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がんの2種類の倦怠感をアセスメントできるようになろう【医】#62

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「倦怠感のアセスメントと対処」です。

動画はこちらになります。

倦怠感は最も多くのがん患者さんを悩ませているにも関わらず、医療者はそれを見逃してしまいがちです。

前回の記事では、がん患者さんの倦怠感は具体的にどのようなものなのか。

がん患者さんの倦怠感をなぜ見逃してはいけないのか。

なぜ患者さんは主治医に相談できないのか。

患者さんの倦怠感にどうやったら気付くことができるのかまでをお話しました。

今回の記事では、その倦怠感をどのようにアセスメントするのか、基礎的な倦怠感の治療方法を具体的にお話します。前回の記事と今回の記事を習得すれば、倦怠感の緩和ケアの初級編がマスターできると言えるでしょう。

前回の記事はこちらです。


この記事は、研修医などの若いドクターや、あまりがん患者さんに接する機会の少ない先生、がんの倦怠感について詳しく知りたい方に観ていただきたい記事です。

ぜひ、最後までご覧いただき、実際の臨床に役立てていただければ幸いです。今日もよろしくお願いします。


「倦怠感」アセスメントの5つのポイント

前回の記事でもお話したように、倦怠感について大事な点は、患者さんが倦怠感を感じているかどうかに気づくことです。

疼痛や呼吸困難などの身体症状は、患者さん自身が口に出さなくても、医療者側が客観的に気付きやすいのですが、倦怠感は見ただけではわかりにくいので、見逃しやすいのです。ですから、医療者は患者さんに倦怠感がないかどうか、常に意識していることが大切です。そして、患者さんに倦怠感があるかもしれないと思ったときから、アセスメントを始めてください。

倦怠感のアセスメントにはポイントがあり、次の順に行ってください。

①倦怠感の有無を尋ねる
②倦怠感の程度を聞く
③倦怠感の原因を探る
④治療可能かどうか判断し、できる治療は行う
⑤自分で難しい場合はコンサルトする

それではそれぞれのポイントを順番にお話していきます。


倦怠感の有無を尋ねる

倦怠感のアセスメントのポイントの一つ目は、患者さんに倦怠感があるかどうかを尋ねることです。

先ほども言いましたが、倦怠感は見ただけではわからないことが多いです。ですので、患者さんご本人に聞くことが重要です。また、これは前回の記事でも言いましたが、倦怠感の有無は、一回聞いただけではわからないことが多いのです。

「だるいですか」と尋ねて「だるくはない」と答えたとしても、「疲れやすいですか」と尋ねると「はい」と答えることがあったりするのです。なぜなら、人によって倦怠感の感覚が微妙に違うからです。

したがって、「疲れやすいですか」「億劫になりますか」「横になりたいと思うことは多いですか」などと、いくつか言い換えた質問を複数回行う必要があります。「はい」と患者さんが答えた場合、次の段階に進みます。


倦怠感の程度を聞く

倦怠感のアセスメントのポイントの二つ目は、倦怠感が患者さんにとってどれくらいつらいものなのか、つまり倦怠感の程度を尋ねることです。

患者さんが「だるいです」と答えてきたとき、どれくらいだるいのかを、疼痛などと同じように自覚的症状スコア、つまりNRSの0~10点で答えてもらってください。

この例でしたら「最高にだるい時を10点、全くだるくない時を0点として、今のだるさは何点ですか。」と聞いてください。これも疼痛のアセスメントと同じく、今後倦怠感の治療をした結果、どの程度改善したか、あるいはそうではないのかの変化の指標になります。

次に、倦怠感が生活や治療にどれくらい影響しているかを探ります。これはとても大事なことです。なぜなら、倦怠感はQOL・ADLや気持ちのつらさに、大きく影響するからです。これによって、経過観察で良いのか、治療が必要なものかを判断します。

例えば、「だるさのせいで、仕事や家事ができないということはありませんか?」とか「だるさのせいで、抗がん剤治療を続けることがつらくなっていませんか?」などと聞いて、生活・治療などがどの程度障害されているのか、あるいはそれほどでもないのかを確認してください。


倦怠感の原因を探る

倦怠感のアセスメントのポイントの三つ目は、倦怠感の原因を探ることです。

以前の記事でも説明しましたが、倦怠感には一時的倦怠感と二次的倦怠感の2種類があります。

一時的倦怠感は、がんが進行することで起こりますが、はっきりとした原因がわからないことが多いです。がん患者さんの倦怠感のほとんどはこの一時的倦怠感です。しかし、倦怠感をすぐに一時的倦怠感だと決めつけてはいけません。患者さんが訴える倦怠感の中には、二次的倦怠感もあり比較的治療しやすいからです。

二次的倦怠感は、がんが進行することで起こる、身体の変化の中で起こるものですが、はっきりとした原因があるものが多いということが特徴です。

二次的倦怠感には様々な原因があります。例えば、貧血、感染、脱水、電解質異常、内分泌異常、栄養障害、肝臓・腎臓などの臓器障害、精神症状などです。
抗がん剤に代表される薬剤も倦怠感を起こします。

原因がわかるものは、多くの場合改善できます。まずは二次的倦怠感が起こっていないか、検査などで確認し、倦怠感の原因を探りましょう。


治療可能かどうか判断し、できる治療は行う

倦怠感のアセスメントのポイントの四つ目は、倦怠感の原因が二次的倦怠感であり、治療可能と判断した場合、即座に治療をするということです。

二次的倦怠感の中で治療あるいは対処可能なものは4つあります。

1. 貧血
2. 感染・脱水
3. 電解質異常・内分泌異常
4. 抗がん治療

倦怠感の原因がこれら4つの場合、原因を治療することが倦怠感の改善に繋がりますので、即座に治療・対処を開始しましょう。それではこれら4つの治療可能な二次倦怠感の原因を説明します。

1.貧血

まずは貧血です。がん患者さんが起こす貧血の原因は多岐に及びます。抗がん剤などによる骨髄抑制、鉄欠乏、出血、サイトカインによる溶血、腎性貧血など様々です。

輸血などで貧血の改善をすれば、倦怠感は改善することが多いのですが、そうならないこともあります。基本的に貧血を起こす原因となった疾患を治療をすることが貧血の改善に繋がります。ですので、これらの治療を行い、貧血の改善を図りましょう。

2. 感染・脱水

次に感染・脱水です。細菌感染・ウイルス感染が引き金となり、サイトカインが身体の細胞から出てきます。そのサイトカインにより倦怠感が起きると考えられています。

さらに発熱により脱水になると、これも多くの場合、倦怠感を起こします。
抗生剤などによる感染症の治療や、輸液による脱水の改善が倦怠感の治療になります。

3. 電解質異常・内分泌異常

高カルシウム血症・低ナトリウム血症などの電解質異常も、倦怠感を起こします。また、甲状腺機能低下症や糖尿病の悪化も倦怠感の原因となります。そして、これら疾患の治療により倦怠感は改善できます。

電解質異常・内分泌異常も倦怠感の原因になることをしっかり認識しておき、定期的に検査を行うようにしましょう。

4. 抗がん治療

多くの抗がん剤の投与後、数日~10日あまり倦怠感が続くことがよくあります。しかし多くの場合、その後に倦怠感は無くなりますので、患者さんにそのことをあらかじめ伝えておくことが重要になります。

抗がん剤の投与後に倦怠感が起こること、そしてそれは長く続かないという事を患者さんが知っておくことで、患者さんは安心できるからです。

ただし、抗がん剤治療を何度も行うと、倦怠感が改善しないこともしばしばあります。その際は抗がん剤をやめるか、休むなどの処置が必要です。

放射線治療は、短い場合だと数日で終了することもありますが、多くの場合、1カ月間あるいはそれ以上継続して行われることが多い治療です。治療の初期は倦怠感を感じる患者さんは少ないですが、治療の終盤から治療が終了してしばらくは倦怠感が続くことが多いです。

しかし、放射線治療の場合も、しばらくすると倦怠感は軽快してきますので、このことも抗がん剤の時と同様に、患者さんにあらかじめ伝えておくことが必要です。


自分で難しい場合はコンサルトする

今までは、比較的治療しやすい二次的倦怠感についてお話してきましたが、二次的倦怠感のうち、悪液質・精神症状が原因の倦怠感と、一時的倦怠感は、一般的に治療が難しいと思われる倦怠感です。したがって、自分で対処が難しいと思った場合は、緩和ケアチームなどの専門家にコンサルトしてください。

1.悪液質

悪液質は、がんだけでなく、心不全やCOPDなどの良性慢性疾患の末期にも見られます。筋肉量の減少を特徴とした体重減少、食欲低下、そして倦怠感の症状が起こることが特徴です。

これらは一時的倦怠感と同様、サイトカインが関与していると考えられています。悪液質の治療としては、ステロイドやエドルミズ®などの薬がありますが、使い方が難しいので、慣れていない方は緩和ケアチームなどの専門家にコンサルトすることをお勧めします。

2.精神症状

うつ・適応症状が悪化したり、不眠が重なったりしても倦怠感を起こします。

精神症状からくる倦怠感は医療者にはわかりづらく、見逃されることも多いです。もちろん治療は専門家にコンサルトする必要がありますが、治療が必要な精神症状かどうかは、皆さんにアセスメントしていただかなくてはいけません。

その際に患者さんにきいてほしい2つの質問があります。

①今まで好きだったことができなくなっていませんか
②一日中落ち込んだ気持ちが続いていませんか

この2つのうちどちらかがあり、それが2週間以上続いていたら、うつの可能性が高いです。その際には、必ず精神科・心療内科・緩和ケアチームなどの専門家にコンサルトしてください。

3.一時的倦怠感

一時的倦怠感はがん患者さんの倦怠感のうち、一番多く、原因が明確ではありません。それゆえ、多くの患者さんは苦しんでいるにもかかわらず、なすすべがなく、放っておかれていることも多いのが現状です。

それでもステロイドや漢方薬などの治療法や、ケアの方法はあります。一時的倦怠感の治療については別の動画で詳しくお話します。

ここでは、一時的倦怠感、つまり原因がはっきりしない倦怠感があり、患者さんが苦しんでいたり、QOLの低下が見られたら、ぜひ緩和ケアチームなどの専門家にコンサルトする、ということを意識してください。

以上、倦怠感のアセスメントと治療についてお話してきました。患者さんの倦怠感を見逃さず、的確にアセスメントをしてください。そして、あなたにできる治療は行い、できないものに関しては専門家にコンサルトしましょう。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「がんの倦怠感には、一時的倦怠感と二次的倦怠感の2種類があります。まずは、あなたに治療できる倦怠感なのかをしっかりとアセスメントしてください。そして、治療可能な倦怠感には対処し、できないものは、専門家にコンサルトしましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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