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僕と悪霊達@アンリマユ誕生秘話1

自らの特殊能力を自覚した私は直ぐに試練の到来を予感した。本来なら気づく事なく生きて行ける力を自覚すると言うことは、普段からそういう力を必要とする生き方をしてると言うことだ。

そんな環境で生きてる為に普通の人が目覚めない力に目覚める。

それはチーターに追いかけられた鹿が、命懸けで走り抜け続けた先に知り得る自らの逃亡力の高さみたいなものだ。


自分が作り出した妄想だと思っていた世界や事象を、全く同じように観測している存在が居ることを知った時に、私は嫌な予感しか感じなかった。

別に自分の頭の中にある世界を誰かと共用してた事に嬉しさを感じる事はない。妄想と現実の区別が付かなくなる脳の病気じゃなくて良かったと言う程度の気持ちだった。

私が霊的世界観を認識して、論理的に考察観測を繰り返し、ついに納得した。その存在を受け入れたからには、その新たな世界観での戦いが待っている事を瞬時に予見した。


例えば体調がすぐれないだけで済んでた事象を医学の知識がある医者が見れば、原因を探り治療できる。変に治療という選択肢を持っている事から諦めることが出来ず回復方法を模索することになるだろう。

同じ様に、別次元の存在を認知した私は、この次元からの救済方法を模索せずには要られなくなるだろう。目の前で大切な人が苦しんでいて、この新たな世界観からのアプローチで救える確率が少しでも有るのなら私はきっと行動を起こす。

その時に、自分の知識や経験が足りずに、救う事が出来なければ後悔し苦しむのは自分自身だ。


私は自らの能力を高める為に、天草四郎や小西行長が密かに守り続けた密教の除霊方法を体得する為に研究を始めた。





私は莫大な精神力を持ち、霊体に恐怖を感じることはなかった。むしろ自分自身が生きた悪霊のように、人を殺す衝動に駆られることがしばしばあった。心配なのは誰かに危害を加えられたり害される事ではなく、自分が他人を害さない事だけが心配事だ。


銃火器や爆発物、毒物、さらには覚醒剤を作り出す能力を持ち、その気になれば国家の中枢を麻痺させる具体的な計画まで頭の中に描いていた。そんな私に、悪い妄念が大量虐殺を決行するよう何度も誘惑してきたが、私は拒絶し続けた。強硬手段で革命を起こしても、それは長い人類の歴史における単なる一乱に過ぎない。そんなことのために自分の命を使いたくはなかった。

私は心の中でいつも思っていた。私がその気になれば、今の生活を容易く破壊でき、この国の全ての人間を恐怖と混沌に陥れることができる。それだけの力を持ちながら、みなの生活を脅かさないように自制している自分に感謝せよと。





子供のころから、私は自らを一種の悪霊のような存在だと認識していた。聖書や仏陀の教えにあるような悪魔の囁きは、私にとって馴染み深いものだった。

それは実際に悪魔が囁くのではなく、自分自身の心の奥底から生じる、邪な選択肢を示す考え方だった。私は様々な選択肢を想像し、その結果を予測して行動することで、自分の思考が正しいかどうかを確かめてきた。これは一種の未来予知に似た行為だった。

この行動を繰り返すことで、避けられない運命のようなものが存在することに気づいた。人生にはどんな選択をしても避けられない出来事が訪れる。そして、今回別次元の認知に至ったのも、そうした運命の一部だと私は直感した。





昔は一定数の悪霊が私に取り憑き家までついてきた。部屋中に音を鳴らし眠る私に襲いかかってくる。私は奴らを殴りつけ自身の凶暴性を満たしていた。

その頃の私は悪霊との戦いを一種の遊びとして楽しんでいた。


ある日、私は墓石が高く積み上げられた塔がある場所に導かれた。ボロボロに砕けた無数の墓石が一つの大きな柱のように積み上げられていて、墓石の墓場のようだった。

私はそこで、特に手を合わせたり拝んだりすることもなく、ただその雰囲気を味わっていた。その場所は夜のように暗く、妙に寒かった。

不思議なことに、男女の悲鳴のような声がたくさん聞こえてきた。しかし私は、怖いという感情も湧かず、まるで廃墟を観光するようにそれを眺めていただけだった。





私が寝ていると、天井を覆う黒い肉で出来た物体が寝ている私を上から見下ろし迫って来た。大きな目が何個かある様にも感じたし無い様にも感じた。

私は動くことが出来ず、ものすごい勢いで体力が消耗している事が分かった。だが死ぬ事に恐怖を感じていなかった私は悔しさだけを感じた。

これはまるで、山奥のキャンプで寝ていると、目を覚ますと熊が顔を舐めているような状況だった。戦う手段があればいいのに、何もできずに喰われるのかという無念さを感じた。


ついに悪霊は私を飲み込もうと無数に生えた針のような歯がびっしり生えた口を開け、私を噛みちぎろと歯を突き立てた。

私の体を貫通する無数の針の痛みを感じながら、私は血を吐いた口で目の前にあった奴の巨大な舌を噛みちぎり食べた。グチグチャと肉を噛んで飲み込むと私の傷は癒え噛みちぎりられた下半身がはえたのが分かった。

奴の口内で復活を果たした私は奴の口の中で暴れ回った。手当たり次第に肉を掴んでは引きちぎり食いまくった。


私は奴を一遍残らず食い尽くし戦いに勝った。その瞬間に私の体は大きく膨らみ強大なパワーを得た事が分かった。

私は自分が何処まで強くなれるのか挑戦したくなり悪霊を探す旅に出た。常に悪霊を探し憑依してきた者を喰うては力を高めた。

中には降参して配下になる事を望む悪霊もいて、私は彼らを体内で複数飼っていた。飲み込み身体の一部として滅亡させる者と、自らに取り込み共存する存在を判別して共存した。


私にとって彼らは腸内細菌のような者で、壊したいものを一緒に壊そうと言う共通の利害のもとで肉体を共有した。取り込んだ悪霊の数が多くなりすぎ人間としての私の存在と彼らとの境界はなくなっていた。

私と言う存在そのものが無数の念の集合体で運用されているが、それは民主主義ではなく君主制だ。

私の体内にいる悪霊は、私より全員弱いので私の支配下にあるが、彼らの影響がどの程度自分の人格や選択に作用しているのか自分でも判らない。




そして、気付いた時には憑依してくれる悪霊も居なくなっていた。奴らも人間と同じように、心優しく弱そうな人に取り憑いては自分の思い通りに操ろうと目論むのだろう。

私は悪霊からも嫌われ、いつしか霊の存在を感じる事も無くなっていった。

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