宛先のない紹介状をもらわないための魔法の言葉とは#137
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「宛先のない紹介状をもらった時」です。今日はがん患者さんにお話します。
動画はこちらになります。
15年前、私がまだホスピス医をしていたころ、別のがん治療病院で治療をしていた男性患者さんが、これ以上の抗がん剤治療は、もうできない状態になりました。彼は主治医に宛先のない紹介状をもらい途方に暮れていました。
宛先のない紹介状とは、簡単に言うと、次の病院が決まらないまま、現在の病院での治療が終了になる、という意味を持ちます。
ある日、家族がホスピスを探し出し、彼を連れて私のところに来たのです。彼は「病院に見捨てられた」と私に話しました。
以前は彼のような患者さんは多くいました。でも今はそのようなことはなくなったと思っていましたが、つい最近YouTubeのコメントで「宛先のない紹介状をもらった」という話を聞き、まだそんな話があるのかと思い驚きました。そのような方のためにもお話する必要があると思い、今回記事にしました。
この記事では、もしあなたが宛先のない紹介状をもらったとしても、動揺せずに、次の最善の治療につながることができるための方法をお伝えします。そして、宛先のない紹介状をもらわないで済むような方法もお話します。
ぜひ最後までご覧ください。
宛先のない紹介状とは
宛先のない紹介状とはどのようなものでしょうか。
抗がん治療をしていたが、この病院ではこれ以上できることがない、どうぞあなたの近くのお好きな病院に行ってください、と主治医からもらったものだと考えられます。
この紹介状の問題点は、積極的抗がん治療が終わった患者さんのこれからのことを、治療者が一緒に考えようとはしていない点です。そして、それが患者さんの気持ちを傷つけ、患者さんが見捨てられたと思ってしまうことが問題なのです。
積極的抗がん治療が終了になって、主治医から宛先のない紹介状をもらった時何もせずにいると、これからどうすればいいか分からず途方に暮れてしまう。つまりがん難民になってしまいます。
宛先のない紹介状をもらってしまった方は、これから話す方法で、あなたのこれからのことを一緒に考えてくれる医療者を見つけましょう。
しかし本当は宛先のない紹介状はもらわないことが1番です。宛先のない紹介状をもらわないためには、どうすればよいのかについてもお話したいとお思います。
宛先のない紹介状をもらった時
もしあなたが
「宛先のない紹介状をもらって途方に暮れている」
「どうしたらいいのかわからない」
と思っているのなら、今から話すことを実行してください。
まず考えることは、これからどうしたいのか、自分の今後を考えることです。
例えば、まだ積極的な抗がん治療をしたいのか、治療はせずに症状緩和をしっかりと受けたいのかということです。
ここで言う積極的治療とは「完治を目指すのではなく、延命とQOLを高めるための抗がん剤や放射線を使った治療」のことを指します。どちらの場合も、あなたに宛先のない紹介状を出した治療病院の、地域連携室に行きましょう。
そこで、あなたの地域のがん拠点病院を紹介してもらってください。がん拠点病院というところがポイントです。なぜなら、がん拠点病院には緩和ケアチームが必ずあるからです。もしつらい症状が出てきた場合は、そこで緩和ケアを受けることができます。
完治を目指さなくても、延命とQOLを高めるための積極的治療を模索したい人は、紹介してもらったあなたの地域のがん拠点病院で、積極的治療ができるかどうかを相談してみてください。
もし、できると言われたら、その病院で治療を開始してもらいましょう。ほかの病院でこれ以上の治療ができないと言われた患者さんが、私の病院で抗がん剤治療をしてもらっているケースを数多く見ています。あきらめないで試みてください。
もし、紹介してもらった地域のがん拠点病院で「もうこれ以上の積極的抗がん治療ができない」と言われた場合、緩和ケアを主体とした治療を考える時期だと思います。
その場合、どこで療養をするのかを考えましょう。主には、ホスピスか在宅での療養になります。
あなたの地域にどのようなホスピスがあるのか、良い在宅医や訪問看護ステーションがあるのかなどを、がん拠点病院で相談しましょう。
もう1つ、他に自分で新たな治療を探すという方法もあります。しかしこの場合、エビデンスの確立されていない、自費診療の治療になることが多いので、そのことは知っておく必要があります。
以上、このような方法で、あなた自身が行動することが大切です。しかし1番良いことは、宛先のない紹介状はもらわないことです。
宛先のある紹介状を書いてもらえるようにしましょう。次にその方法についてお話します。
宛先のない紹介状をもらわないために
それでは、宛先のない紹介状をもらわないためには、どうすればよいでしょうか。
まず、宛先のない紹介状を書くような治療医とは、どのような医師かを考えてみましょう。
宛先のない紹介状を書くようながん治療医は、がん治療のことには非常に熱心ですが、治療ができなくなると、何をしていいかわからないと思っていることが多いのです。また、してあげられることは自分にはないと思っている医師も多いと思います。
それゆえ、自分自身でこれからのことは考えてほしいと、宛先のない紹介状を書いてしまうのではないでしょうか。決して悪気があってのことではないと思います。また、一般的にがん治療医は非常に忙しく、ゆっくりと患者さんの話を聞く時間がないことも事実です。
しかし、自分の命の問題です。そんな時あなたがすべきことは、あなたからしっかりと主治医に聞きたいこと、知りたいことを聞くことです。勇気をもって、あなたから、主治医に話し合いたいと切り出しましょう。
とは言っても、何をどのように話したらよいのかわからない人も多いと思います。
まず私が言いたいことは、話し合うのは、積極的抗がん治療ができなくなってから主治医と話すのではなく、治療中から話し合っておくことが大事であるということです。
そのためにあなたがすることは、治療の効果が無くなり、がんが悪くなった時のことを、治療中から前もって考えておくことです。つまり、今の病院でできる積極的抗がん治療ができなくなった後、どのような選択肢があるのかを考えておくということです。
そして、そのことを主治医とも話し合い、抗がん剤ができなくなった時のことを、あらかじめ主治医と決めておければよいと思います。
しかし、治療を一生懸命してくれているのに、悪くなった時のことを話すと、主治医の先生を怒らせるのではないかと思って言えない、という人もいるかもしれません。
そう思うのは無理はないかもしれません。しかし、悪くなった後のことを、積極的治療ができなくなってから考えたのでは遅い場合があります。また、急に考えたのでは良い答えもでてきません。したがって、もし悪くなってしまった時のことは、早めに考えておくことが大事なのです。
Hope for the Best, Prepare for the Worst.
「しっかりとした準備をしながら、最大限の希望を持って生きる」
その上で、がんが良くなるという希望を持って治療をすることが大事です。
それでも「主治医に言いにくい」という人のために、とっておきの魔法の言葉があります。それは「ACP:アドバンスケアプランニング」です。
ACPは、治療や療養先を含めて、どのように最期まで自分らしく生きたいかを自己決定するために、患者さんが、ご家族や医療者と一緒に話しあうことです。
「早いうちからACPを考えておきたいので、先生も一緒に考えていただけないでしょうか」と言ってください。これを言えば、ほとんどのがん治療医は、しっかりと向き合い考えてくれるはずです。
病気が悪くなった時に最期までどのように生きたいか、患者さん・ご家族・医療者と話し合い、最期まで患者さんの希望を叶えようとすることがACPです。
そのことが患者さんの心の安定にもつながるということがわかり、それを推進していこうという、今の医療界の流れがあるから、治療医はACPを大事にしたいと思っているのです。
最後に、がん難民にならないために、あなたが主治医にお願いすることをお話します。それは、3枚の紹介状を書いてもらうということです。
1枚目は、あなたの地域にあるがん診療連携拠点病院宛です。
なぜなら、そこには緩和ケアチームがあるからです。
緩和ケアもしっかりしてもらいましょう。
2枚目は、あなたの地域にある症状緩和がしっかりとできる在宅医宛です。
もし在宅で療養を希望する場合、がんの患者さんの経験が多い、24時対応の訪問看護ステーションも探しておきましょう。
在宅医の探し方についての動画もありますので参考にしてください。
3枚目は、あなたの地域にあるホスピス宛です。
なぜなら、家での療養が難しい場合に入院したり、レスパイト入院ができるからです。
レスパイト入院とは、在宅療養を行うためにとても有用な制度です。別の記事で詳しくお話していますので、参考になさってください。
以上のことを実行することで、宛先のない紹介状をもらうことは防げるのではないかと思います。頑張ってやってみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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