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ケダモノなのかよ!! 


「ガルルルルルルルゥゥーーーー」

血肉に飢え、ヨダレ的な液体をダラダラと惜しみなくたらし続ける野生のケダモノから発せられている呻き声、では無い。

そう、私の腹部からの切実過ぎる声無き「SOS」である。


いつもと同じ、定刻通りに自宅を出発し、ほぼ定刻通りに地下鉄の駅に到着し、定刻通りのいつもと変わらない時間に電車が発車する。


ここまでは当然の事ながら全くのノープロブレムである。


がしかし、2駅過ぎた辺りからどうも私の腹部に暗雲とまではいかないが、雲ひとつ無かった青い空にうっすらと雲がかかり始めたのを自覚する、そう、それはまるで富士山の初冠雪の様な、あくまでも「うっすらと」である。


3駅過ぎ、4駅過ぎた頃には、私の富士山の積雪量はウィンタースポーツで「ヒャッハー」と、出来る位には積もり始めており、依然力強くコンコンと降り続いている。

「止まない雪は無いじゃない」



が、しかし止まない便意は確実に今ここにある、まさに今ここにある危機なのである。


東映の映画のオープニングの様な、黒鯛とかが釣れそうな磯からの視点で、「ザッバーーン」と、寄せては返す、そして返しては寄せるを繰り返すこのポリリズム……


ふと思った…


全ての与えられる苦しみに耐えるのでは無く、定期的に毒ガスを抜けば職場の最寄駅まで延命できるのでは無いのか???


ポリリズム、では無くもはや完全なるテロリズムである。




繰り返すー、このテロリズムー!!


悪魔的計画!!


「dead or arrive」


生き残るのは誰だ!!


「ダダッダッダダ」



「ダダッダッダダ」


スリー……


トゥー……


ワン……


ゼロ。


発射


音の無い世界


「スゥッッッッッッ………」


熱い、焼ける様に猛烈に熱い、私の富士山の噴火口という名の「KOUMON」から発射された毒ガス…


少しばかりの時を経て、そこはかとなく漂ってくる私が満員電車に解き放った鼻腔を刺激する毒ガスの香り、では無く「かほり」……



「誤射!!!!」


アカン!死ぬほどクサイ!!!!


熱すぎる「KOUMON」と相反する様に冷静を装うクールな顔面、言うならばコタツでアイスを食べるとか、真冬のマラソン大会の直ぐ後に温かい豚汁を食べるとか、はたまたダウンジャケットを着ているのに足下はクロックスのサンダル、とかそういった類いの関係性である。


満員電車の周囲の乗客の顔に広がる困惑、「ぶっ放したの誰やねんコラボケ!!」という怒りにも似た猜疑心的な空気感。


心の中での告白………(湊かなえ)


「すみません………私がやりました」………



完落ち…


両手を後ろに回し、手錠で拘束される様にリュックのハンドルを掴み、表面張力ギリギリの「KOUMON」と共に無言で利き足とは逆の左足から何とか最寄駅に降り立つ私………


いつもと変わらないホームを少しだけ早足で歩き、階段をひとつ飛ばしで上り、地上へのコンコースをオリンピックが狙える位の競歩で通り抜け、地上に出たら落武者の様なガサツ過ぎる走り方で職場へと走り抜け無事にUの字を描いている洋式の便座に着座!!!


そして………


「ビッグバン!!!!」


辛い物には気をつけようと思った。










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