>と呼ばれる場所だった。

https://comic-meteor.jp/terrarium/


登場人物

チコ:「お母さんの残した鍵」を完成させるために旅をする調査技官の少女。「〇〇系お姉さんなのです」が口癖。可愛い。今巻ではロボットにとっての「機械技術者」にして人間にとっての「医師」でもあることを証明するように、人間相手の手術を行う場面も描かれた。

ピノ:ボディに刻まれた「P1No.」の印字が特徴的なロボットにしてチコの弟。よく姉の口癖に「〇〇系弟です」と返す。おまけページで1巻でぶっ放していたビーム砲の解説がされると同時に、人間だった頃(?)の様子も描写された。


<レインフォレスト>

ケン:漁をして暮らす青年。足を踏み外して水路に流されレインフォレストに流れ着いたチコ・ピノを引き揚げた。滅びを受け入れているレインフォレストの人々の考え方に内心納得いかないものがある様子。

レナ:ケンの妹。5年前に身体が徐々に動かなくなる神経系の病に罹り、神経伝達機器と運動補助スーツを身に纏ってかろうじて生活している。最近は発作が起きる回数が増えてきており、発作が起きると激しい痛みに襲われる。

コロニー長:レインフォレストで暮らす人々の長。アルコロジーの崩壊よりも早く水没するレインフォレストの運命を前にして、生き延びるために危険な旅に出るよりも、20年後の滅びを受け入れて生きていくことを選んだ。



チコの技術をもってしても治せない病の苦痛からレナを解放する手段は一つだけ。それはかつてケンが巡検技師から渡された古代遺産<レガシー>=生命維持装置をレナの身体に取り付けること。

しかし古代遺産のテクノロジーは既に失われ、装置を取り付けたが最後、バッテリー切れと同時にレナの命も終わりを迎える。そしてバッテリーの残量は約5年分。

もとより残された時間はレインフォレスト水没までの20年。それがたったの5年に短縮されてしまう。

妹の未来を奪うことなどできない、たとえ苦痛に満ちていても少しでも長く生きることをレナも望んでいるはずだと訴えるケン。

しかし、当の本人レナの気持ちは違っていました。

自分の身体が不自由なせいで兄には迷惑ばかりかけてしまっている。そして兄はそれを迷惑だと思わず、支えてくれることも知っている。

だからこそ、自分の身体を襲う痛みよりも何よりも、兄に負担をかけ続けることに耐えられない。だから次に技官がやって来たときは、こう伝えるつもりでいた。

「お兄ちゃん 私もう… がんばるの 疲れちゃった」



2巻のメインストーリー<レインフォレスト編>はケンとレナという兄妹の選択にスポットが当たった話なんですが、読んでてとても辛かったです。

というのも僕、2年前に祖母を胃癌で亡くしたんですよね。

癌が見つかったのが亡くなる1年と少し前、見つかったときには既に完治不可能なレベルまで病状が進行していました。

それから1年間、祖母は母に付き添われながら手術と検査のために病院に通い続けましたが、ついに長期入院が決まり、亡くなるまでの全ての時間を祖母は病室の中で過ごしました。

僕も就活の合間を縫って見舞いに通い、なんとか内定をもらってからはほぼ毎日病室に顔を出してました。

だから癌患者の苦しみと、それを間近で見ながら何もしてあげられない悔しさを、少しはわかっているつもりです。


その経験があったから<レインフォレスト編>のケンの行動、心情には心を締め付けられる思いでした。

「苦しむレナを見るたび思うんだ 古代遺産をつけさせないのは俺のエゴなのかって」

全身に点滴やら何やらの管を取り付けられて、ベッドで寝たきりになっていた祖母。癌が見つかる直前まで社交ダンスに通っていたほどに、身体を動かすことが大好きな人だったから、内心辛くて仕方なかったかもしれない。

がらがら、ごろごろと喉から音を立てながら、しょっちゅう黄土色の痰を吐き出して嘔吐いていた祖母。胃の大半を切除したから、腹の中には何も残っていないはずなのに。

苦しむ祖母を目の前にして、入院させることを望んだのは本当に祖母にとって良かったのかと、何度も母と一緒に自問しました。

自分たちは己のエゴを祖母にぶつけているだけなんじゃないか。夏休みの宿題をため込んだ小学生のように、今までしてやれなかったことを直前になって果たして、自分たちが満足したいだけなんじゃないかと。

この悩みは、癌患者の家族に限らず、命が消えゆく様を間近で見つめたことのある人なら、きっと抱いたことがあるのではないでしょうか。

妹の苦痛を取り除く術を持ちながら、それをずっと隠してきた兄のことを、一体誰が責められると言うんでしょうか。


一方で妹レナの気持ち、これも想像はできてしまうんですよね。このセリフを読んだとき、かつて見送った祖母の声が聴こえてきた気がしました

「お兄ちゃん 私もう… がんばるの 疲れちゃった」

ああ、やっぱり。祖母も同じようなことを思っていたのかな。

戦前の満洲に生まれ、聞いた話では母(僕の曾祖母)を小さい頃に喪って、その遺骨を抱えて単身日本に渡ってきたという祖母。

戦中、戦後の苦しさ、理不尽にひたすら耐えてきた人だったからか、僕が覚えている限り一度たりとも弱音を吐いたことのなかった祖母。

癌の発見が遅れたのも、きっと一緒に暮らしていた息子(僕の叔父さん)に気付かれまい、心配をかけまいと我慢していたためでしょう。

そんな人だったから言わなかった、もしくは言いたくてもまともに声が出せなくて言えなかったのかもしれない。本当はこう言いたかったのかもしれない。

「もういいよ」「もう疲れた」「そろそろ終わらせてほしい」


赤の他人が苦しむ患者を前にして「きっとこんな姿で生きることは望んでないはず」「楽にしてあげなきゃ可哀想」なんて言ったところで、患者の一番近くにいる人には何も伝わらないんです。2年前の僕がそんなことを言われたら「うるせえ」の一言で斬って捨てていたでしょう。

だからこそ、「生きることにもう疲れた」と患者=レナ本人に言わせたことは、僕の心に深々と突き刺さりました。

家族でも友人でもなく、死を間近に控えた当の本人がそれを望んでいる。それを言われたら、もうどうしようもないんです。

自分のエゴやら悔しさやら悲しみやら、何もかもがぐちゃぐちゃに混じり合った感情を押し殺して、その通りにしてやるしかないんです。


そしてレナの望みを叶えてやることを選んだケンは、古代遺産=生命補助装置をレナの身体に取り付けることをチコに依頼します。

その果てに兄妹が、レインフォレストの住民が、チコとピノが見たものとは何であったか。

それは実際に単行本を読んで確かめてください。


相変わらず勢いのままに書いていたら、漫画感想記事のはずが僕と祖母の話になっていましたがそんなこともある、うん。

<レインフォレスト編>の次の話では世界の秘密に迫る新たな展開が。果たして危機に陥ったチコとピノの運命は。

主にピノ関連で書きたいことがいっぱいあるんですが、それは近日発売される3巻を読んでから書くと言うことで。


読んでくださった方、よろしければスキかコメント、もしくはフォローお願いします。

それでは。

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