福祉施設で作られた製品を買うことで
「福祉施設で作られた製品を買うと、作っている障害のある人たちのためになる」と、殆どの方はなんとなく理解はしていると思います。
でも、福祉の分野に携わっていないと”なんとなく”以上を知る必要も機会も無いのではないでしょうか。
しかし、自分が取る行動が社会的にどのような意義があるのか、それが具体的にどんな効果を生む事なのか、知ることは無駄では無いと思います。
マジェルカでは、皆さんに行動の機会を提供する立場として、それが何をもたらすかという情報をもっと提供していくことべきと考え、今あらためて少しだけ詳しくその辺のお話をしてみようと思います。
作業所製品が売れた場合、その利益はどこへ
福祉施設で作られた製品を買うことは、その製品を作っている障害のある人たちの収入を生み出します。
と、ここまでは“なんとなく”でも皆さん分かっていると思います。
ここで、主に障害者施設の運営を中心に、障害のある人たちへの支援を定めた法律「障害者総合支援法」に規定されている一文をご紹介します。
福祉に関わっていないと少し耳慣れない言葉もあると思うので、理解の為に以下簡単にご説明します。
そして、要するにこの規定が言っているのは、
製品の売上げから必要経費を引いた分、いわゆる”儲け”の全ては
利用者に支払わなければならない
ということ。
注目したいのは以下の2点です。
全てを施設利用者に支払うという点
製品の売上げから必要経費を差し引いて生まれた利益は、その全てを利用者の工賃とするルールになっており、その他に充てる事は原則認められていません。必要経費が何かという点
ここでいう必要経費というのは、主に材料代など、製品を作る事や売る事にかかった費用のことです。
注意したいのは、この経費には施設スタッフの人件費や家賃等々といった施設運営にかかるものは含まれません。
(そもそも、それら施設運営にかかる経費は、国や自治体などから施設に対して毎月支給される「給付費」からまかなわれる事になっています。)
ということは、
仮に、製品がたくさん売れたり、それなりの値段で売れれば利益が多く出て
利用者はそれだけ多くの工賃を手にする事が出来ます。
しかし、スタッフのお給料が上がったり施設運営が潤うことにはなりません。
(工賃をたくさん払えている所は給付費が増える仕組みもあるのですが、今回の主題にあまり関わらないと考えるのでそこの説明は省きます)
逆に言うと、製品が全然売れなかったり、安い値段で売ることで、利益は少ししか得られず、その結果、利用者はわずかの工賃しか手に出来ないという影響を受けます。
それに対し、施設スタッフのお給料が下がったり、それが直接的な理由で施設運営が傾くといった影響を受ける事はありません。
安く売られている作業所製品の影には
さて、皆さんの周りで売られている作業所製品は、皆さんの目から見て「妥当な価格」で販売されているでしょうか、それとも「安すぎる」と感じるものでしょうか。
ここまでの話を読んだ方ならお分かりになるかと思いますが、もし「必要以上に安い」とか「もっと高くても良いのに」と感じるものだとしたら、その値段は、障害のある作り手にとって、それが「妥当な価格」で売られていたなら得られる工賃を手にする機会が奪われる事によって成り立っていると理解できるのではないでしょうか。
その安さは、必ずしも福祉施設の”企業努力”によるものではないのです。
下の図は、販売価格が変わる事でどういう違いがあるかをわかりやすく示した図です。
皆さんが作業所製品を購入した際に支払ったお金がどのように流れるかを示した図ともいえます。
たとえ安く売られていても福祉施設の製品を買うことで、作っている障害のある人たちのためになっていると"なんとなく"思っていたかもしれませんが、どうでしょう。
障害者が作るモノが「安く買える事」「安く売られている事」に疑問を持ってもらえるといいかもしれません。
とはいえ、お買い物をする立場の皆さんが作業所製品の価格を決めることなど出来ません。
でも、ぜひ知っておいて欲しい事だと考えています。
・・・ここで大切な説明が抜けていたことに気づきました。
今回お話ししているのは、その福祉施設以外の、例えばマジェルカのような外部の販売者が作業所製品をどう売るか、という話ではなく、福祉施設が自分たちの利用者が作る製品をどう扱うかという話をしています。
私たちマジェルカのような立場で製品を販売する場合は、当然ですが販売活動の為の経費が必要になりますのでそれが製品代の中に含まれる事になります。
”当然ですが販売活動の為の経費が必要になる”と言いましたが、福祉ならではですが、それが必要でない販売者もあり、その事がかえって作業所製品の価格=障害者の仕事の価値をややこしくしていたりするのですが、それも含め、私たちマジェルカのような販売者が関わる場合のお話は次回に詳しくさせて頂きます。
値段を上げるとお客様に怒られる!?
話をもどして。
お買い物をする立場の皆さんが価格を決めるのではなく、実際にそれをいくらで売るか決めるのは、その作業所だったり販売するところになります。(ちなみにそれは利用者ではなくスタッフである場合がほとんど)
マジェルカでは、福祉バザーや福祉ショップで不当に安売りされていたようなモノを、私たちが本来あるべきと考える より高い価格 で流通させ、お客様にはその価格に納得して買ってもらえるようにする、それを「ウェルフェアトレード」と呼んで活動を続けてきました。
その目的は、単に自分たちが得られる販売手数料を増やしたいからではなく(とはいえ、実際に必要なものは必要なのですが)、作り手である障害者のやりがいや収入を高めるとともに、社会の側に対しては、障害者が生み出す価値や彼らの可能性を知ってもらい、その事を通して障害者への見方を変えて欲しいというものです。
そんな目的のもと、マジェルカでは作業所に対しても、自分たちで売る際の販売価格をもっと上げる事を促すケースが数多くあります。
しかし経験上、それが一筋縄にいかないということを強く実感しています。
様々な事情を伺いますが、それが出来ない理由としてこれまで実際に聞かせてもらった例をあげると
・高くしたら売れなくなる(地域性の問題もあるのは事実です)
・値段を上げると商売をしていると思われる。
(それによって寄付などをしてもらいにくくなるという話もありました)
・値段を上げると、それまで買ってくれていたお客様から怒られる。
といったものでした。
誤解を解き、理解を促す
お分かりになるでしょうが、上の理由の中にはお客様(社会の側)からの誤解や無理解も多分にあります。
でも、誤解であれば正しく説明しそれを解き、無理解であれば理解を得る努力を、福祉の側がもっとするべきだと考えています。
作業所製品を安く販売するのではなく、少しでも高く販売する事は決して施設やスタッフの利益のためではなく、全て作り手である障害者の利益(収入と仕事への評価)に繋がる事だと、堂々と正しく伝えればどうなのでしょう。
しかもわざわざ施設の売り場に買いに来てくれるお客様であれば、その多くは「製品を買って障害者を応援したい」という気持ちを多少なりとも持ってくれているはず。
それなのに納得してくれないとしたら、それは「障害者を応援したい」のではなく実際は「安く買いたい」だけの人です。
利用者に不利益を与える一方で、安く買いたい人を得させることが正しい障害者福祉だとは思えません。
事業所やスタッフの利益不利益に影響しないからでしょうか、それとも、障害のある利用者の口から不満が出にくいからでしょうか。
事実そういう施設やスタッフもいるかもしれません。
でも、多くはそんな事ではなく、
”値段を上げても自分たちで売れる自信や力がない”
”どういうきっかけで上げたらいいかわからない”
”そもそも妥当な金額設定というのがわからない”
といった所だと感じています。
変わりたいという気持ちだけはあるけれど、アクションはなかなか起こせないということも。。。
なぜ今回こんな話をしたかというと・・・
今回、この記事をここまで読んで、ほんの少しでも理解と共感を抱いてくれた方には私からお願いがあります。
もし皆さんの周りで売られている作業所製品で、「必要以上に安い」とか「もっと高くても良いのに」と感じるものがあったら、「安く買えてラッキー!」ではなく「これならもっと高くても買うのに勿体無いですよ」とか、「もう少し高くして、その分利用者さんに還元してあげて欲しい」とスタッフさんに伝えてあげてもらえませんか。
なかなか自分たちでは変われない福祉の現場を、変わるきっかけを外から与えてみませんか。
「高くすると怒られる」から高く出来ないのなら「安く売ってると怒られる」ならどうなるのでしょう?(怒らなくても良いですが)
「いきなりそんな事言えないよ」って方で、「こんなのをこうやって売ってたけどコレってどう思いますか?」という疑問やご意見があれば、マジェルカまでお気軽にメールを頂けたらアドバイスもいたします。
一人一人の行動って馬鹿にならないと思います。
「自分一人が動いても」なんて思わずに是非。
そんな一人一人の行動が積み重なってウェルフェアトレードが少しでも広まる事を期待しています。
マジェルカ ふじもと