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たっぷりした間の編集〜『悪は存在しない』感想(ネタバレあり)〜

(以下、映画『悪は存在しない』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)



石橋英子のライブ用サイレント映像と共に生まれたというユニークな成り立ちが、この映画の自由でありながら確固とした世界観を持つ様にしっかりと反映されていたように感じました。

映画が始まってからしばらく、ものすごくゆったりとしたテンポ感に少し戸惑いましたが、この、まるで水挽町(みずびきちょう)での暮らしを観客に体験させるかのようにじっくりと見せる編集が、映画の後半で活かされていると感じました。
例えば、小坂竜士演じる高橋が、一回だけ薪割りを体験しただけで「自分の居場所はここだ!」と思いこみ、滔々と巧(大美賀均)に語るシーンです。前半で、我々観客は巧が延々と薪を割るシーンを見てその作業を追体験しているからこそ、「お前、数回斧振っただけで調子乗ってんじゃないぞ。」と怒りを覚えることになります。
さらに高橋は、車の中で10秒程考えてグランピング場の管理人になることを決めたり、お蕎麦について「体があたたまります」とトンチンカンな感想を言ったり、グランピング場を建てたら行き場を失うであろう鹿に対しては「どこか他所に行くんじゃないですか。」と呑気すぎる考えを披露するなど、水挽町のことを全く考えない自分中心の言動を繰り返すわけですが、そういった高橋の一つ一つの身勝手な言動が、前半で水挽町の自然をたっぷりと味わった観客には許し難いものとして映るわけです。

また、このように、観客が水挽町の住民に感情移入できるように作られていながらも、水挽町が善、グランピング場が悪、という単純な二項対立に陥っていない点も印象的でした。

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