単純明快ハッピー野郎



帰路に着くときにSpotifyで何を聞こうか、いつも考える。バイト終わりも買い物終わりもご飯の帰りも、そのときの気分をぼうっと辿って今日はあれにしようといった具合に、そういう習慣になっている。今日も仕事中、中盤頃から既に考えていた。帰ることしか考えていない。脳内を上司に見られることがあるなら僕はとっくにクビだ。仕事の先輩で、とっても優しくお人好しで、きっとその柔らかさでたくさん利用されたり辛いことを経験したのではないかと勝手に憂いてしまうような人がいて、僕はその人が大のお気に入りで、しかし今日は話す機会もなく、それでいて僕とは別の人と楽しくお話ししている姿を多く目にしていた。僕は中盤からとっくのとうに大不機嫌で、態度に出さまいと頑張っていたけれどそのせいで帰路のプレイリスト候補はマイナーコード多用のローテンポが増えていっていた。めっちゃ仕事してんのに僕。特に主体性のないそいつのことばっか気にかけてるの何なん。そんなことを勝手に考えていた、幼稚なものだ。仕事終わり、よく一緒に一服していたが、それだけが楽しみみたいなとこがあったが、今日はいじけてサッサと帰ってしまおうと考えていた。しかしやっとまともに話せるチャンスだ、凝りもせずいつもの如く外の喫煙所へ。やはりこの先輩はすごい、人懐っこく、僕の刺々しい気持ちもゆっくりと絆して、気付いたら強制的に笑顔にさせられる。そして別れ際に今度岩盤浴に行こうと言ってくれた。それがなんだという話で、誰であろうと声をかけるような社交性の高い先輩で、それでも人嫌いの僕には珍しくほんとにこの先輩のことを慕っているのだろう、帰路に用意していた傷心プレイリストはどこかへ流れ去り、素敵なバーディーを聞いて京王線のホームに立っている。





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