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“嬉しい混乱”でした…オリックスファームアナ11年目・矢坂まり「忘れられない選手と試合」

<トップ写真:©︎2023 MAISHIMA PROJECT>

舞洲に拠点を置くプロスポーツ3チーム、大阪エヴェッサ、オリックス・バファローズ、セレッソ大阪で働くクラブスタッフへのインタビュー特集企画「舞洲を支える人々」。クラブに関わることとなった経緯やチームへの思い、舞洲にまつわるお話などを伺います。

今回登場するのは、オリックス・バファローズのファーム(二軍)スタジアムアナウンサー・矢坂まり(やさか・まり)さん。イベントMCやラジオのパーソナリティを経て、2013年より現在のお仕事を担当されています。フリーアナウンサーとして、野球以外にもサッカー、ラグビーなど他競技で活躍中の矢坂さんに、舞洲での印象的なイベントや試合、選手などをお聞きしました。

スタジアムアナウンサーの意外な仕事

―まずは、スポーツとの関わりから教えてください。

学生の頃からスポーツを見ることが好きです。野球を観るきっかけは、阪神タイガースの優勝でした。盛り上がっている様子をテレビでたまたま見て虜になりました。

今は、ボクシング観戦にハマっています。知り合いの人からチケットをいただいて、長谷川穂積選手の試合を見たのが始まりです。めちゃくちゃカッコいいと思い、そこからボクシングをいろいろと見るようになったんです。

―ファームやスタジアムアナウンサーについて、どんなイメージをお持ちでしたか? 実際に球団に入られていかがでしたか。

ファームは縁の下の力持ちという印象がありましたが、具体的にスタジアムアナウンサーとはどんな仕事があるのか、よくわかりませんでした。いざ入ってみたら、コアなファンの方々が多く、その方々からいろいろなことを教えていただきました。ファンの方々と選手との距離感が近く、楽しいと思いましたね。

最初は、チケット売りもしていました。当時、アナウンサーは4人程いて、人がいっぱいいたんですよね。ですので、アナウンスさせていただいていたのは月2回くらい。あとは券売所でチケットを販売していました。

そこから人の出入りがあり、アナウンスの仕事が増えていきましたが、チケット販売ではファンの方々とおしゃべりするのがとても楽しかったことを覚えています。

最近、長年来場していただいているファンの方から、「あの時は券売所におったのに、めちゃ頑張ってるね!」と言っていただけて嬉しかったです。近年はファン層がだいぶ変わって、若い女性の方々が目立つようになりました。新しい変化はありがたいですね。

―驚いた業務はありますか?

地方で行う試合などでは、球場内の掃除といった片付けを全てやることです。今だにやっています(笑)。

忘れられないイベント、試合、選手のこと

―舞洲での印象深いイベントを教えてください。

ファンの方々へ日頃の感謝を込めて交流を図る「ファーム感謝まつり」ですね。年に1回開催していて、シンガーソングライターの方をお呼びしたり、選手のトークイベントを催したり、キッチンカーでグルメ販売などを行ったりしています。

一軍の感謝祭とはまた違った雰囲気で、全選手とハイタッチして写真撮影ができるなど、選手をとても身近に感じられます。多くのファンのみなさんに楽しんでいただいていますね。

―アナウンスをされていて、記憶に残っている試合を教えてください。

コロナ禍前に行われた広島戦でのことなのですがネット裏の観客席に座っていた、おそらく広島カープファンだと思われる男性の方が、オリックスのキャッチャーの構えからピッチャーの投げる球種を広島のバッターに教えていたんですよ。

アナウンス室は外の音が入らないので、グラウンドで何が起こっているのか全くわからない状況でしたが、審判から注意のアナウンスをしてほしいと言われました。どう話すべきか検討している時に、今は(オリックスの)一軍でコーチをやられている、当時カープの二軍監督だった水本勝己さんが勢いよくいらしたんです。そして、選手は命をかけて試合をしているのだから、このようなことはやめてくれと監督が直接スタンドに注意をされました。非常に熱い方だなと思いましたね。

他に、引退試合はその選手に対してこみ上げるものがあり、どれも印象に残っています。また、思うように調子の出ない選手が、遅くまで練習をした翌日にホームランを打ったりと、地道な努力が試合で結果となって出た時などは、仕事中でもお客さんのように歓声を上げてしまいますね。

―ファームから一軍に上がり活躍している選手が多いと思いますが、特に思い出深い選手はいますか?

杉澤龍選手は、ファームの試合に出る予定だったのに、急きょ一軍に呼ばれることになり、スタメン発表する10分前くらいにメンバーが変更となったんですよ。現場は混乱しましたが、選手にとってはとても良いことですから、すごく嬉しいバタバタです。

―矢坂さんが感じる、ファームの面白さ、魅力を改めて教えてください。

先述したように、練習やイベントで選手やお客様との距離が近いことが一番の魅力です。イベントでご一緒させていただいた選手の活躍をテレビなどで目にすると、すごく不思議に感じるくらい、普段は身近な存在なんですよね。他の競技のアナウンサーもしていますが、オリックスのファームは一番選手やお客様を身近に感じられる場所かと思います。

また、選手が飛躍していく姿を見られるのもファームならではだと思います。舞洲のグラウンドでいつも練習していた山本由伸選手が、今や「世界の山本」と言われるまでになりました。そうした成長過程を見られるのが醍醐味とも言えますね。

―試合中、いろいろなことをやりながらアナウンスをされています。慣れるまでどのくらいかかるのでしょうか。

約11年やらせていただいていますが、今だに慣れないです。代走や代打がありますから、常に集中力がいるのかなとは思います。

舞洲の放送室に関してはアナウンス室は外の音が聞こえませんが、試合の途中くらいから慣れてくるのか、耳に音が入ってくるようになります。それを聞きながら、今は誰がバッターボックスに立っているのか、ブルペンでは誰が投球練習をやっているのか、常時いろいろなところを見ています。

代打が何人もいると、選手の聞き間違えや言い間違えなど、ちょっとしたミスは今でもしてしまいます。よりいっそう気をつけないといけないですね。

アナウンスするうえで「大切にしていること」

―アナウンスするときに大切にしていること、心がけていることはありますか?

正しい情報をわかりやすく伝えることが、私たちの一番の仕事だと思っています。また、見に来てくださる方々の中には、初めての方や旅行ついでに寄られる方もいらっしゃるんですね。私達にとっては毎日のように観ている試合ですが、その方々にとっては初めて眺める景色になる。そういう方々がいるということはいつも心がけています。

―ビギナーの方々に届くような、ファームでやってみたいイベントや企画はありますか?

課題なんですよね。選手との距離が近いというファームの魅力を、多くの方々にわかってもらえるような取り組みをしていくのが、私達スタッフの仕事です。何かそういうことができたらとは常に思って、日々案だしをしています。

―一軍ではできないけれど、ファームではできるということはありますか?

お客さんが関われるイベントが多いことですね。例えば始球式は、有名な人しかできないと思われがちですが、ファームは一般のお客さんが投げることができます。地方の試合では、その場でスタンドにいる方をお呼びして始球式をお願いすることもあります。

それはホームのファンの方に限らず、相手チームのファンの方もOKです。来場していただいた全ての方に楽しんでいただけることがファームならではの良さだと思います。

球団スタジアム運営グループのグループ長・岡村義和さんは、楽しいことを思いついたらどんどんやってみようというスタンスの方なんですね。

例えば先月(11月)、対象試合に15回以上来場してくださった方々へ向けた「選手と一緒にBBQ」という特別企画がありました。ホテル・ロッジ舞洲でバーベキューをしようという内容で、42名のファンの方々と9名の選手が参加したんです。

―9名の選手が参加されたとは、ファンの方々にとってはすごく贅沢な時間だったのではないでしょうか。では改めて、矢坂さんにとってスポーツとは何ですか?

私は見る専門ですが、気分が少し落ちている時に選手の方々の頑張っている姿を見ると、元気をもらえたり、まだまだ関わっていきたいなと思えます。スポーツは自分を成長させてくれる存在ですね。

―長年アナウンサーを務められて、後輩に伝えたいことはありますか?

誰でもできる仕事ではないですし、いつも感謝の気持ちを持って取り組んでもらいたい、とは思います。

仕事でうまくいかないことがあって落ち込んでいる時に、そんな自分にイラッとするというか、自己嫌悪に陥ることがあります。ただ、自分に自信がなくなってもこの仕事を辞めたいと思ったことは一度もないんですね。

それは、簡単にはできないこのお仕事を続けさせていただいていることに対して、常にありがたさを感じているからです。この気持ちは大切にしていきたいです。

―最後に、今後の展望をお聞かせください。

ファームの人気がもっと出てほしいですね。今シーズンは優勝をギリギリで逃してしまったので、来季はファームも一軍も1位になってほしいと思います。

―矢坂さんの声を聞きにスタジアムを訪れる人も増えそうです。貴重なお話をありがとうございました!

(舞洲で実施された、選手と一緒にBBQ企画)


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