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08_特選

全国政令指定都市美術展で「特選」に選ばれた少年に届いたのは、賞状と記念バッジだった。賞状はともかく、このバッジは、しっかり鋳造されたもので、結構自慢できるものでした。ちなみに政令指定都市と言うのが、なんなのかを知ったのは、かなり後のこと。
まずは、その絵(版画)が、どんな絵だったかと言うと、そこには三つのグローブが並んでた。真ん中に普通のグローブ。左右にキャッチャーミットとファーストミット。背景は、窓際から見える校舎。そこには、それぞれのグローブが持つ造形の美しさが、再現されてたこと。真ん中にあるグローブには白いボールが収まっていて、そのコントラストがデザイン的にも、とてもいい感じの作品でした。

そして、全国を巡回してたその作品が、いよいよ大阪にも来ることに。その絵が展示されたのは、天王寺美術館。少年は、それを見に行かされました。それも授業中に。しかも、2人で。
実は、もう一人、佳作か何かを奪った同級生がいたのです。その少年こそ、美術教室に通い、小学生の頃、少年に取って代わって学校のエントランスに貼り出されていた作品を描いていた少年だったのです。彼は、成績も優秀。しかも、真面目で、熱血漢な感じ。後に生徒会長にもなった(気がする)。
結果的には、彼がいたからこそ、少年の絵は、成長したので、ある意味ではいい出会いだったのでしょう。天王寺美術館に一緒に行けたのは、彼がいたからである。
実際、一人で電車に乗って行けと言われたら、少年はきっと迷子になってたでしょう。そう言う意味でも。

美術館に着いて観て回ると、他の生徒の作品もズラッと展示されていた。同行した同級生は、自分の作品を探すのに苦労していた。でも、少年は、自分の作品がどんなものかは、当然わかっているので、のんびり観て回った。実際、探す気もなかったのです。
でも、少年が驚いたのは、自分の作品が、その他大勢的な場所でなく、ドンと1枚で展示されてたことでした。

しばし、立ち尽くす少年。

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