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がんの終末期に起きる様々な症状と、緩和ケアでできる解決策 #50

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「終末期の症状~総論~」です。

動画はこちらになります。

積極的抗がん剤治療が終了し、在宅やホスピスで療養を始めた方は、これから自分がどうなっていくのだろうと大きな不安を抱えている人も多いと思います。

今は特に苦しい症状は無いが、これからどんな症状が起こるのか不安だと思っておられる方。

死ぬことは仕方ない、でも、苦しみでのたうち回りながら死ぬのは嫌だと思っていられる方。

祖父が肺がんで、最期は息が苦しい、苦しいと言いながら死んでいった。そんな最期はいやだ、と思われている方。

そのような不安を抱えている方々のために、この動画を作っています。

わからないということは不安を大きくします。確かにいろいろな症状は起こります。けれども、そういった症状はしっかりと緩和できます。

まずは「知る」ということで不安が軽減します。

今回は総論的にこの終末期に起こってくるいろいろな症状の説明をします。

ひとつひとつの詳しい説明はこれから記事を作りますので、詳しくお知りになりたい方はフォローしておいてくださいね。

この記事をご覧になったがん患者さんやそのご家族が、安心して大切な時間を過ごしていただけたら幸いです。

本日もよろしくお願いいたします。

耐え難い苦痛は必ず緩和できる

結論から申し上げます。

終末期においても、耐え難い苦痛は必ず緩和できます。

がんが進行し、身体全身を侵す状態となると、様々な身体的、精神的な症状が起こってきます。

身体的症状としては、痛み、呼吸困難、便秘、嘔気・嘔吐や腸閉塞・腹水といった消化器症状、倦怠感、不眠、などがあります。

精神症状としては、気持ちのつらさ、せん妄、などがあります。

このまま人生が終わってしまうのか、なんでこんな病気になったんだろう、何か悪いことを自分はしたのだろうか、と多くの人は自問自答するようになります。こういった苦しみのことをスピリチュアルペインといいます。

のちほど詳しくお話いたしますが、このような、スピリチュアルペインも多くの人に起こってきます。

これらの症状をそのままにしていると、耐えがたい苦痛となってきます。しかし、これらの症状は、取り去ったり、和らげることができます。 

どうしても取れない苦痛がある場合でも、最期は「鎮静」という手段も取れますので、穏やかに最期を迎えることができます。

緩和ケアにより、がんの終末期を苦痛なく過ごすことができ、最期は穏やかに旅立つことができるのです。


がん患者が訴える身体症状について

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1. 終末期の様々な症状について

図に示したように、終末期に近づくと、様々な身体症状、精神症状が起こるようになります。

ここで注意していただきたいことは、その多くが、亡くなる1か月から2か月前ごろから起こってきていることです。逆に言うと、それ以前にはほとんど症状は無いということです。このことをまず知ってください。

多くのがん患者さんは、積極的治療が終了しても比較的元気に過ごすことができます。しかし、様々な身体症状が出現しだすと、急速に身体が弱ってきて亡くなることが多いのです。

このスピード感というものに、多くの患者さん、ご家族、場合によっては医療者もついていけないことがあります。

これに対しては、やはり、早め、早めに手を打つことが大切です。ぜひ、経験豊富な緩和ケアのできる医療者にアドバイスをもらうことをお勧めします。

それでは個々の症状について説明していきたいとおもいます。より詳しい説明は今後の記事でしていきたいと思いますので、本日は簡単にお話します。

①疼痛

痛みは、がん患者さんにおけるつらい症状の筆頭に挙げられるでしょう。過去の記事でも何度も取り上げています。

先ほどの図で見ていただけたらお分かりになると思いますが、痛みは早い段階から起こります。亡くなる2か月前でも4割くらいの患者さんに生じていることが分かりますね。

そして、今日、ここで申し上げたいことは、痛みの9割以上は取れるということです。

ほとんどの痛みは緩和できますので、痛みが出た時は、我慢せずに、医療者にお伝えください。


②呼吸困難

呼吸困難は肺がんや、がんが肺に転移した場合、起こります。皆さんも100mを全力で走ったら、息が上がりますよね。がんの病状が悪化すると、安静にしていても、呼吸がとても苦しくなるのです。

しかし、対処法はあります。

医療用麻薬のモルヒネで症状緩和することができます。風を通したり、体勢を整えてあげるなどの、環境調整のケアも重要です。

③嘔気、嘔吐

嘔気、嘔吐の症状は様々な要因で起こります。抗がん剤や、医療用麻薬の副作用で起こったり、便秘が原因で起こることもあります。

脳転移や腹部にがんが生じるようになった時も起こります。精神的な要因で起こることもあります。

しかし、薬物、食事、においの管理などでしっかりと対処することができます。

④倦怠感、食欲低下

倦怠感、食欲低下の症状は終末期になると、多くの患者さんが経験する症状です。
がんが身体全身を侵すようになると、筋肉が急速に衰えていく、悪液質という状態になります。

そうなると、だるさが急に襲ってきます。なかなか特効薬はないのですが、ステロイドを使えば、改善できることがあります。

同時に食欲低下も起こりますが、食べ物の工夫で、最期まで食事ができることも多いです。

⑤せん妄

せん妄とは、認知症や、精神病と間違えられやすい、意識が低下する状態のことです。急に人が変わったようになったり、ボーッとして会話が通じなくなったりします。

終末期だけでなく、手術の後などでも起こります。薬や、身体が原因で起こりますので、回復することが可能です。

対処法は、せん妄の原因を取り去ることです。

薬が原因だったら、その薬をやめること。感染症や脱水が原因であれば、その治療をすることです。

亡くなる直前に起こるせん妄は回復が難しいこともあります。ただ、その場合でも、せん妄の苦しみを取ることは可能です。

⑥スピリチュアルペイン

人生の最終段階を迎える人の苦しみには、ご家族や医療者が応じられる苦しみと応じられない苦しみがあります。応じられる苦しみは改善することが可能です。今までお話してきた症状、苦しみは取り去ったり、癒すことができます。

しかし応えられない苦しみがあります。それがスピリチュアルペインなのです。

例えば、何で私がこんな病気にならないといけないのか。
もう抗がん剤治療ができないと言われた。私は死ぬしかないのか?
昨日までは何とか頑張ってトイレに行けたのに、今日は助けてもらわないと行けなくなった。こんなことなら死んだほうがましだ。
死んだら私はどうなるの?死ぬのは怖い。

こういった患者さんを目の前にすると、私たちは言葉をなくします。しかし、同じ人間として苦しみをわかろうとすることはできます。話を聞き、寄り添い、癒すことがケアそのものになります。

⑦鎮静について

終末期を迎えた患者さんが、様々な症状緩和を試みても、その症状が取り切れない時があります。

緩和ケアにおける鎮静は、精神科などで暴れている人を落ち着かせるために鎮静剤で寝かせるようなことではありません。薬を使って、苦しみを感じない程度まで眠った状態にすることで、その苦痛を緩和する方法のことを鎮静と言います。

鎮静を安楽死と同じようなものだと考える人もいるかもしれません。

安楽死とは、苦痛をとるため、死に至る薬剤を投与することです。一方で、鎮静をすることで寿命が短くなることはありません。

安楽死と、鎮静とは全く別物なのです。

日本では、安楽死は法律で禁止されており、緩和ケアで安楽死を行うことはありません。

以上、終末期における様々な症状とその対処法について大まかに話をしてきました。

ほとんどの苦しみは取り去ることが可能です。そうでない苦しみも、話し、理解をし合うことで軽減されます。

ぜひ、苦しみがある場合は、緩和ケアができる医療者に相談してください。


終末期の苦痛が緩和された患者さんの話

トータルペインという言葉を皆さん知っているでしょうか。

トータルペインとは、身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな痛みの4つの痛みすべてを言います。(概要欄に入れる#4)

トータルペインについては、詳しくはこちらの記事で書いています。参考になさってください。

がんになると、この4つの痛みすべてが、複合的に作用し、患者さんの苦しみを大きくしていきます。

緩和ケアでは、トータルペインの緩和を行うことが大事なことなのです。

今から、ホスピスで、このトータルペインを癒され、安らかに旅立った女性のお話をします。

50代の女性、大腸がん、がん性腹膜炎の患者さんです。

化学療法を続けていましたが、効果が無くなり、抗がん剤が中止となりました。その後、徐々に腹水が溜まり、腹部の張りと、痛みが悪化したため、ホスピスに入院となりました。

ご主人は2年前、食道がんで亡くなられていました。息子さんが3人おられ、次男と同居していました。

入院後は腹水を抜きながら、医療用麻薬を使うことで症状がとれて、外出などを繰り返し、良い時間を過ごしていました。その後徐々に衰弱が進行しましたが、大きな症状の訴えもなく過ごしていました。 

その間、ご家族の訪問はあまりありませんでした。息子さんは3人とも仕事などが忙しかったからです。でも、彼女はそのことに対して不満も言わず、淡々と過ごしていました。

ところが、入院して3か月たった時、彼女は腸閉塞になりました。そして看護師に「死にたい」とつぶやきました。私は、彼女の残された命は1~2週間だと思いました。

私の経験上、彼女の「死にたい」という言葉は、精神的に落ち込んだ時の希死念慮とは違うと感じました。身体的なつらさ、精神的なつらさ、社会的なつらさ、そしてスピリチュアルなつらさ、それらが複合的に合わさって起こっているトータルペインの表れではないかと思ったのです。

ご家族には命が厳しいということは少し前にお伝えしていたので、すぐに来院され、ご家族は交代で付き添いを始めました。

まずは、身体のつらさを和らげるため、薬剤を点滴に変更し、腹部の症状の緩和を図りました。

翌日には嘔吐や、腹痛などの身体的症状は緩和され、穏やかな表情となりました。
看護師たちはベッドサイドで患者さんの手を握り、できるだけ長い間、患者さんの話に耳を傾け、精神的な安らぎを作ろうとしてくれました。

身体的にも精神的にも、彼女の症状は緩和されました。彼女の症状が落ち着いたところで、相続のこと、これからの子どもたちの生活のことなど、家族全員で話されたそうです。これにより、患者さんの社会的な痛みが緩和されました。

その後、私はベッドサイドで患者さんと話しました。

彼女は「先生、体が楽になって子供たちと色々話すことができました。思い残すことはありません。ただ1つだけ、気になっていることがあるの。死んだら夫のいるところに行けるかな。」と涙ながらに話されました。

私は彼女に言いました。「僕は天国はあると思う。人は亡くなったらそこに行くんだと思います。ご主人もそこで暮らしていると思います。あなたがそこに行ったら、必ず向かえに来てくれますよ。」彼女は「先生、ありがとう。」と笑顔を見せてくれました。

1週間後、腹部の腫瘍は急速に大きくなって、痛みが取れなくなりました。患者さんとご家族は鎮静を希望し、私は鎮静を開始しました。

それから3日後、彼女は安らかに旅立ちました。

最期まで彼女から「死にたい」という言葉は出てきませんでした。家族も含めたチームが、彼女のトータルペインを癒すことができ、そのことで、彼女は安らかに旅立てたのだと思います。

緩和ケアでは、耐えがたい苦痛をも取り去り、最期まで安らかに過ごすことができるのです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん、ご家族、医療者向けに発信をしています。

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