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【家】がんの終末期の9割の人に起こる終末期せん妄とは #58

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族の全ての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「終末期せん妄」です。

動画はこちらです。

がん患者さんの病状が進行し、終末期をむかえる時、様々な症状が起こってきます。その中で、せん妄も多くの患者さんに起こる症状の1つです。

以前の記事で、せん妄は原因があって、その原因を取れば回復できる、ということを話しました。その記事のリンクを貼っておきますので、ぜひご覧ください。

今回は、がんの終末期に起こるせん妄についてお話します。通常のせん妄と、終末期せん妄は、実は大きく異なる点があるのです。

この記事を見ることで、終末期せん妄のことをきちんと理解し、それに対応することのできるご家族が増えるとうれしいです。

本日もよろしくお願いいたします。


ご家族に知ってほしいこと

まず結論から申し上げます。

命があと、数週間程度になった終末期に起きるせん妄は、回復しないことのほうが多いのです。

終末期は病気が進行してくると、身体が弱ったり、肝臓や腎臓など、大事な臓器も悪くなってきます。せん妄の原因も複数になり、しかも、それを良くすることが難しくなるのです。ですから、せん妄も改善しないことが多いのです。

ここで、ご家族の皆さんにとっては、つらいお話をしなければなりません。

せん妄になると、意識がぼんやりとして、ちゃんとした会話ができなくなります。最期は、しっかりとお別れの言葉を言ってから、見送ろうと思っていても、終末期せん妄になると、患者さんからの言葉が無いままお別れになるかもしれません。

終末期せん妄は、大事な方とのお別れのサインの1つなのです。

そんなことは聞きたくないと言われる方もおられるかもしれません。しかし、お互いしっかりとお別れの言葉を言えずに見送ったことを、ずっと後悔しているご家族の方も私は多く知っています。

私が、今この話をしているのは、がん患者さんのご家族に、そのような後悔をしてほしくないからです。

終末期せん妄が起こるかもしれないと考え、今から私が話すことを知っておくことは、必ずあなたを助けます。

ぜひとも、ご家族にとって重要な話は、患者さんが意識のはっきりとした、元気なうちに話しておいてください。

また、せん妄で意識がぼんやりしているといっても、あなたが傍にいて、手を握ってあげると、患者さんはとても安心されます。あなたが傍にいることは、必ずわかるのです。

私たち医療者は、せん妄のつらい症状を放っておくことはしません。苦痛は必ず取れるので安心してください。

最近、終末期せん妄の中で、「お迎え体験」というせん妄があることを、緩和ケアの中では提唱されています。そのこともお話したいと思います。


終末期せん妄とは何か

終末期になり、残された命が近づいてくると、様々な症状が出現します。痛み、呼吸困難、倦怠感、食欲低下、嘔気・嘔吐などの身体症状は、多くの方々が経験します。さらに、気持ちのつらさやせん妄といった精神症状も起こります。

終末期の症状の1つがせん妄なのです。

終末期におけるせん妄は90%近くの方が経験するとも言われています。終末期には誰しもが経験する精神症状と考えてください。しかも、終末期せん妄は多くの場合、回復が難しいのです。これは原因が多岐にわたり、しかも悪化するためです。

では、何もしなくて良いかと言うとそうではありません。

終末期せん妄となった患者さんの多くは、夜間の不眠を訴えます。これを放っておくと悪化してしまい、患者さんを苦しめます。十分に薬剤を使用して、睡眠を確保してもらうことが大事です。

誰しもが、死の直前は大なり小なりせん妄状態になると思ってください。


お迎え体験とは

せん妄の症状の中で、幻覚・幻視があります。これは、ありえないものを見たり、感じたりすることです。

がん患者さんの場合、一般的に幻視が多いように思います。小人がいる、小さい虫が這っているなどです。

終末期せん妄の患者さんも同様に幻視の症状が起こりますが、その中で、両親などのすでに亡くなった人や、クリスチャンであればマリア様のような、自分が尊敬していた故人がお迎えに来た、ということを言う患者さんが多いです。

このことを、宮城県で在宅医療をされていた岡部先生が「お迎え体験」と名付けました。岡部先生はこの「お迎え体験」を調査し、なんと4割以上の患者さんが「お迎え」を体験したと報告しました。

また、「お迎え」を体験した患者さんは在宅で亡くなった患者さんに多く、しかもその方々は、殆どが穏やかな最期であったそうです。

岡部先生は、お迎え体験によって、患者さんは死に対する不安感が解消され、ご家族も安心して見送れる、と述べています。

私も終末期になったがん患者さんのお迎え体験について何度も経験したことがあります。

「お父さんが迎えに来てくれた。ありがたい。」と話してくれた女性がいました。

看護師長をしていた患者さんは、「部屋の隅にナイチンゲールさんがいる。」と言いました。

終末期せん妄の中のお迎え体験は、幻覚・幻視といった病的なものではなくて、終末期を過ごす患者さん、ご家族にとって大事な実体験であると私は思います。

岡部先生は言いました。

「お迎え体験をした患者さんは穏やかな最期を迎える。」

私も、多くのお迎え体験をした患者さんを診てきて、本当にそう思います。

終末期せん妄は、お別れのサインです。最期は、意識もはっきりしないことが多く、しっかりとコミュニケーションをとれないことも多いです。しかし、患者さんは、穏やかな最期を迎えられます。

私は、ご家族には、ぜひ、この事実を知ってもらいたいと思います。


お迎え体験はあの世へ帰る体験

私も「お迎え体験」についての、とてもこころに残る例があるので紹介したいと思います。

70代の男性で、肝臓がん末期の方です。彼は長い間、肝臓がんの治療をしていましたが、とうとう治療ができなくなりホスピスに入院してきました。

入院後も、「まだ治療はしたかったのに。なんでしてくれないんだ。」と抗がん治療ができないことに大いに未練があるようでした。

そして、徐々に病状が悪化してくると、「自分が死ぬことを考えると不安で不安で。先生、何とかしてくれ。」と、私が部屋を訪れるたびに、死への恐怖を訴えてきました。夜になると、せん妄が悪化し、暴れるようになることもよくありました。

ところがある日、彼の部屋を訪れると、ニコニコと笑いながら私に語りかけてくるのです。「先生、死ぬことが怖くなくなりました。」と言うのです。

「どうしてですか?」と聞くと、彼は、「夢を見たんです。私が川の中を歩きながら進んでいるんです。すると、向こう岸が見えてきて、何やらとても楽しそうなんです。早くそこへ行きたい、と思って岸に上がったとき、2年前に亡くなったおじさんがやってきたんです。私は『おじさん早くあそこに行きたい。』と言ったんですが、おじさんは、『まだ来るのは早い、帰れ。』と言うんです。仕方なく帰ろうとしたとき目が覚めました。私は三途の川を渡っていたんですかね。あそこが極楽なら本当に早く行きたいと思いました。そう思うともう死ぬことは怖くなくなりました。」と話してくれました。

その後、彼は本当に気持ちが落ち着き、「死ぬのが怖い」と言うことは無くなりました。

そして、2週間後、患者さんは、家族に見守られながら穏やかに旅立たれました。

私は、この方は、お迎え体験で、おじさんに出会ったのだと思います。大事な人に導かれ、あの世があることを知り、死が怖くなくなったのでしょうね。

私もあの世があることを信じています。私は、人は「お迎え体験」があってもなくても、天使が迎えに来てくれて、魂はあの世に帰るのだと思っています。

あなたの大事な方、そしてあなたも、いずれ亡くなります。肉体は死んでも、魂はその故郷であるあの世に帰り、懐かしい人たちに会えるとしたら、死は怖く悲しいのものではないかもしれませんね。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん、ご家族、医療者向けに発信をしています。

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