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不健康なバターと10月特有の揺らぎ


私は毎年10月になると、ちょっと気持ちが不安定になります。

その理由をnoteに書くか、書かないのかはとても迷いました。

私にこの話を書く資格があるのかは、よくわかりません。書きたい気持ちがあるのだけど、こんなプライベートな話をSNSに載せるなんて「常識ないんか」と思われるかもしれません。

でも、思い切って書いてみよう。2022年だし。

書いてみてから、考えよう。

そう思って、書いています。

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8⃣ - A 2017年11月

Previously on Majimena Butter前回までのお話

2017年は、とても良い年だった。

理想のバター現在の夫に出会えて、遠距離だけれど、交際も順調だ。

日々の些細なことでもメッセージで報告し合ったり、写真を送り合ったり、たまに電話をして。

彼氏がいるって最高。

去年の今頃の私は、失意のどん底にいたのに。

今の私、すごいじゃん。1年でこんなに幸せになれるもんなんだ。よくここまで頑張ったよ(大したことはしてない)。

母にジョンと別れた話をした時は、「あんた薄情な子やね」と言われた。父の闘病生活を支えた母の目には、私は薄情に映ったようだ。

グラホ時代の先輩には、「〇〇(私の本名)ちゃんには未来があるけど、キャプテン(ジョン)は病気なんだし、終末に向かっているって感じだから、別れて良かったんだよ」と言われた。

そうだ。本当に申し訳ないけれど、別れて本当に良かったんだ。

あの件があったから、理想の相手とも巡り合えたんだ。

彼氏がいる自分って最高。

これまでと変わらない繰り返しの毎日が、100万倍くらいいいものになった。

ある夜。

Gmailの受信ボックスに、知らないアドレスからメールが来ていた。

でもメールの件名が、ジョンの名前だった。

メールを開くと、ジョンの弟からのメールだった。

「10月××日に、ジョンが他界しました。」

すぐには受け止められない事実が書かれていた。

「ジョンはあなたをとても大切に想っていましたよ。あなたを闘病生活に巻き込むのは申し訳ない、といつも言っていたんです。」

携帯を持つ手が震えて、涙が波のように押し寄せてきて、嗚咽が出るまで泣いた。

メールだけで言われても全然リアルじゃないのに、心が痛くて、苦しくて、驚くほど涙が出た。

本当に死んじゃったんだ。

数日後、彼が愛したハワイの海で、彼を忍ぶ会が執り行われるそうで、私にも出席してほしいと書かれていた。

彼を見送るべきか本気で悩んだけれど、いけなかった。

私には自分を最高に幸せにしてくれる彼氏もいるし、仕事のシフトだって決まっている。きっとお葬式には元カノも来ているだろう。

今更行ってどうする。

それこそ本当に薄情だったとは思うが、申し訳ないけれど、お葬式には行けませんと返信した。

胸が張り裂けるような思いです、とありきたりな哀悼の言葉も添えたと思う。

こういう時、自分の気持ちを100%表現できる言葉を知っていればいいのに、といつも思う。彼を想っていた気持ちは、誰にも負けなかったのに。自分の語彙力のなさを本当に恨む。

Facebookには彼への追悼ページが設けられ、多くの人が写真やコメントを投稿していた。

そこに一匹の犬の写真があった。

首輪には「僕悪い子だから、おうちを飛び出してきちゃったんだ」と書いてあった。

まだ彼と付き合っていた頃、彼がシェルターで引き取った犬だった。

「本当は猫が良かったけど、君が猫アレルギーだから」

そう話してくれたのを思い出した。

そのわんこは、新しい家族と暮らすことになったようだ。

それ以外は、私が知らない彼の写真ばかりだった。

いろんな人が、いろんな愛の言葉や感謝を述べていた。

私は彼との思い出の品や、写真を全て処分していたので、もちろん投稿なんて何もできなかった。

彼が亡くなったからって、彼との思い出の全てを美化できず、「素敵な時間をありがとう」といえるほど器の大きい人間にもなれなかった。

出来損ないの私。

そして、いつの間にかもうそのページさえも見なくなった。

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5年以上経っても、結婚しても、10月になると彼のことを想い出します。

そして、彼が亡くなった10月には、少し不安定になってしまいます。

彼は聖人ではありませんでした。自分の欲望に素直で貪欲な人でした。彼のそんなところに惹かれたのです。

結婚はしたくない、子供はいらないと言っていました。

そんな人と今でも一緒にいたら、私の人生大きく変わってただろうな。

「もっと他にできることがあったんじゃないか」って頭の中で巻き戻しボタンを押して「たられば」ばかり妄想してみるけど、あの時の私に一体何ができたんだろ。

やり直しができても、私はきっと同じ「薄情な」選択をしたに違いないでしょう。そしてその決断には意味があったんだと信じています。

ご清読ありがとうございました。








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