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Answer

その日が近づくにつれて緊張していった。
間違えて迷惑かけてしまったら申し訳ない、何度か頭でやるべきことを反芻した。
そうそう難しいことではないのだけれど、足を引っ張ってしまっては、と気になってプレッシャーだった。
「探しものラン」というランイベントに午前中参加して、午後は娘の舞台を観に行く。移動する時間を考えると12時までの参加がリミット。
緊張しているのは「探しものラン」で上手くお手伝い出来るかどうかだ。
オンラインzoomで繋がってチーム分けし、作戦会議、その後、出されたお題をそれぞれのランニングコースを巡りながら探して写真をアップする。遊び✖️ランニングのイベントだ。
チーム分けの際に初参加の方のサポートをする。それだけなのだが生来の小心者である私はそれだけでドキドキなのだ。
娘の舞台も気になるが、自分の失態も気になる。そんな前々日、走る仲間でイベントにも参加するOさんのTwitterに京都に出張、とあった。
「あ、Oさん京都なんだ〜近いけど会えないよね」
リアルで仲間に会う機会は滅多にない。
いつもオンラインで会っている仲間達だけれども実際にあったことがある人は少ない。私が娘のところから参加するのは皆に言ってあったので、ここにいるのは認知されていると思うけれど。
画面上ではヘラヘラして図々しい奴だが、浮いてるんじゃないか、何言ってんだこいつ、と思われていないか小心者の常で、実は恐る恐る参加しているのだ。終わると反省して落ち込む。そんな日々だ。

Oさんは出張先をランニングしてその体験をnoteに連載にしている。洒脱で時に鋭く、ユーモアも交えて走った街を彩っていくnoteは人気があるし、私も毎回楽しみにしている。あんなふうに走った街を書いてみたくていつか隣街を走って真似してみようと企んでいる。
前回の連載は私の故郷を取り上げてもらった。全て追体験できるほどでなんだか読み終わってジーンとしてしまった。
言うまでもなく仲間たちは紳士淑女でOさんも紳士、嫌がられてはいないだろうけど誘う訳にもいかないよね。などと思っていたらメッセがきた。Oさんからだ。
「探しものラン一緒に走りませんか」
なんてことだ。イベントを一緒に走る。思いつかなかった。
すぐに返信を送った。
トントン拍子にアクセスが便利な天王寺に集合が決まった。
最寄り駅周辺をウロウロするつもりだったのに一気にイベントらしくなった。それに頼りがいがあるOさんと一緒なら私ひとりでは思いつかない写真が撮れそうだ。
あとはzoomでサポートの件に集中すればいい。
前日、お題のいくつか思い付いたものを考えたりしながらそれでもソーシャルなことが気になる貧乏性な性格についてウンザリしていた。

娘の方は明日の本番に向け、細々としたものをつめて準備を着々としていた。
明日はジゼルを踊る。バレエの世界ではジゼルは結構特別な部類に入る。技術的なこともあるが、叙情性が求められる演目だ。観る目も肥えている方が多い。娘は以前これを踊って痛い目にあった。多分若い彼女にはまだ早かったのだ。別に失敗したわけじゃないけれどジゼルもどきでしか無かったのかもしれない。
今回もその時に誂えた衣装を使う。髪飾りは私が衣装に合わせて手作りしたものだ。新調したい気もするがそこまで大袈裟にはできまい。さすがにリハーサルを見た限りでは上手くなっているし、あの時よりも成長した姿は見せてもらえるだろうが、少しだけ心配もしていた。
せっせと慣れた調子で準備をする娘を見ながらふと、あれ?zoomはどこでやるんだろう?と気がついた。zoomでちゃんとすることが明日のミッションだ。メモも取りたいし外では落ち着かない!何より私が!
イベントは当初の予定より時間が長くなっていた。家でzoomを終えてから電車で天王寺に向かっても全然行ける。すぐOさんに連絡して集合時間を10時にしてもらった。一安心、早めに就寝した。

心配だった天気も曇りでイベント当日。
早起きして黙々と髪をお団子にし、綺麗になっていく娘を見ながら「ごめんね、母はまず自分のイベントに集中するね。君も頑張れ」と心で祈る。
そんなもので。
娘は自分の戦いを。
私は私の好きなことを。

一足早くに出かける娘をみおくって時間になった。
zoomで集合、チームに別れて作戦会議。顔見知りばかりではじめての感じもなく作戦もすんなり決まってミッション終了!案外あっさりだったが、これからが本番だ。
駅までの撮れ高は考えてある。
お題のいくつかはクリア出来るはずだ。
すぐに家を飛び出した。昨日から決めていたもの、駅までにある小学校のフェンス越しに梔子の花をまず写真に収めた。良い香りだ。
そうして私の「探しものラン」はスタートした。

天王寺公園の入口、お互いきっとすぐわかるよね、私は全身ピンクで目立つし、案の定「あっ」といった感じでOさんはすぐ見つかった。
全然初対面という感じがしない。「はじめての感じないですね〜」と、すぐさまお題に取り掛かった。あのお題はどう、このお題はこれで、など相談しながらクリアしていって私はめっちゃくちゃ楽しかった。一通り公園を回って、残っていた波紋というお題に2人とも一生懸命、水溜まりの波紋を狙った。
カブ(バイク)のお題は2人でしばらく道路を待ってみたけれども通らないので、ラノベ原作の方を目指すべく近くにあるアニメイトに行くこととなった。Oさんはきっと前から考えていたに違いない。自分だったら絶対道路ウロウロして終わりになっただろうな、と思索が深いとはこういうことかと納得した。
アニメイトに向かう途中でも展示物にあれこれツッコんだりして私は楽しい。キラキラしたアニメたちの回廊をぐるぐる回って無事お題をクリアした。
閉会式を兼ねたzoomまで、空いてるカフェで時間をまった。何となく一緒という件を伝えてなかったのでここでネタバレ。いつも羨ましくみていたプチオフ会ができてよかった。
Oさんは膝を痛めた私のためにノルディックポール持ってきてくれて本当に紳士で優しい。使わなかったのでちょっと後ろめたい。
カフェを出て、再会をハイタッチで約束してそこでお別れとなった。
また必ず会いましょう。

さて、娘の方だ。一応、ちゃんとした服装を準備したので着替えて最寄り駅へ。
ちょっとどういう気持ちで向かえばいいのかわからない。コロナ禍は世界中からエンタメを奪ったし、バレエなどという不要不急の極みのエンターテインメントはどうなるのか見当もつかない。名が売れているバレエ団でさえ苦労しているものを。
会場に着いてベンチに座っていると、声をかけられ驚いて顔を上げると、背の高い女性が微笑んでいた。「なんだ!来てくれたの」地元の教室で娘の後輩の子がわざわざ京都から来てくれたのだ。
懐かしい顔に近況など話も弾んで、一緒に席に着いた。連れ合いが出来てよかった。
幕が上がる、可愛らしい小さなバレリーナたち。 
娘も昔踊ったヴァリエーションが続く。懐かしい。
青い鳥のフロリナ王女のヴァリエーション。娘はこれでパ・ドゥ・ドゥ(男女で踊る)をやらせてもらった。思い出の曲だ。
そして、ついに娘のジゼルのヴァリエーション。
音楽が鳴り、登場から空気が違った。
リハーサルとは比べものにならない。
技術は申し分なく危ういところは何一つない。見せ場では技術をやり切るだけでない、指先まで繊細に、余韻が残る間までが素晴らしい。いつのまにこんなに表現力があがってたんだろう。やれば出来るのに不安げな、それが踊りに出るタイプだったものを。
ここにいるのはジゼルだ。
少し涙が滲んでしまった。
役に入り切ると衣装の裾まで影響がでる、軽やかにそして静かに裾が舞い降りた。
拍手がなりやんで「凄かったね」と声をかけられて「そうだった?ありがとう」と返事をするのがやっとだった。
感動しているのがバレたら、ちょっと恥ずかしい。
これで、ジゼルに対して借りが返せたような気がした。
周囲に理解なく、ずっと二人三脚でやってきた。
「何になるのか」と散々問われたが、「何か」を求めてやっていたわけではない。娘が身を置く世界は元々、幻想を追うものだ。
ジゼルの入口に立てた。ここまで踊れるようになったのであれば、それはそれで素晴らしいことではないか。
これが答えで、はじまりだ。
よくやったね。
そして、ありがとう。
この日は本当に一日中幸福感で満たされていた。
正直そこまでやってどうするのか、全く分からないけれど娘は楽しそうである。
それで私は満足だ。

夜の反省会zoomで集計の結果、私のチームは残念ながら優勝出来ず、途中数え間違えたりで残念だったが、自身の目標、お題のコンプリート達成出来た。反省会は建設的で、走る仲間たちは次にもっと良いイベントになるべく動きだしていた。
そして、Oさんは個人優勝、2回目。一緒に回っていたのに、抜け目のないOさんであった。
さらに直ぐに最新作のnoteをアップ。
イベントについてのnote、私もちょっと登場している。なんだか嬉しい。
私は私で楽しいことをやっていこう。
親子は並走でも良いのではないかな。

Oさんのnoteに対して、アンサーnoteを書こう。
私と娘の特別な一日を。


Oさんのnoteです。ぜひとも。

#PLANETSCLUB  #ランニング部 
#バレエ  #ジゼル


















ちょっと寂しいみんなに😢