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【コラム】「君は天然色」の意外な側面

彼岸花があちらこちらで見られるようになりました。夜は虫の声が聞こえ、すでに季節は秋の気配を感じます。皆さんいかがお過ごしでしょうか。

こんにちは、緩和ケア医で心療内科医のDr. Toshです。

このコラムでは、私が感じたり思ったことを月1回のペースで書いています。このコラムで皆さまに何らかの癒しや勇気が与えられたら幸いです。

さて、今月のコラムは音楽にまつわるお話をしたいと思います。


「君は天然色」

「君は天然色」という曲を知っていますか。若い人たちはご存じない方もいるかもしれませんが、私と同じ年代の人たちは知らない人の方が少ないのではないでしょうか。

この曲は大滝詠一さんの大ヒット曲で、1981年に発表された「A Long Vacation」というアルバムに収録された曲です。当時から様々なCMに使われ、今でも大勢の人に愛されている曲です。

歌詞を載せます。

「君は天然色」大瀧詠一
くちびるつんと尖らせて
何かたくらむ表情は
別れの気配をポケットにかくしていたから
机の端のポラロイド
写真に話しかけてたら
過ぎ去った過去 しゃくだけど今より眩しい
想い出はモノクローム 色を点けてくれ
もう一度そばに来て はなやいで
いとしの Color Girl
夜明けまで長電話して
受話器持つ手がしびれたね
耳もとに触れたささやきは今も忘れない
想い出はモノクローム 色を点けてくれ
もう一度そばに来て はなやいで
いとしの Color Girl
開いた雑誌を顔に乗せ
一人うとうと眠るのさ
今夢まくらに 君と会うトキメキを願う
渚を滑るディンギーで
手を振る君の小指から
流れ出す虹の幻で 空を染めてくれ
想い出はモノクローム 色を点けてくれ
もう一度そばに来て はなやいで
いとしの Color Girl

いかがでしょうか。男性が別れた彼女のことを思い出して感傷に浸っている、という歌詞の内容ですよね。大瀧詠一さんの明るいメロディーとともに、どこか爽やかな感じがあります。


「君は天然色」の意外な側面

私はこの曲を聞いた当時は大学生で、彼女もおらず、登山に打ち込んでいた頃で、こんな曲を聴く連中は軟派でバカな奴らだと蔑んでいました。実はうらやましくて、嫉妬していただけだったのですが。

そんなこともあり、この「君は天然色」は、明るいアメリカンなイメージの曲と思い込んでいました。しかしこの曲はそんなただ明るいだけの曲ではなかったのです。

先日一人で山に登った後、帰りの車の中でFMを聞いていたら、ギタリストの押尾コータローさんが、この曲の隠された秘話について話していました。

この曲の作詞をしたのは、松本隆さんです。松本さんは、当時松田聖子や太田裕美などの作詞を担当していた超売れっ子の作詞家でした。ところがこの時期はスランプで、歌詞が書けなかったそうなのです。

実は幼少期から心臓が弱かった松本さんの妹が、26歳の若さで世を去ってしまい、大切な家族の死に直面した松本さんは、ショックで言葉が浮かばなくなってしまったのだそうです。

大滝さんはそのことを知って、松本さんを励ましながら、再度彼が歌詞を書けるようになるまで、アルバム作りを待ったそうです。1年経って、この曲が完成しました。この曲は失恋ソングなどではなく、松本さんが亡くなった妹さんに宛てて書いた曲だったのです。

そんな目でこの詩をもう一度読んでください。

机の端のポラロイド
写真に話しかけてたら
過ぎ去った過去 しゃくだけど今より眩しい

彼は昔撮影した彼女の写真を眺めていました。「過ぎ去った過去」は色褪せていくものですが、この時ばかりは「今より眩しい」と感じたのでしょう。なぜなら、彼女を失った今に輝きを感じられないからです。そのためにかえって思い出が美しく見えてしまうことに、とてもつらさを感じてしいるようです。

想い出はモノクローム 色を点けてくれ
もう一度そばに来て はなやいで
いとしの Color Girl

うつの患者さんは、周りの風景が白黒にしか見えなくなります。「妹よ、またここに帰ってきて色を失った世界にもう一度色を付けてくれ!」彼の悲痛な叫びが聞こえてくるようです。

夜明けまで長電話して
受話器持つ手がしびれたね
耳もとに触れたささやきは今も忘れない

「受話器持つ手がしびれた」ことさえ、彼女とのかけがえのない想い出です。彼女が伝えてくれた言葉が、彼の中に大切に残っていることが伝わってきます。

開いた雑誌を顔に乗せ
一人うとうと眠るのさ
今夢まくらに 君と会うトキメキを願う
渚を滑るディンギーで
手を振る君の小指から
流れ出す虹の幻で 空を染めてくれ

大切な方を亡くした遺族の多くは、夢の中で大切な人と会いたいと願います。彼も夢で彼女と会いたいと切に願ったのでしょう。夢で彼はきっと会えたのでしょうね。そしてその夢はカラフルで、「虹の幻で 空を染めてくれ」たのでしょう。

私は遺族外来で、たくさんの遺族の方々と出会ってきました。この歌詞を読んでいると、その方々の顔とそのお話が思い浮かんできます。多くの方が、つらさを乗り越え、自分の人生を歩んでおられます。

この曲には、大事な人を亡くし、つらさの中にいる苦しさが込められていると思います。しかし、大事な人との思い出を胸に抱いて前に進んでいける勇気も、この曲からもらえると思いました。

そんなことを感じながら、今月の1曲を聴いてみてください。

<今月の1曲>

君は天然色 大瀧詠一

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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