Web3.0界隈の話題がきな臭いのはどういうことなのか
ここのところWeb3(以下、Web3.0)がTwitterのトレンドにちらほらと上がっています。残念なことにポジティブな観点ではなく、炎上でして下記の本がきっかけになっていました。博士の時はこれらの始祖にあたるP2Pをテーマに修了したのでそれなりに思い入れがある領域であるため、思うところを書きたいと思います。
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炎上の背景を整理する
どのあたりが問題かというのは下記のサイトによく纏まっています。
大筋では下記のようなものが争点になっています。
技術的な解説が誤っている箇所が多い
TCP/IP, SMTP, HTTPがGoogleやAmazonに独占されている
ブロックチェーンでOSを作る
OSとしてはイーサリアムのほうが適している(???)
インターネット界隈では歴史あるメディアであるインプレスから出ていることについての不信感
事態は刊行しているインプレスの目にもとまり、7/23夜の段階では下記のような声明が出ています。
この著者の本で学んだらしい方が「ブロックチェーンでOS」という点についてGoogleのエンジニアに絡むという香ばしい光景がありました。この方は私のところにも少し来たのですが、独学で学ばれているとのことです。「独学ですが何が悪いのですか」と仰っしゃられていたのですが、独学は構わないのですが、内容が誤っているというのが問題です。独学と我流は違います。
過去にある方がテックブログの下書きで「僕の考えた『インターネットってきっとこんな感じ』という天動説みたいな内容を見せられたことがあります。真っ当なコンピュータサイエンスの学部で学ぶことをお勧めしたのですが、それと同様のことです。
自然物に対し、仮説を立てて検証する姿勢は正しいものです。しかしコンピュータやインターネットは人工物の塊なので、紐解いて理解することができますし、相互接続を考えると段階を踏んで理解する必要があります。そこをまるっと丸めてしまうとおかしなことになります。
ただ逆に考えると、コンピュータもインターネットも数多のプレイヤーが積み重ねを続けた結果、すぐに理解するのは困難なほど入り組んでしまいましたし、複雑な割に身近にあるものなので「自然物」と同等の扱いを受けるようになったのかも知れません。いずれにせよ、真っ当なコンピュータサイエンスを開講している大学で学ばれることをお勧めしたいところです。
Web3.0界隈はお金を求めるプレイヤーが目立ちすぎる
Web3.0の議論を見ていると「GAFAがインターネットの情報を牛耳っている状態は許せない」「インターネットを再び自分たちの元へ」という論調の声が大きいです。ブロックチェーンをベースにし、非中央集権型のソーシャルモデルを実現するという点で、レジスタンス的な論調だと捉えています。
プロパガンダとしてのWeb3.0
往時のP2P系の論文の背景では「サーバクライアント型でスケールすることの限界」ということを述べていました。これが中国の研究者あたりの話を聞いていくと「言論の検閲がなされるグレートファイアウォールに遮断されない野良ネットワークとしてのP2P」について熱い視線が注がれていました。義憤みたいなものも時として感じました。本当のビッグプレイヤーに対する体制批判というからにはこれくらいの気概が欲しいところです。
売り抜けたいプレイヤーが多すぎる
Web3.0の場合、プロパガンダとしては反体制的な成立をしているのですが、情報発信者のうち声の大きい人の多くが、上場ゴールを決めた人や情報商材屋、仮想通貨で一儲けした人、もしくは儲け損なったのでリベンジを決め込んでいる人が多いのが気になります。彼らがFIREするための手段としてのWeb3.0に見えてしまいます。その一片が下記のTwitterのトレンドに「Web3」とあったので内容を確認したときのお話です。
P2Pを研究していた一人として、Web3.0が掲げる大義名分は理解できるのですが、これらの大義名分を掲げている人の多くが私利を求めすぎているのが気になる次第です。
Webの残念さとPVの換金モデル
情報が一方向に流れていたWeb1.0の時代から、Web2.0の時代は双方向になったのがポイントの一つです。私はこの点において「ユーザーの声を企業が聞かざるを得なくなった」と話しています。そしてその先には「インターネットとユーザーのお財布が繋がった」とも話しています。
炎上マーケティングや、デマなどが蔓延る現在のインターネットですが、これらを突き詰めていくとPVと承認欲求が原因であると考えています。特にPVと連動することで広告などに繋がり、小銭が稼げるようになったというのは良くも悪くも起きている事象です。YouTubeも同様で登録ユーザーと再生回数を集めることで収益に繋がることから、耳目を集めるための過激なコンテンツが散見されます。
2010年代にアフィリエイト企業に居たこともあり、PVを巡っては色々な攻防を目にしました。2010年代前半には検索キーワードで芸能人の名前を入れると「ひたすら当該芸能人の名前だけがリンクで貼っており、延々とたらい回しにされるタイプの情報が一切ないアフィリエイトサイト」が溢れていました。その後、Googleによるアルゴリズム改修と、アフィリエイト企業の監視により改善されました。現在でもSEO対策などは一つの市場になっています。現在では、検索にヒットすることを主目的にした検索キーワードだけそれらしく並んでいるサイトが溢れていますが、今後もこのPVを巡る攻防は続くでしょう。
どうせWeb3.0を掲げて「民衆の手にインターネットを取り戻す」のであればこのPV信仰にメスを入れることによって根本的に民主的なインターネットに改善されるのではないでしょうか。
P2Pで解決しきれなかったフェアネス
当時のP2Pの世界ではフェアネスが研究テーマの一つとして存在していたのですが、配送網としてリソースを提供するからには対価がないと配送を担ってくれるノードが居なくなってしまうというので、そのためにどのようにアプローチするべきかというものでした。
日本国内だとWinnyやWinMXが有名だったP2Pですが、当初の目的としては「メディア配信企業に頼らずとも自力で自分のコンテンツを発信できる」というものでしたが、実際のトラフィックを見ると違法ソフトウェアと著作権違反コンテンツ、アダルトで支えられていました。下心によって成り立っていたネットワークとも言えるでしょう。
Web3.0ではトランザクションバリデータに作業対価を支払おうという話が入っているので、いくらかフェアネスには期待できそうです。
やや違う話題ですが個人的にはCoinhive(Webサイトにアクセスした閲覧者がJavaScriptで仮想通貨のマイニングをする)などはコンセプトとしては等価交換のような形で好ましく感じていました。コンテンツを提供する代わりに計算機資源を差し出すというのはきちんとユーザーに断った上であればフェアだと感じます。Coinhiveは無罪判決にはなったものの、特に日本のメディアの反応などを踏まえると、純粋に大衆には向いていないように感じています。
フリーミアムが浸透しきった現在に置いて、大衆が何かを対価として支払うのかというのは厳しいのではないかなと感じます。よくアプリなどにある「30秒広告を我慢して見る」というWeb2.0的な解決は視覚的な分かりやすさもあり、少なくとも現状では妥当な着地なのではないでしょうか。トランザクションバリデータのような考えを大衆が受け入れるかどうか注目しています。
情報商材型のお金の集まり方の一般化
インターネットには色々なお金の流れができています。その中でも信者ビジネスとも言える情報商材による階層の浅いマルチ構造による集金システムは残念なことに一般化してきているように感じます。
Web3.0は非中央集権型自律組織が基本なので、ビッグプレイヤーは産まれにくいですが小さなコミュニティが作りやすい特徴があるでしょう。これと情報商材は実は相性が良いのではないかと心配しています。Web2.0であれば情報を管理している事業者を叩けば効率的に是正できたわけですが、Web3.0では草の根になっていくためいたちごっこになる可能性があります。信者ビジネスはしやすくなることが予想されるため、注意が必要でしょう。
弁証法とキャリア
NFT屋さんからの取材で「お金を求めすぎるプレイヤーが多い」と話し、そのまま記事にしていただいたのが下記です。何度か担当の方に「この内容で良いんですか?」と確認した一本ですので是非合わせてお読み下さい。
こちらのコンテンツでも紹介したのが下記の一冊です。哲学の世界で物事はらせん状に発展していくという弁証法というものがありますが、キャリアや技術トレンドにも応用できるものだと捉えています。特にIT業界についてはトレンドが高速に移り変わっているため、過去に学びつつ予測をしながら自己のキャリア選択をしていくことが有用だと考えています。
活字化の「責任」
私も先立って本を出したわけですが、活字にして出版物を出すというのは責任が求められるものだと感じました。後世に残るという仰々しいお話もあるのですが、Web媒体と違って後から修正パッチを出したり謝罪を出しても早々に取り消せないのが大きな違いです。物理パッケージのソフトウェアと同じくらい改修が面倒です。表現の自由という大きな防御壁はあるものの、責任は感じますね。あ、厳しく見て下さいというわけではないです!お手柔らかにお願いします。
先にお話したITエンジニアのキャリアを俯瞰するための一助にもなる一冊だと思います。発売記念セミナーもございますのでどうぞ。
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