健康的なバターに出会う前
2️⃣ 2014年6月
グランドスタッフとして働いていると、必ず聞かれるのが、
「パイロットと付き合ったりできるの?」
という質問。
パイロットは多分モテる。
どんな人でも、あのユニフォームを着て、コックピットと呼ばれる小部屋で何百個とあるボタンを前に、何やかんやと英語で話していたら、「かっこいい…♡」と誰でも思うだろう。
でも、パイロットは注文が多い。
クルー用の食事に入った、グリンピースを抜いて欲しいとか。
タバコを吸いたいから、喫煙所までアテンドしてくれとか。
誰を呼んでこいとか、あれ持ってこいとか。
俺を待たせるなとか。
その他いろいろ。
飛行機という小さな王国の王様的存在で、パイロットの言うことは絶対。
あの王様っぷりを日常的にやられたら、たまったもんじゃないと思う。
ただ、それは何年か働いてからこそ分かることであって、2014年当時の私には、それがわからなかった。
ただ漠然と、パイロットとの恋愛に憧れがあった。
グランドとして働きだして2年目。ついに私にもその時が訪れた。
出発便の機側にいた時、あるパイロットに声をかけられた。
背が高く、あのユニフォームを着てたもんだから、割とイケメンに思えた。Dexterに出てきたFBI捜査官の人に似ていたので、かなり年上だったと思う。
SHOWTIME公式サイトよりhttps://www.sho.com/dexter/season/2/episode/10/theres-something-about-harry
彼は、「君スタイルいいね」と下心満載で言ってきた。※スタイルは全く良くない。
私は緊張で固まってしまったが、彼が続けて「連絡先教えて」と言ってきた。
それから何とか自分のメールアドレスを付箋に書いて渡すと、彼は笑顔で去っていった。
その日は、一日中浮かれて過ごした。
「もしかして、私この人と結婚する?」、「え、そしたら超金持ちじゃん。」、「一生働かなくて済むかも」などなど、何とも生産性のない浅はかな妄想ばかりを繰り返していた。
しかし、待てど暮らせど、連絡が来なかった。
一週間経ってもメールが来ないため、なぜ彼が連絡をくれないのかと考え始めた。
しばらくして、気づいた。
「あ、渡したメールアドレス間違ってた。」
…。
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