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階段に座ってる少年

マンションの非常階段に少年が座ってる。いかにも少年が脚をブラブラさせながら座ってるのが似合う階段だから、自分の妄想だと思いながらも気になってた。

何度か玄関を開ける時に、部屋においでと手招きしたけど彼は来なかった。

やっぱり自分の空想なんだろうと思いながらも、家を出る時と帰る時に、気にするようになってた。

彼はだいたい居るけど、居ない時もあった気がした。はっきり見えてるけど、そんな所に少年がいる訳がないと言う考えが邪魔をして、自分が想像して生み出してる存在だと感じてた。だから気には、なるけど構ってる暇もないし、なんだか影のように当たり前に在る現象のように感じて関心を持つ事があまり無かった。





在る時、エレベーターに乗り扉を閉めようとすると何者かが扉を開けて入って来た。私には良くある事で余り気にしてなかった。

ピッタリと私の後に着いて来てるのは、何となく悪い女で、私に敵意を持っているのだろうと感じた。エレベーターを降りた先に有る非常階段を何気なく見ると、少年が心配そうな眼差しで「その人は危ないよ」と語り掛けて来たような気がした。私は「大丈夫だよ」と簡単に礼を伝えて、玄関を開けて彼女を招き入れた。

私の部屋には仏壇と神棚が有り、御供え物もきちんとしているので、憑いて来た女性に「どうぞ遠慮なく部屋に入り食べてください」と伝えたが彼女は玄関から中に入ろうとはしなかった。

無理強いする気も無いし、朝になればいつもお勤めで経を読んだりしてるので、朝になったら話を聞く事を、女性に伝え私は眠りに着いた。


女は初めから私の寝込みを襲う気だったらしく、深夜に突然水道管が破裂したような衝撃と轟音が鳴り響き、大きな貯水槽をひっくり返し、地面に大量の水が叩き付けるような足音を響かせ私が寝てる寝室へと迫って来た。

あまりの衝撃に、地震かなんかが起きたのかと思った。しかし、足音以外に何の音もしない。近隣住民が騒いでる様子が全く無いことから霊現象だと直感した。霊の仕業とはとても思えない大きな音や衝撃に驚いたが、怖いとは感じなかった。

私に霊と戦う使命を与えたのはヤマトタケル。そもそも数多の神と戦い、最後は油断して武器を持たず山の神と戦い負けた。死ぬまで人間の為に戦い続けた英霊だ。

そんな闘神が、私に大いなる災を祓えと使命を与えたくらいだから、悪霊どころじゃなく、いずれは神々と戦う事になるのだろうと予感がしてた。

私は女に伝えた。明日まで待ってくれれば精一杯の事をして、アナタが成仏出来るように全力を尽くす。しかし、私を襲う気ならこの世界から消滅させると伝えた。

女は怯む事なく私に近づいて来たので、彼女の手足を切り落とした。彼女はダルマのように転がった。私は彼女に覆い被さり食べようと口を近づけた。彼女は幾つもの思念が固まった存在のようで、その中で最も念力の強い霊体を女体から剥がして食べた。

残りの思念は涙ながらに命乞いをしてるような気がしたので、私に取り憑く事を許した。その者達は私と共に今世を生きる者も居るだろうし、毎日行う供養の過程で成仏する者も居るだろう。

それまでは私と同居するだけだ。そう言う存在は私の中に常に何体も居る。





この日は朝から大雨だった。昼前に仕事に向かう為に、家を出た。何気なく階段を見上げると黄色い雨具を着た少年が居た。私が「大丈夫だったよ」と伝えると彼は嬉しそうに笑って、何かを伝えようとしてた。

私は急いでいた事も有り、彼を無視するようにエレベーターに乗った。私には、彼が何を言おうとしてるのか良く分からなかった。どうせ自分が産み出した空想なのだからと気にも留めてなかった。

その日から非常階段には誰もおらず、ただ風が通り過ぎる音だけが聞こえる。

彼が見えなくなって初めて、私は彼が実際にそこにいたのだと感じた。空想の中の人物なら、いつでも思いのままに姿を浮かべることができる。けれども、彼はもう二度と私の前に現れない。それは彼が実在したこと、そして、今は本当にいなくなってしまったんだと感じた。





全て私の勝手な予想なのだが、彼のお母さんが、私の元に来た女性の一部だったのだろう。

毎日、朝晩に経文を上げながら供養する中で、子供を残して亡くなった女性の無念が成仏した気がした。きっとそれが少年の母親で、彼は母親と一緒に遠くに行ったんだと感じたんだ。

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