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人口減少社会における川崎の未来年表を考えよう。

人口と財政から都市を読み解く都市経営プロスク読書部の研究記事第2回ということで、課題図書である「未来の年表」と「未来の地図帳」(共に河合雅司氏著)を読みながら、川崎市の未来に想いを巡らせてみたいと思います。

なお、前回の現状分析記事はこちらです。

有無を言わさぬ"再"構造破壊が迫る日本社会

国立社会保障・人口問題研究所の「2020年版人口統計資料集」によると、江戸時代の日本の人口は凡そ3,000万人程度で安定的に推移しています。しかし、明治期に入ると人口は急激に増加。1900年の人口4,300万人に対し、最も人口が多かった2010年はその約3倍である1億2,800万人にまで増加しています。まさにこの100年ほどは前代未聞の社会変化の時期であり、過去の社会構造が有無を言わさず破壊され新しく組み立てられてきたわけです。

さて何とか出来上がった新しい構造で安定してくれればよいのですが、残念ながらそうもいかないようです。人口推計では2065年には8,800万人まで人口が減ることになっており、最大だった2010年の1億2,800万人からは50年ほどでなんとまた3割も減ってしまいます。

「出生率の向上による少子化対策を」という意見もありますが、もはや出生可能な女性数も減少しています。また、減った人口を外国人の流入で全て埋め合わせようというのも現実的ではないでしょう。人口減少という現実を避ける術はもう存在しておらず、いかにその未来に適応していくか、という道しか残されていません。

つまり、私たちはこれから、せっせと適応し作りあげてきた「人口増加期の社会構造」をさっそく破壊し、「人口減少期の社会構造」へ急速にシフトすることを迫られているわけです。

2030年:穏やかな人口減と急速な高齢化による財政逼迫がはじまる

前回も掲載しましたが、川崎市の将来人口推計では2030年から川崎は人口減少が始まると予測されています。とは言っても、日本創生会議によれば2040年には896もの自治体が消滅可能性都市に該当するわけですから、それに比べれば非常に穏やかな人口推移と言えるでしょう。

将来人口推計

一方で問題なのは、高齢化が急速に進行するということです。既に高齢化が行くところまで行っている地方部と異なり、現役世代を多く抱える都市部はこれからまちが老けはじめるのです。この人口推計でも、2020年の65歳以上人口比率32.2%に対し、2030年は37.5%、2040年は45.8%となっています。

また、以下の「今後の財政運営の基本的な考え方」では2027年までの川崎市収支(市費負担分)推計値が出ていますが、高齢者福祉の市費負担は10年で283億円から405億円に増加します。障害者福祉についても同様に増加していますね。

収支フレーム(高齢者福祉)

高齢化がさらに進展する2030年以降は、これら費用のさらなる増大が想定されるうえに、併せて総人口及び現役世代の減少による税収減も考えられるのです。おそらく財政は逼迫し、じりじりと行政サービス撤退領域の大胆な意思決定に追い込まれるでしょう。残念ですが、根本的な人口構造の変化についてもはや打つ手がない以上これは避けがたいのではないでしょうか。

国政レベルの隠れリスクがより顕在化か

ところで、川崎市の「財政読本」にある説明を見ると分かる通り、実は市の収入のうち国・県支出金が全体の22.3%を占めています。これはつまり、国や県の財政状況が市の提供する行政サービスへも影響を及ぼし得ることを示唆しています。

特に福祉関係のような法律で市に実施義務のある事業は国・県支出金も何割か含まれていることが多く、そのため例え川崎市が恵まれている緩慢な人口減少をソフトランディングで乗り切ったとしても、法律上も異なる組織である国や県の財政状況に市のサービスの安定性が左右されてしまう可能性があります。

収入構造

さらに少し想像を膨らませれば、国の立場からしたら、「いかに元気な都市部からカネを抜いて地方にバラ撒くか」というのがより強力な政策課題として検討される可能性も高いでしょう。良い悪いはさておいても、地方部が消滅していく以上、現実的にはある所から捻出するしかないですからね。

また「令和2年9月1日現在選挙人名簿及び在外選挙人名簿登録者数」を見ても一票の格差は2倍を超えており、合意形成の面で都市部は不利とも言えます。国政レベルでは都市部に比較的冷淡な意思決定が続く可能性が高く、それは川崎市の自治体経営リスクに直結するでしょう。

もちろん本来は、都市部と地方部はもちつもたれつなので、対立構造にしても意味がないのですが・・・

2040年:高齢化に苦しむ間に非合理構造を振り払った地方部がライバル化?

2040年頃は高齢者数が4000万人弱と最大化することが予想されており、高齢者福祉の需要が日本全体で最も逼迫すると考えられます。

川崎市でも引き続き高めの土地価格のなか介護施設等の整備を強いられつつ、確実に減少するであろう税収という限定的な資源の中で、肥大化の止まらない福祉事業の取捨選択の合意形成に苦しむことになるでしょう。

たっぷり費用をかけて充実した福祉を実現しようとすれば、現役世代の可処分所得をゴリゴリ押し下げ経済が停滞してしまいかねません。一方、切実に福祉を求める高齢者が実際に最も票を持つというのも避けがたい事実です。悲しく不毛な世代間対立がさらに激化し、また気休めに別の悪者を探しつるし上げようとする政治リスクが上昇するかもしれません。

そのころ地方部では、前述のとおり消滅可能性のある自治体が896あるとされています。中にはそのまま消滅に向かう自治体も多くあるでしょうが、一部は危機の中で旧来的な非合理構造を自己破壊し、再生に向かう自治体が出現するかもしれません。

極端な人口減によりもはやしがらみすら消滅し、徹底的な行政サービスカットによって非効率的な公共インフラ負担から解放され、安い土地代をふんだんに使った高付加価値産業を持つ地方部が生まれてきたとしたら?

きっと、都市部で増大する福祉への負担で可処分所得を取り上げられている現役世代は、そういった有望な地方部へ移動をはじめるかもしれません。そうなるとここではじめて東京一極集中の時代が終わりを告げ、都市部は老化に苦しむ中で、若い地方部との競争を強いられることになるかもしれませんね。

子どもたちのために公共施設整備は熟慮を

ところで、とかく地域要望では公共施設整備を求める声も聞こえます。しかし人口増加期ならばともかく、人口減少期ともなればこれは非常に注意深く進める必要があります。

建物というのはその費用を建築費のみではなく、建った後の管理から除却までの総費用であるライフサイクルコスト(LCC)で見なければいけません。このLCCはなんと建築費の3~4倍にもなるのです。

人口増加期であれば新しい公共施設を作ったとしても、将来人口も増え一人当たり負担額はだんだんと減っていきますが、人口減少期ではその逆です。今作ったものがどんどん後の世代の負担として大きくなっていきます。

そのため、「これからの地域を良くするためによい公共施設を!」という考え方は、結果的に自らの子や孫世代を苦しめてしまうかもしれません。(むしろ、「子孫のために施設を残さず」ですね。)

引き続き必要な公共施設についても、これからはコンパクトで多目的、営利と非営利の境界があいまいで、維持管理費を自ら稼ぐ力を持たせることが大切ですね。

社会的処方と資源としての空き家

こんな未来のストーリーを想像したとき、どんな対処法がありそうでしょうか。

都市も地方も共通のこととしては、孤独への対処などで健康寿命を延ばし社会保障費を抑制する「社会的処方」が考えられますね。

一方、都市部ならではのポイントとしては、人口密度が比較的維持されながらも空き家が増加していくという点に注目してみます。

川崎市空家等対策計画」を見ると、現状人口増が続いている川崎市では空家率は全国平均より堅調に低い水準でありながらも、空き家の絶対数は増えているという現象が見られます。

空家数と率

現在人口が増えていて地価も上昇しているのに、なぜ空き家が増えるのでしょうか?その答えは下のデータが示唆しています。

所有関係別建て方

要するに、新しく持家・借家共にマンションなどの共同住宅が増えており、まちのトータルの床面積が上昇しているため、人が増えていながらも空き家が発生していると考えられそうです。

空き家は治安面などで社会問題として語られますが、むしろ都市の資源とも言えるのではないでしょうか。築年数の古い空き家は新築に比べ低額の投資によるリノベーションでの起業を容易にします。さらに周囲は共同住宅の住民で高い人口密度が維持されており、しかもその住民は東京の職場からそれなりの世帯収入を得ていたりするわけで、ちゃんと訴求できるサービスを提供できればまちの内需も豊富です。

よいサービスが増えればよい雇用も生まれ、都市の生活は豊かになり、再生をはじめた地方部に対しても都市ならではの付加価値を提供できるかもしれません。

そのためにも、しっかりマーケットに訴求し民間資金で運営される事業と、都市の中で持て余されている空き家とのマッチングが重要になってくるでしょう。

と、こんな未来年表を描いてみました。よかったら皆さんのお考えも聞かせてくださいね。

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