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運命に飛び込む

お世話になった先輩が会社を辞めるらしい。珍しく電話が掛かってきて何だろうと思って出てみると、9月いっぱいで退職するとのこと。

私も入社してそこそこ年月が経つので、散々同僚の退職は見てきたつもりだったけど、心から寂しいと感じたのは初めてかもしれない。
なぜこそまで寂しくなるのかと考えてみたんだけれども、会社の先輩として以上に人として尊敬していたように思う。

私は小さい頃から他人に対してどこか壁を作る癖があって、これはもう一生付き合っていく病かなんかだと思ってるんだけど、とにかく他人に心を開かない。
しかも人見知りがいきすぎて、逆にめちゃくちゃ喋ってしまうタイプのやつだからタチが悪い。笑
なんなら人見知りと言っても信じてもらえないことの方が多い。

そんな中、この先輩にだけはどこか本音を話してたところがあって、何故かというと私がどんな質問を投げかけても真剣に答えてくれるから。

昔から「なぜそうなるのか」について徹底的に考えたいタイプで、高校生の時には宇宙には限りがあるのか、あるとしたらその外側には何があるのかを知りたすぎて、授業終わりに化学の先生を1時間拘束したあげく、答えが出ずに先方が匙を投げてしまうくらい相手を質問攻めにしたことがある。
これにおいては相手を論破したいとか、論争に持ち込みたいという気持ちは一切無く、とにかく答えが出るまで議論したい、なんならその過程を楽しんでいる節があるからこのようなことが起こってしまう。

私がこのモードになると、相手はだいたい適当に流すか、別の話題に変えちゃうことのが多いんだけど、この先輩は答えが出るまで徹底的に議論に付き合ってくれていた。

後から知ったことなんだけど、先輩も昔、学校の先生をよく質問攻めにしていたらしい。
まさに変人と変人が偶然にも会社の中で居合わせてしまったようだ。

先輩がどこまでも議論に付き合ってくれるので、私もどこか心を開いていたところがあったみたいで、いつかの退勤後、駅までの帰り道で唐突に本音を漏らしたことがあった。


「あんまり人に心を開いたことがないんですよね。相手の心に踏み込むのも怖いし、踏み込まれるのも怖いんですよ。特に恋愛とかだと顕著ですね。友達期間が長くないと好きになれないんです。」


すると、先輩はこう答えた。


「それって好きになるまで時間がかかるってだけだよ。もしかしたら、好きになったらすぐにでも関係を深めたいって思うタイプの人もいるかもしれないけど、そういう人は宇ヨンちゃんには合わないんだよ。時間が掛かっても待ってくれる人に出会えば良いだけじゃない?」

そうか、そういうことか。
先輩は、私が長年気持ちの奥底にしまっていた気持ちを軽く救い上げるかのように飄々として話していた。

相手がどうとかじゃなくて、まずは自分にとって合うか合わないか。そんな単純な事をどうして気付かなかったのだろう。
そんなことをいつも教えてくれていたのが先輩だった気がする。

自分にとっては一大事でも、他人にとってみると「なんだそんなことか」と思われることって往々にしてあると思う。
だけど、それを他人に話せるかどうかって結構勇気がいることでいつも二の足を踏んでしまう。

そんな時に、この人になら話しても良いなと誰かにとって思われる存在になりたいと考えていた8月最後の夜。今年も夏が終わるなぁなんて呑気にこのnoteを書いている。

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