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在宅療養を支える3つのサポートとレスパイト入院 #51

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「在宅療養のコツ」です。

動画はこちらになります。

積極的抗がん治療を終えた患者さんとそのご家族の多くは、最期の療養先に家に帰ることを選びます。長い病院での生活の後、家に帰りたいというのは、ごく当たり前のことです。けれども、がんが進行してくると様々な症状が出てきたり、介護が必要になってくる方もいらっしゃいます。

最近は核家族も多く、介護をする人が奥さん1人ということもめずらしくありません。ご家族が疲れ果ててしまうと、気持ちに余裕が持てなくなり、せっかく我が家に帰ったのに、とてもつらい状況になってしまうこともよくあります。

最期の療養先に在宅を選択された方には、ぜひとも上手にまわりのサポートを受けていただきたいと思い、この記事を作りました。ご家族で豊かな最期の時間を過ごすために、この動画が少しでもお役に立てれば嬉しいです。

本日もよろしくお願いいたします。


あなたはお疲れではないですか?

積極的抗がん治療を終え、家に帰ってきたがん患者さんのご家族にお聞きします。

ご家族で相談して家に帰るという選択をしたと思いますが、なぜこの選択をしたのかもう一度思いだしてみてください。

患者さん本人が家に帰りたいといわれたからでしょうか。
最期まで家で過ごしたいといわれたからでしょうか。
そしてあなたが介護をしようと思われたからでしょうか。

家に帰りたいと思う気持ちはごく当たり前の気持ちだと思います。そして、その気持ちを支えたいというご家族の気持ちは素晴らしいと思います。だからこそ、ご家族であるあなたに、これからの私の話をぜひ聞いてほしいと思います。

私の経験から言えば、1人で何もかも抱えて、患者さんを在宅で看取ることは、心身共に大変なエネルギーが必要です。私は、1人で介護をされて、燃え尽きそうになっている家族の方をたくさん見てきました。

結論から申し上げます。

できる限り家で過ごしたいと希望されているのなら、一人で抱え込まないで、様々なサポートを受けてください。

サポートを受けることで、患者さんはもとより、あなたも楽に家で生活ができ、患者さんとの大事な時間を過ごすことができるでしょう。


3種類のサポート

ご家族が受けたら良いと思うサポートには3種類あります。

もしあなたが3種類のサポートすべて受けていると思うなら、燃え尽きる可能性は低いと思います。しかし、3つとも受けていないのなら、どんなにタフな人でも介護を続けているといずれ燃え尽きる可能性が高いと思います。そのような人は大至急サポートを受ける必要があります。

それでは、3種類のサポートについて説明してまいります。

1つ目はあなたのかわりになって患者さんを助けてくれる人です。

この方達は、患者さんの食事を作ってくれたり、患者さんを病院などに運んでくれたりする人です。

家族、友人でできるにこしたことはありませんが、これは介護保険をうまく活用すると、かなりの部分を補ってくれます。食事、掃除などの家事はヘルパーさんがしてくれますし、介護タクシーが病院の送迎をしてくれます。介護保険が使えれば、ケアマネージャーがつきますので、その方に相談すればよいでしょう。

2つ目は、あなたの知らない情報を教えてくれる人です。

あなたの知りたい情報は何ですか?
患者さんの病状がこれからどうなっていくかでしょうか。
患者さんが、あと、どのくらい生きられるかですか。

在宅ならば、往診の先生、訪問看護師さんに来てもらって、それらのことを尋ねてください。医療者はその時その時の患者さんの病状をあなたに教えてくれます。今の治療、ケアの状態、そしてあなたがなすべきことを教えてくれるでしょう。

また、相続のこと、葬儀のことなどもいずれ知っておかなければいけませんよね。
そういったことを相談に乗ってくれるような人をあらかじめ決めておけばよいですね。

3つ目は、あなたの気持ちを癒してくれる人、情緒的な部分のサポーターです。

実はこれが一番大事です。

患者さんが家で頑張っているんだから、自分も頑張ろう、弱音を吐いたらだめ、などと思っていませんか?

大事な人の弱っている姿をみるのは、誰だってつらいものです。

気持ちのつらさを口に出すことは、決して悪いことではありません。むしろそのことを、分かってもらえる人に話してつらい気持ちを手放すことで、気持ちが楽になったり、勇気をもらえることがあるんです。

あなたの気持ちを手放すこと、ぜひこれをしてください。

気持ちを手放すことは、女性に比べ男性が苦手な人が多いように思います。家族、友人に言えない方は、専門家にご相談下さい。

在宅では、ケアマネージャーや訪問看護師などがこのサポーターになってくれますし、必要であれば、私のような心療内科医や臨床心理士を紹介してもらえます。

繰り返しますが、つらい気持ちはあなたの情緒的なサポーターに話して、手放しましょう。

まとめると、

1つ目はあなたのかわりになって患者さんを助けてくれる人
2つ目は、あなたの知らない情報を教えてくれる人
3つ目は、あなたの気持ちを癒してくれる人、情緒的な部分のサポーター

この3つのサポーターを作り援助を受けてください。


ホスピスのサポート

それでも心身共に疲れてしまう時があるかもしれません。そんな時、ホスピスなどの施設によるレスパイト入院という制度を使ってみてはいかがでしょうか。

レスパイトとは、「一時休止」「休息」という意味です。在宅での介護に疲れたご家族に休んでもらうため、一時的に患者さんが入院できる制度です。あなたがリフレッシュできたら、患者さんは退院して、在宅での生活に戻れます。

レスパイト入院の方法については、こちらの記事で詳しく説明しています。リンクを貼っておきますので、参考になさってください。

患者さんが安心して在宅での生活を送るためには、あなたに心の余裕があることが必要なのです。レスパイト入院はそのためのサポートなのです。

あなたが心身共に落ち着いていれば、患者さんは安心できます。その結果、あなたと患者さんは豊かな時間を過ごせるでしょう。

ただ、レスパイト入院をご家族から患者さんに勧めるということに多くの方は抵抗があるかもしれません。

患者さんがしんどい中、自分だけがゆっくりすることに罪悪感を持ってしまうご家族もいると思います。しかし、ご家族が休むという選択は何も悪いことはありません。あなたがしっかり休み、元気になることが、ひいては患者さんを支えることになります。

迷っている方にはレスパイト入院をお勧めします。

そうはいっても、ご家族がこの選択をすることに抵抗はあると思います。レスパイト入院を患者さんに勧めやすいのは家族以外の第三者です。例えば、ケアマネージャー、訪問看護師、在宅のドクター、ご友人です。

もし、この記事をご覧になられているそのような立場の方は、レスパイト入院というものがあるということを知って、ご家族にお勧めしてあげてください。


レスパイトで救われた家族の話

患者さんのケアを在宅で1人でしており、疲れ切ってしまったご家族が、ホスピスのレスパイト入院で、元気を取り戻したケースについてお話します。

患者さんは60代の男性です。3年前に大腸がんとなり、手術をしました。進行がんであったので、術後の抗がん剤治療を勧められましたが、本人の意思で抗がん剤はしませんでした。

家族は奥さんがおられましたが、子どもはいませんでした。彼は私の昔からの友人です。私は親しみを込めてパパさんと呼んでいて、夫婦ともども交友がありました。

私は抗がん剤はした方が良いと思いましたが、術後、彼がとても元気になったこと、何よりも彼が自己決定したことを尊重しようと思い、何も言いませんでした。

その後、彼は念願だったアルプスのふもとで住むことを実現するため、引っ越しをしました。「近いうちに遊びに行くから。」と私は言いましたが、仕事の忙しさから、彼の新居には行けていませんでした。

半年後、彼と私の共通の友人から電話がかかってきました。

「実は、パパさんのがんが再発した。家でいるけど、だいぶつらそうだ。言うな、と言われていたんだけどほおっておけなくて。

私は驚きました。「とにかく行くから。」とパパさんに連絡して、彼の自宅に行きました。

彼は笑顔で迎えてくれました。しかし、以前の彼とは比べようもないくらい痩せて、トイレに行くのも介助が必要な状態でした。更に背中からおしりにかけての痛みがひどく、夜もほとんど寝られていないと言われました。

「主治医から薬はもらってるんだけどね、効かなくて。」

彼は処方されていた医療用麻薬を見せてくれましたが、彼の痛みは痩せて筋肉が減ったことが原因の痛みだったので、違うタイプの鎮痛薬の必要性を感じました。そして、余命も1~2か月の終末期になっていることも私にはわかりました。

しかし、それよりも驚いたのは奥さんの疲れた表情でした。

彼女は良く笑う、明るくて美しい女性だったのですが、その時は10歳以上年を取ったように見えました。

聞くと、食事から下の世話まで、すべての介護は彼女がしている。夜も何回もトイレに行くから、ほとんど寝られていない、とのことでした。

「介護保険も申請したほうがいいと病院からと言われたから、これから申請に行こうと思っている。訪問看護も最近お願いしたところ。」とのことでした。

パパさんはこんなに弱っているのに、今からそれを始めるところなのか。それなら余命も聞いていないだろうなと思い、彼女に「誰か相談する人はいる?」と聞いてみました。

すると彼女は「いつも夜に瞑想して、自分に大丈夫と言ってるの。2週間前まではつらかったけど、今は大丈夫だと思う。」と答えました。

彼女は先ほどお話した、3種類のサポーターが全くいない状態で、しかも、燃え尽きそうになっていることを自覚していない、と思えました。

「これではサポートが入る前に二人ともつぶれてしまうな。」そう思った私は思い切ってある提案をしました。

それは私の地域のホスピスにレスパイト入院することでした。

「断るだろうな、再発のことも言わなかったくらいだし。」と思っていると、
なんと彼は「ありがとう、Toshのところのホスピスに行くよ。」言いました。奥さんも驚いてはいましたが、夫が行くならと、同意してくれました。

1週間後、彼はホスピスに入院しました。そこでは、適切に症状緩和をしてもらい、痛みはほとんど無くなりました。奥さんも友人の家に寝泊まりし、ホスピスに通うようにしました。

友人たちの情緒的サポートもあり、彼女の表情は徐々に明るくなり、以前の笑顔もみられるようになりました。

それから1か月後、彼はホスピスで安らかに旅立たれました。2人とも自宅に帰りたいと最期まで思っていましたが、残念ながらそれは叶えられませんでした。

彼が亡くなって1年近くたった今では、奥さんは以前の明るさと美しさを取り戻され、元気に暮らしています。

「あの時Toshが来てくれなければ、二人で野たれ死んでたわ。」と冗談交じりに話されますが、私も冗談抜きでそうなってたかもしれないな、と思ったりします。

この例からも言えますが、ご家族のこころの健康は、患者さんにとっても必要なものですね。

患者さんの思いをかなえることは大事です。しかし、あなたが燃え尽きてしまってはいけません。あなたと患者さんが良い時間を過ごせるように、しっかりとサポートを受けてください。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん、ご家族、医療者向けに発信をしています。

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また次回お会いしましょう。

お大事に。



ここまでお読み頂きありがとうございます。あなたのサポートが私と私をサポートしてくれる方々の励みになります。 ぜひ、よろしくお願いいたします。