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怒りを患者さんに表してしまう前に自分の心をコントロールする方法を教えます。(アンガーマネージメント)【医】#42

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「医師のためのアンガー・マネージメント」です。

動画はこちらになります。

皆さんは患者さんやご家族と話していて、怒りの感情をぶつけてしまった、もしくは怒りが出てきて隠し切れなかったといった経験はありませんか?

私も若い時には実は結構ありました。また、それで患者さんとの関係が悪くなったこともありました。

確かに、医師も人間ですので、怒りの感情が出てくることはあるでしょう。しかし、この感情を患者さんに出してしまうと、患者さんとの関係は一瞬で崩れてしまいます。

けれどもこの怒りの感情はコントロールできます。

その怒りのコントロール方法をアンガー・マネージメントと言います。

今日は、医師のためのアンガー・マネージメントについてお話します。

この記事は、患者さんに怒りをぶつけないまでも、怒りを感じてしまう医師にもぜひ見てほしい記事です。なぜなら、怒りを見せていないと思っていても、患者さん・ご家族はそんな怒りを敏感に感じ取ってしまうからです。

この記事では、私なりのアンガー・マネージメントを徹底解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


怒りを患者にぶつけることは絶対にしてはいけない

私のエピソードからお話します。

私が研修医3年目の時、20代のクローン病の患者さんの入院主治医を担当していました。患者さんは半年以上も入退院を繰り返していました。入院したら、絶食して点滴治療をしていたのです。

当時はクローン病の治療薬はほとんどなく、食事療法中心で、悪化すると絶食による入院治療が主体でした。その食事療法はとても厳格なもので、もし、絶食期間に普通の食事を食べてしまうだけでも、病状は悪化して手術しなければならなくなることもありました。

ある時、その患者さんが自分で点滴を抜き、隠れてパンやお菓子を食べているところを、主治医である私が偶然見つけたのです。私はびっくりして、患者さんに思わず「何をしているんだ、やめなさい!君は死にたいのか!」と怒鳴ってしまいました。

すると翌日、内科部長に呼ばれ、主治医交代を命じられました。患者さんから、主治医からひどいことを言われたので、主治医を代えてほしいと申し出があったそうです。

私は、「クローン病が悪化している患者さんが、普通の食事をするなんて自殺行為だ。患者さんのためを思って注意したのに、主治医交代させられるなんてひどい!僕は間違っていない!僕のどこがだめだというのだろう。」とその時は全く理解できませんでした。

皆さんが当時の私ならどう思いますか?

今、当時の私に言ってやれることが2つあります。

1点目は、伝えたいメッセージがあるのに、怒りの感情と共に思いを伝えている点です。

医師だって人間です。怒りもします。しかし、怒りの感情とともに、相手にそのメッセージを送ってしまったら、患者さんによくなってほしいという本当の思いが正しく伝わらないのです。

そして、怒ったことで、それまで作ってきた相手との人間関係が一瞬で壊れてしまうのです。怒りを患者さんにぶつけることは、一つも良いことはなく、絶対にしてはいけません。

2点目は、正論で患者さんを責め、患者さんのつらい気持ちをわかろうとしていなかった点です。

もちろん、この患者さんが点滴を抜いて食事をすることは、当然良くないことです。けれどもそれは、入退院を繰り返していた患者さんも重々わかっていたと思います。それでも食事をしてしまったということは、余程のことであったはずなのです。患者さんが目を盗んでお菓子を食べているところを見つけた時、実は患者さんのつらい気持ちに寄り添えるチャンスだったのです。

私はこの内科研修の後、心療内科に入局しました。その時の教授で恩師の中井先生が

「自分の中に怒りなどの感情が起こってきたときは、患者-医師関係に変化が起こっている時です。自分の感情に敏感になりなさい。患者さんを理解する大きなチャンスなのです。」

と教えてくださいました。

振り返って考えると、あの時の自分は、患者さんに良くなってもらいたいという、患者さんに対する思いがありました。それが怒りという感情で現れたのだと思います。

怒りをぶつけるというやり方ではなく、患者さんの気持ちを理解し、私の思いを患者さんが受け取れる形で伝えていれば、関係性は壊れることもなく、むしろ良い関係が作れたのでは、と今は思っています。


なぜ怒ってはいけないのか

なぜ患者さんに怒りをぶつけてはいけないのでしょうか。

先ほども申し上げましたが、医師が怒りの感情をぶつけてしまうと、患者さん・ご家族に嫌悪感を持たれ、信頼関係が一瞬で壊れます。

患者さんとご家族は医師との関係をとても敏感に感じています。ですから、医師は怒りの感情は出していないと思っていても、実際は結構伝わっているものなのです。

また、怒りの感情とともに伝えると、自分の本当の思いが正しく相手に伝わりません。本当は患者さんのことを考えて言っているのに、そのことが伝わらず、怒りそのものが伝わるため、本当の意図が伝わりません。先ほどの私の例でもそうでしたよね。

また医師が怒ると、ほとんどの患者さんは委縮します。そうなると、今後大事なことも言ってくれなくなる恐れが出てくるのです。

さらに怒りは、医師自身の身体の健康にも影響を及ぼします。怒りやすい人は、自律神経のバランスが悪くなり、血圧が上昇したり、突然死のリスクも上がると言われています。

したがって、怒りの感情をコントロールし、自分の気持ちを常にニュートラルにするすることが大切なのです。


Dr. Tosh流アンガー・マネジメント

それでは、Dr. Tosh流のアンガー・マネジメントをお伝えしたいと思います。

ポイントは5つあります。

1. 自分は怒っていると意識する
2. ゆっくり3回深呼吸する
3. 可能であればその場を離れる
4. 後から患者さんの思いを考える
5. 患者さんの思いを聞いて自分の思いを伝える

この5つです。


まず皆さんはどんな時に怒るのか、あるいは、過去どのような時に怒りが出たのか、思い出してください。そして自分はどんな時に怒るのか、その時の状況、気持ちを振り返ってみましょう。

1つ例を出し、それに沿って説明します。自分の事例だと思って考えてみてください。

あなたは午前診を担当しています。午後1時になりましたが、まだ10人患者さんが待っています。あなたの目の前の患者さんが長話をして、まだ終わる様子がありません。あなたは「もうそろそろ終わってくれよ。まだ患者さんが10人もいるよ。2時からは検査が入っている。昼食を食べる暇もないじゃないか。」と心で思っています。

1. 自分は怒っていると意識する

この時点で、あなたはもうイライラしています。イライラは怒りの前兆です。もう少しこのままにしていれば「もういい加減話を終わってください。」と怒りをあらわにしてしまうかもしれません。

このセリフを言う前に、自分は怒っている、ということを意識してください。無意識にしていることはコントロールできません。自分の怒りをコントロールするためには、まず自分の怒りの感情を意識することが大切です。

2. ゆっくり3回深呼吸する

次にゆっくり3回深呼吸をしましょう。一般的に怒りのピークは6秒といわれているからです。

怒りの感情はほんの数秒で発生します。この数秒間をコントロールすることで、最悪の事態を避けることができるようになります。3回深呼吸する間に怒りのピークは過ぎていき、心が安定してきます。

3. 可能であればその場を離れる

ベッドサイドで診察しているのなら、「少し失礼します」と言って、席を外しましょう。外来診察中の場合は難しいと思うかもしれませんが、数分間なら可能です。

時間がないのにそんなことできないと思う人もいるかもしれませんが、急がば回れです。私は外来でも、そういった時には席を立つようにしています。

そして、患者さんの見えないところで、肩を回したり、屈伸したりしてリラックスします。そして気分が少し変わったな、と思ったら、再度診察室に戻ります。

そうしたら「いろいろお話したいことがあると思いますが、今はあまり時間が取れないので、次回の診察で詳しくお話を聞かせてください。次回はもう少し時間を取りますね。」と落ち着いて、患者さんに言えるかもしれません。

4. 後から患者さんの思いを考える

あなたの怒りが出そうになった原因は、目の前の患者さんが長話をして「昼食を食べる時間がない、すぐに午後の仕事に行かなければいけない、時間を奪われた」というものだと思います。

けれども、後からで構いませんので、この患者さんがなぜ長話をしたのか、その思いに心を寄せてみてください。

そして、冒頭で紹介した私の恩師である中井先生の「自分の中に怒りなどの感情が起こってきたときは、患者-医師関係に変化が起こっている時です。自分の感情に敏感になりなさい。患者さんを理解する大きなチャンスなのです。」という言葉を思い出してください。

このケースで言えば「時間が押していることは、あの患者さんだって知っていたはずだ。それなのになぜ話をつづけたのだろう。もしかして、今まで言えなかったことを言おうとしてたのに、なかなか切り出せなかったのかもしれない。」などと私なら考えます。

5. 患者さんの思いを聞いて自分の思いを伝える

そうであれば次の診察の時に、「前回は時間がなくてすみません。実は何か大切なことをお話しようとしていたのではないですか。」と聞けるかもしれません。

こういった場面は患者さんの本音を聞けるチャンスですし、自分のメッセージを伝えるチャンスでもあるのです。

以上、怒りとそのコントロール方法についてお話してまいりました。

怒りは単に悪いものではなく、自分の心を見つめるきっかけになるものです。これを機会に皆さんの「怒り」の感情について考えてみてください。そのことで、患者さん・ご家族とさらに関係性が良くなれば幸いです。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「医師が患者さんに一番してはいけないことは、患者さんに怒りの感情をぶつけてしまうことです。それが、患者さんを思っての言葉だとしても、怒りの感情と一緒に伝えた言葉は、患者さんには正しく伝わりません。患者さんとコミュニケーションを取る際には、自分の気持ちを常にニュートラルにして臨みましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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