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【全】がんの人が知っておくべき3つの危険信号「オンコロジーエマージェンシー」 #85

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「がんの症状~オンコロジーエマージェンシー~総論」です。

動画はこちらになります。

がんの患者さんには様々な症状が出てきます。その中でも、対処を急がないものと、すぐに対処をしなければいけないものがあります。すぐに対処しなければ命にかかわるものを「オンコロジーエマージェンシー」といいます。

私が患者さんやご家族に「なにが心配ですか?」とたずねると「これから出るかもしれない症状のうち、どのような状態になったら危ないのかを知りたい」という声をよく聞きます。

この記事では、すぐに対処をしなければいけない、オンコロジーエマージェンシーについてお話します。

この記事を観ることで、オンコロジーエマージェンシーが起こった時に、慌てずに対応できるがん患者さん、ご家族が増えればうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


オンコロジーエマージェンシーとは

がんの患者さんの症状の中でも、すぐに病院に行って対処しなければ、重篤な障害が残ったり、最悪の場合、命にかかわる症状のことを、オンコロジーエマージェンシーと言います。

具体的な症状としては、突然の痛み、突然の息苦しさ、突然の意識障害の3つが特に重要です。

この場合、「突然に」というところが大事です。

突然、今までにない痛みが起こること。
突然、息苦しくなり、うずくまって動けなくなること。
突然、意識が低下して、呼び掛けても返事をしなくなること。

こういった症状が起こった場合は、オンコロジーエマージェンシーと考えてください。

オンコロジーエマージェンシーは緊急に対処しないと命に関わります。在宅でオンコロジーエマージェンシーが起こったら、土・日・祝・深夜でも、かかりつけ医、訪問看護師に迷わず連絡してください。

時間単位に症状が悪化することもあります。しかし、多くの場合、早めに見つけ対処すれば、大事に至らずに済む場合も多いのです。

繰り返します。

「突然の」今までにない痛み、息苦しさ、意識障害。これらの症状があれば、オンコロジーエマージェンシーを考え、医療者に速やかに連絡をしてください。


オンコロジーエマージェンシーの原因

先ほど、オンコロジーエマージェンシーには3つの症状があるといいました。それぞれの原因にはどのようなものがあるでしょうか。

1. 突然の痛み
突然の痛みが出る原因の多くは、おなかにがんが広がって、消化管が閉塞することや、破裂することです。特に消化管に穴が開いた場合、放っておくとおなかにばい菌が入り、それが血液を介して全身に広がり、敗血症ショックを起こします。

多くの場合、24時間以内に手術をしないと、命を落とす可能性が高くなります。
消化管以外にも、尿管、尿路の閉塞でも痛みが出ます。この場合、尿が出なくなりますので、その苦しみもあります。

また、大出血が起こった時にも突然の痛みが起こります。放っておくと、出血性ショックで命を落とす危険性があります。吐血や下血ならすぐに分かりますが、おなかの中の出血はすぐにはわかりにくく、痛みよりも意識障害が症状になることもあります。

2. 突然の呼吸困難
突然の呼吸困難を起こすオンコロジーエマージェンシーで多いものは、肺塞栓です。

がんになると様々な原因で、血管内に血栓ができやすくなります。それが剥がれて肺に行き、肺の血管を詰まらせることにより、呼吸困難を起こします。場合によっては、失神や意識障害も起こすので、早急な治療が必要です。

それ以外の呼吸困難を起こす病態として、上大静脈症候群があります。心臓に直接戻る静脈のことを上大静脈と言いますが、それが腫瘍によって圧迫され、呼吸困難が起こるのです。顔が腫れ、痛みも起こります。

また、心タンポナーデというものもあります。がんの場合は、心臓の膜の間に水が貯まり、心臓を圧迫し、心臓の働きが悪化することで、呼吸困難が起こります。すぐに心臓の膜の間に溜まった水を抜かなければ心不全が悪化し、命の危険となります。

3. 突然の意識障害
突然の意識障害の原因で多いものは、脳の腫瘍です。そのことで、脳が腫れ、意識障害や、場合によってはけいれん発作が起こります。

また、血液の中の電解質のバランスが悪くなることで起こる突然の意識障害もあります。代表的なものは、カルシウムの値が高くなる、高カルシウム血症です。ひどくなると意識障害を起こします。しかし、これはカルシウムの値を下げる注射で治ります。そのことも知っておいてください。

この3つの他に、脊髄圧迫もオンコロジーエマージェンシーの1つです。
以前の「脊髄圧迫」#71という記事で詳しく話しています。

リンクを貼っておきますので、興味のある方は参照してください。


以上、オンコロジーエマージェンシーを引き起こす病態についてお話してまいりました。

「突然の」今までにない痛み、息苦しさ、意識障害。これらの症状があれば、オンコロジーエマージェンシーを考え、医療者に速やかに連絡をしてください。

がんが進行してくると、こうした急に起こる症状はしばしばありますので、その時に慌てないで対応していただきたいと思います。


大腸破裂のケース

大腸がんで治療中の70代の男性の話をします。

彼は治療を頑張っていましたが、肺転移、腹膜転移が広がって、今後の抗がん剤治療は難しくなっていました。以前から私も、緩和ケア外来で診察をしていました。

ある日、彼は急に今まで感じたことのない腹痛を自覚しました。痛み止めを飲んでも全く効きませんでした。その日、彼はたまたま1人で家に居たので、とにかく頑張って、かかりつけ医のクリニックに行きました。

クリニックの先生が彼を診察すると、これはただ事ではない、と判断し、救急車で大学病院に行くよう指示してくれました。彼は大学病院に運ばれ、診てもらいました。やはり、がんが広がって、大腸を破っていた大腸破裂だったのです。救急手術が行われ、彼は一命をとりとめました。

彼は手術の後に私に言いました。

「先生が、急な痛みは何かが起こっているサインだから、その時は急いで病院に行くようにと言ってくれていたので、助かりました。
ありがとうございます。」

私は、進行がんの人には、オンコロジーエマージェンシーのことを伝えるようにしています。今回のケースは、前もって本人に伝えていたことが、良い結果に繋がりました。

患者さん本人が、こうしたリスクを前もって知っておくことの大事さを教えてもらったケースでした。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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