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【患】がん患者さんに多い『口腔内の症状の予防とケア』について緩和ケア医が解説します#111

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「QOLを上げる~口腔ケア~」です。

動画はこちらになります。

今日はがん患者さんにお話します。ただ、ご家族に行ってもらうケアもお話しますので、ご家族もご一緒にご覧になってください。

がん患者さんの口腔内における、痛みや味覚障害などの問題は非常に多いです。がん治療では口腔粘膜炎をいかに防止するかが、治療継続のポイントと言われているほどです。

口腔内の症状によって、食欲が落ち、患者さんのQOLは著しく落ちます。さらに、それを放っておくと、重大な病状の悪化にもつながります。

今日はがん患者さんによく起こる口腔内の問題と、その対処法についてお話します。

この記事で、口腔内の問題が適切に対処できることを知り、治療継続やQOLの向上ができるがん患者さんが増えればうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


がん患者さんに多い口腔内問題

私ががん患者さんの診察をしていると、口の中が痛い、味覚がわからなくなった、口が乾く、などの口腔内の症状を訴える患者さんは多いです。

口の中がつらいと、食欲も落ち、栄養状態も悪化します。また、そのことで気持ちも落ち込み、その結果、生活の質は極端に落ちます。治療中の患者さんであれば、治療の意欲が大きくそがれます。

口腔内の炎症を放っておくと、ばい菌の侵入経路となり、全身感染を起こす可能性も高くなります。口腔内の症状を適切に対処することが、治療の継続、さらにはQOLを維持するためには必須になります。

そのためには、口腔内の異常を、患者さん自ら医療者に伝えることが必要です。少しでも気になったら、我慢しないで、主治医をはじめとする医療者に伝えてください。

そして、ご自分でもできる予防やケアもあります。ご家族、医療者と一緒に、口腔内のQOLを維持していきましょう。

終末期になってくると、さらに多くの患者さんに、何らかの口腔内の問題が生じます。しかし、せん妄などの意識障害も同時に起こってくるため、本人が訴えることができないことも多いのです。

周りの人たちが、定期的に口の中を観察し、必要時にしっかりケアをしてあげることが重要になってきます。ご家族は定期的に患者さんの口の中を観察する習慣を付けてください。そして、何かおかしいなと思ったら、すぐに医療者にお伝えください。

口の中が痛い、味がおかしい、口が乾くなどの、口のなかの問題は、QOLを下げる大きな要因です。我慢しないで医療者に伝えましょう。きっと解決策は見つかります。


治療中の患者さんの口腔ケア

それでは、具体的な口腔内の問題とその対処法についてお話します。まずは、治療中の患者さんの口腔ケアについてです。

1. 口腔粘膜炎

抗がん剤治療、放射線治療による口腔粘膜炎の頻度は、通常の抗がん剤で30~40%、大量の抗がん剤を使用する、白血病などの幹細胞移植の場合は80~90%、頭頸部がんの治療で、抗がん剤と放射線を同時に使用する場合は、ほぼ100%に起こると言われています。

一旦起こると確実な治療法がないので、予防が1番重要です。

①うがいとブラッシング
口腔粘膜炎のケアにおいて、うがいは最も重要です。起床時、3食の食前・食後の6回、寝る前の合計8回が目安です。

基本的には水で十分ですが、殺菌効果のあるネオステリングリーン©︎液でうがいをすることも良いと思います。

うがいだけでは限界がありますので、歯みがきも必ずしてください。歯ブラシはできるだけヘッドが小さく、毛先が柔らかいものがお勧めです。口腔粘膜を傷つけないためです。

歯と歯の間の歯垢をとるためには、歯間ブラシ、デンタルブラシも併用してください。ただし、抗がん剤で血小板が減少している場合は、ブッラシングは出血の原因にもなりますので、主治医に相談して下さい。

②保湿
治療中は口腔内が乾燥しやすくなりますので、保湿が必要になります。

口腔内が乾燥すると、粘膜炎を起こしやすくなります。水分補給、うがいとあわせて、オーラルバランス©︎などの保湿剤を使用して、保湿に心がけてください。

③口腔内の冷却
5FUやメルファランなど、抗がん剤の種類によっては、抗がん剤が口腔内に入ってきて、炎症を起こすものがあるので、薬の投与前30分間、口に氷を含んで口の中を冷やすことが提唱されています。

④禁煙
禁煙も口腔粘膜炎予防のためには重要だと言われています。喫煙者は、これを機会に禁煙も良いかもしれません。

⑤観察
治療中や治療後は、粘膜炎が起きていないか、毎日1回は口の中を鏡で見てください。もし痛みなどの症状がある場合は、必ず医療者に伝えて口の中を見てもらってください。

⑥疼痛緩和
痛みを我慢すると、先ほどお話したように、QOLが極端に低下します。医療者に伝えて、積極的に鎮痛薬を使用しましょう。

基本的には消炎鎮痛薬を使います。しかし、白血病などの幹細胞移植の大量の抗がん剤を使うなどの特別な場合は、医療用麻薬も使います。

⑦栄養管理
もし、口腔粘膜炎が発生、悪化すると、固形物が食べられなくなりますので、食事の工夫が必要となります。栄養士に相談し、食事を食べやすい形態に変更したり、栄養補助食品などの活用も考えてください。

がん治療では口腔粘膜炎をいかに防止するかが、治療継続のポイントと言われています。

しっかり予防して治療を続けてください。

2. 味覚障害

舌にある味蕾細胞は、新陳代謝の盛んな細胞なので、抗がん剤の攻撃を受けやすく、その結果味覚が障害されます。

味覚障害の症状は、個人差があり様々です。味の感覚が低下した、味が全くしなくなったという人もいますが、むしろ、味を濃く感じると言う人もいます。砂をかんでいるようだと言う人もいれば、すべてが苦く感じる人もいます。甘味だけはわかるがそれ以外は感じない、あるいは、酸味だけがわからない、と言う人もいます。

味覚障害の原因は、抗がん剤だけではなく、放射線の粘膜障害や、うつなどの心因性によるものもあります。また、口腔ケアが十分できていない時も味覚障害は起こります。

味覚障害は、先ほどお話したように個人差が大きく、薬物療法の効果はほとんど無いため、個別の食事の工夫が対応の主体となります。そんな時は栄養士の出番です。

味を感じない、または薄く感じるときは、本人が好む味まで濃くしたり、おいしく感じる味を中心に味つけの工夫をします。もともとの味と異なっている時は、違和感のある味付けは避け、色々な調味料を試してみます。味に過敏になった人には、味付けを薄くしたり、酸味の味を利用します。

もちろん、口の中を常に清潔な状態にすることは言うまでもありません。常に患者さんから状態を聞き、本人の意向に沿った食事のサポートが必要です。


終末期の患者さんの口腔ケア

ここからは、ご家族にも知ってほしいお話をします。

以前に『QOLを上げる~最期まで口から食べる~』#92という記事でもお話しましたが、終末期の患者さんで、最期まで自分の口で食べたいと思う方はとても多いです。

そのためには、口腔ケアは必須となります。

ご自分でケアをすることが困難になってきたら、ご家族、医療者ができるだけ毎日患者さんの口の中を観察し、口腔ケアをすることで、常に口の中を清潔にしてあげてください。

今から、終末期の患者さんでよく起こる口腔内のトラブルについてお話します。

1. 口腔内カンジダ症

終末期の患者さんが、舌がピリピリする、味がわからなくなった、などの症状があり、口腔内に白い偽膜が観察されれば、口腔内カンジタ症です。赤く腫れあがる場合もありますので、注意をしてください。分からない場合は、医療者に相談してください。

口腔内カンジタ症は、ステロイドを長期に使っていれば、よく起こります。
それ以外でも低免疫状態の患者さんにも起こります。イトコナゾールやミコナゾールのゲルを使用すると、良くなります。

うがい、ブラッシング、保湿などのケアが大切なことは言うまでもありません。

2. 顎骨壊死

骨転移による、疼痛緩和や、骨折予防のために、骨吸収抑制薬という薬を使います。ゾメタ©︎、ランマーク©︎という薬です。

ところが、これらの薬の副作用として、顎骨壊死というものがあります。これは、歯の根元の骨が溶けてしまう状態のことで、口腔内の衛生状態が悪いとしばしば起こります。

顎骨壊死を起こすと、食事が食べられなくなるだけではなく、疼痛などの症状も強く、QOLがとても落ちます。一旦起こすと、完治は難しいので、予防が大切です。

骨吸収抑制薬を使う前に、歯科の先生に診てもらうことが最も重要です。虫歯がないか、口腔の衛生状態はどうかを見てもらうことです。虫歯の治療や口腔内のケアをしてから、薬を使わなければいけません。

3. 口腔内乾燥

終末期の患者さんの80%~90%が、口の中の乾燥を訴えます。これは、様々な原因で起こります。口呼吸や、酸素マスクの使用などによる乾燥や、脱水、あるいは医療用麻薬や向精神薬などの薬剤の使用などが原因としては多いです。

しかしこれらは、終末期においては必要なことが多いので、中止は困難です。また、脱水だからといって、点滴をしても口の乾燥は良くならないことが多いです。

これもしっかりとしたケアが大事になってきます。なぜなら、口腔内が乾燥すると、食事がおいしくなくなったり、感染症を引き起こしやすくなるからです。

うがいや、保湿剤の使用が推奨されています。唾液が出にくくなっているので、顔面や唾液腺のマッサージも効果があります。しかし、終末期後期になったときは、これらのケアは難しくなるので、口の中をスポンジなどで保湿したり、ぬぐってあげることがケアとなるでしょう。

以上、がん患者さんの口腔ケアについてお話してきました。

口腔ケアは、意外と忘れがちです。しかし、一旦トラブルになると、QOLを下げてしまうので、いつも心に留めておいてください。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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