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ショートショート

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2022年8月の記事一覧

株式会社のおと2【毎週ショートショートnote】

株式会社のおと2【毎週ショートショートnote】

○○株式会社が倒産した。

同日午後、会社が所有するとある山荘に医者の一団が極秘裏に訪れる。

彼らの目的はいまや死にゆく○○株式会社の法人格を看取るためだった。

法人格とは株式会社などの組織に法的な人格を与えることだと思っていた。人と同じように扱うことで、諸手続きを行えるようにする便宜的な資格。

だがあまり知られていないが、法人格は人の形をしていることもある。

つまりは、だ。顔があったり手

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株式会社のおと【毎週ショートショートnote】

株式会社のおと【毎週ショートショートnote】

わたしはある株式投資サークルに入会した。
サークルには投資歴の長い人たちがたくさんいて、みながチャートやら四季報なんかを使いこなすので、初心者のわたしは圧倒されるばかりだった。

そんなすごい人たちの中でも別格の凄腕さんがいるらしく、聞いた話では、株の約定する音を聞くだけで、どの銘柄が売買されたか即座にわかるとか。

ピロリ〜ン♪
あれはトヨタの音だな。
ピロリ〜ン♪
こっちはソフトバンク。
ピロ

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タイムスリップコップ【毎週ショートショートnote】

タイムスリップコップ【毎週ショートショートnote】

 とある会議室に集まった脚本家、監督、プロデューサーは悩んでいた。

 ヒット作を最低一本作らなくては、所属する映画会社が潰れてしまう。といって社運を賭けたプロジェクトに誰も知らない作品ってわけにもいかない。

 スポンサーの首を縦にふらせ、資金繰りをなんとかするには、万人がこれはいけるんじゃね的に思える作品が必要だった。

 そんな中、脚本家がぽつりと呟く。
「『タイムスリップコップ』ってどうで

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タイムスリップコップ【毎週ショートショートnote】

タイムスリップコップ【毎週ショートショートnote】

 ある日、家族旅行から帰ったら、食卓の上に見慣れないコップがポツンと置いてあった。
「なにこれ? お兄ちゃんの?」
「んなわけないだろ、俺のはIKEAで買ったやつだし」
「だよね、ならこれだれの?」
「こないだ変わった通販サイトでこんな感じのコップ注文したかも」と母がおずおずと告白する。
「マジで。また勝手に変なもの買って……」
 わたしは母が注文したであろう虹色のガラスコップを手にとって仔細に眺

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初めての鬼丼【毎週ショートショートnote】

初めての鬼丼【毎週ショートショートnote】

 念願だった鬼退治を果たした桃太郎一行のその後については、実はあまり知られていない。

 育ての親であるお爺さんお婆さんの元へと帰ってめでたしめでたし。というのが一般的に知られている話だと思う。

 だが文献に当たると、道中の旅費をつけ払いにしてきた桃太郎一行は、実は借金取りに追われ続けていたことが分かる。
 鬼ヶ島の鬼が蓄財してなかったため当てが外れたというのもあるが、なんにせよ桃太郎は金策をな

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初めての鬼【毎週ショートショートnote】

初めての鬼【毎週ショートショートnote】

「当たった!」
「マジで」
「うん、ほら、鬼ヶ島観光旅行の2名様チケット」
「ホントじゃん。やったーお姉ちゃん」
「これで行けるね。鬼ヶ島」

 鬼ヶ島……
 桃太郎一行が殺戮のかぎりを尽くしたその島は、その後荒廃具合が酷かったこともあり、長らく人の渡航が禁じられてきた。
 近年、観光地としての利用が政府によって検討され、ようやく今年になって島への立ち入りが許可されるようになった。

 当然、初入

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フシギドライバー【毎週ショートショートnote】

フシギドライバー【毎週ショートショートnote】

「ねえ、いつものあれ貸してよ」
「いつものあれね」
 ねじを外すのに困るとうちではいつもあれを貸してと言われる。
 あれというのはドライバーのことなのだけど、こいつがふしぎと変わってる。
 プラスとかマイナスとかじゃなくて、ネジ頭の形状に合わせて、自動的に形状を変えることができるのだ。
 普通の+、ーはもちろんのこと、家具とかに使われる六角や□、☆に〇にも対応していた。こいつが地味に便利。
 
 

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