肺がん・肺転移による呼吸困難の症状緩和はたった2つのポイントを抑えれば解決します【医】#8
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「肺がんで苦しませないために」です。
動画はこちらになります。
肺がんや肺転移で終末期に苦しむ症状の多くは呼吸困難です。呼吸困難の症状が完全にとれず、苦しんで最期を迎える患者さんも少なくありません。
治療医の先生で、ステロイドも使っているし、場合によっては鎮静薬をつかう場合もあるけれどなかなかうまくいかない、どうしたらいいだろうと悩んでいる方もいるでしょう。
この動画では、終末期の呼吸困難で苦しむ患者さんの症状緩和の方法を具体的にお話します。ぜひ、最後までご覧ください。
今日もよろしくお願いします。
終末期の呼吸困難:2つの緩和方法
終末期の呼吸困難の症状を取るためには2つのポイントがあります。それは、モルヒネの持続注射と鎮静です。そして、この2つの方法を組み合わせることが秘訣です。
まず、内服していたオピオイドを、モルヒネの持続注射にスイッチします。そして、モルヒネの持続注射の効果がなくなってきた時、それに鎮静を重ねるのです。
私の見たうまくいっていないケースでは、ほとんどの場合、モルヒネの持続注射を使わずに鎮静のみをしていました。
患者さんの意識は落ちますが、呼吸困難の苦しみは取れていないので、苦痛表情は取れません。必ず、モルヒネの持続注射をして、そのあと必要に応じて鎮静をしてください。
繰り返します。
肺がんや肺転移などによる終末期の呼吸困難の症状を緩和する方法は、モルヒネなどの医療用麻薬の持続注射と鎮静です。このスキルを使うと、患者さんの終末期の呼吸困難の苦痛を取り除き、穏やかな看取りに繋がります。
それでは次に、その具体的な方法についてお話します。
モルヒネの持続注射について
皆さんは、呼吸困難の症状緩和にモルヒネが有用であることはご存じだと思います。
モルヒネは、呼吸困難の症状緩和のエビデンスが多くあり、私も実際に使用していて効果の実感があります。
患者さんが元気なうちは、内服できるので、内服薬を処方すると思います。しかし病状が進行してくると、内服が困難になります。特に肺に腫瘍があり、それが悪化してくると痰や咳がひどくなり、薬を飲むことは患者さんにとって非常に苦痛となります。
その時、皆さんはどうしますか?
飲めないのだから、フェンタニル貼付剤に切り替えると考えるかもしれません。しかし、呼吸困難がある場合、これは絶対にしないでください。
フェンタニルには呼吸困難の症状を取る効果はほとんどありません。フェンタニルにも呼吸困難を抑制するのではないかという人もいますが、私の経験上でも、フェンタニルにはほどんど呼吸困難には効きません。詳しくは後ほど説明します。
モルヒネには座薬もあるので、座薬の投与に切り替えるという先生もいるかもしれません。これも適切ではありません。
座薬は効果が数時間しか続かないので、定期的に挿入する必要が出てきます。呼吸困難の症状で苦しんでいる患者さんに、その都度体位変換して薬を挿入するのは、患者さんに苦痛を強いるものでしかありません。
私はモルヒネの持続注射、つまり皮下注射、あるいは静脈投与をします。これだと、確実に薬剤の血中濃度が維持でき、患者さんの体力の温存も可能だからです。
モルヒネの内服から注射へのスイッチ、すなわち、皮下注射、あるいは静脈投与にすることがまず1番目の大事なポイントです。
もう1つのポイントが、スイッチの時期です。患者さんは持続注射は、あまり好きではないという人が多いです。
ですから、内服できるうちはぎりぎりまで内服してもらい、いよいよできないという段階になってから注射にスイッチする方がいいとはじめは私も思っていました。しかし、そうするとうまくいかないことが多かったのです。
むしろまだ内服はできている時期から、注射にスイッチする方がうまくいくことがわかってきました。なぜなら、内服ができないような状態とは、かなり病状が悪化している状態だからです。
もし内服ができたとしても、腸管から吸収できる量が低下しています。その時に切り替えたのではオピオイドの量の調節が難しいのです。その結果、患者さんの苦痛を取るのに、時間がかかってしまうのです。
スイッチの時期は、具体的には、食事の量が減ってきて、横になっている時間が増えてきた時、つまり、余命が数週間程度と思える時期に切り替えます。まだ内服ができている間に、早めに持続注射に切り替えるのがコツだと言えます。
まだ元気で、症状が軽いうちに内服から持続注射にスイッチし、薬剤を確実に吸収ができる状態にしておくことが重要です。これが2つ目のポイントです。
持続注射には皮下注射と静脈注射があります。病院やホスピスでは、医療者による24時間管理ができるため、薬剤の素早いコントロールが可能な静脈注射を取ることが多いのです。
一方、在宅での第一選択の投与方法は皮下注射です。静脈注射よりも効果発現の時間はかかりますが、24時間医療者による管理ができなくてもオピオイドの量を一定にコントロールでき、安全だからです。
皮下注の詳しい方法については他の記事で詳しく説明してあります。
もう1つモルヒネを使う際の注意点を付け加えておきます。
急変を起こし低酸素状態で、すでに呼吸不全になっている患者さんにモルヒネを使う場合は、最小量から少しづつ量の調節をしなければ、昏睡状態になったり、呼吸停止になったりすることがあります。したがって、十分注意が必要です。
いては、また別の記事でお話する予定です。
モルヒネ以外のオピオイド
呼吸困難を取ることのできるオピオイドはモルヒネだけでしょうか。
がんの症状緩和によく使われる薬にはモルヒネ以外に、ヒドロモルフォン、オキシコドン、フェンタニルがあります。
モルヒネは代謝物に活性があり、腎機能が低下している場合には使えません。
ヒドロモルフォンには代謝物に活性がないので、腎機能が低下している場合でも安全に使えます。また、ヒドロモルフォンは肝臓でグルクロン酸抱合されるので、CYP代謝の影響を受けません。したがって、薬物相互作用の影響を受けにくいです。
ところが、オキシコドンやフェンタニルはCYP代謝の影響を受け、薬物相互作用を起こすので、いろいろな薬物を使用する治療中のがん患者さんには使いにくい薬です。
ヒドロモルフォンはがん性疼痛には有効なエビデンスがありますが、私の経験的には、呼吸困難の症状を和らげる効果もモルヒネと同程度あります。
しかし、まだ呼吸困難に対しての臨床研究は進んでいないので、呼吸困難に対してエビデンスがある薬とは言えません。早く呼吸困難に対する臨床研究が進んで欲しいと思っています。
オキシコドンに呼吸困難に対する効果があるという緩和ケア医もいます。しかし、私も使ってみたことはありますが、あまり効く実感はありません。オキシコドンも呼吸困難に対するエビデンスはありません。
フェンタニルは先ほども言いましたが、呼吸困難の症状にはほとんど効果はありません。
フェンタニルは、μ1レセプターに選択的に働くオピオイドだからだといわれています。μ1レセプターは疼痛のみに選択的に働き、ほかのところには働きません。実際、便秘などの副作用はほかのオピオイドに比べ、とても少ないのがフェンタニルの特徴です。
内服できないからといって、呼吸困難の症状にフェンタニル貼付剤を使ってはいけません。
鎮静をする時は間欠的鎮静
呼吸困難の症状にも、効果のあるオピオイドの量にも個人差があります。
疼痛の場合、オピオイド量を増やせば、その分緩和できる場合が多いです。しかし、呼吸困難の場合、オピオイドの量を増やしたからといって、量に応じた症状緩和は必ずしもできません。
オピオイドの量を増やしても呼吸困難の症状が緩和できない場合には鎮静薬を使い緩和をすることが必要となってきます。
鎮静には、間欠的鎮静と持続的鎮静があります。
ここでの鎮静のポイントは、間欠的鎮静をすることです。いきなり持続的鎮静をしてはいけません。なぜなら、間欠的鎮静なら、患者さんとご家族が最期までコミュニケーションをしっかりと取れるからです。もちろん、苦しみもしっかり取ってあげられます。
間欠的鎮静で症状が取れないときには持続的鎮静を考えますが、私はほとんどの場合、間欠的鎮静のみで症状緩和することができました。しかし、患者さんの苦痛に応じて、持続的鎮静も必要なこともありますので、その方法については知っておかなければいけません。
間欠的鎮静、持続的鎮静について、詳しくは別の記事でお話しています。
呼吸困難症状のケア
最後に終末期の呼吸困難の症状に対するケアのポイントについてお話します。
まずは、部屋の温度を下げることです。周りの人が少し寒いと感じるくらいが患者さんにはちょうど良いのです。私は冬でも冷房を希望された患者さんをみたことがあります。
また、風を顔にかけてあげると患者さんは楽だと感じるようです。うちわで扇ぐと、扇風機よりも苦痛が和らいだという論文を私は読んだことがあります。また、酸素投与は必ずしも必要がないようです。
終末期後期には、指先の酸素飽和度の測定も臨床的にはほぼ意味がないように私には思えます。患者さんの表情、呼吸数や脈拍数など状態の観察が重要なのです。
以上、がん終末期の呼吸困難の症状緩和について、そのポイントを中心に話してきました。
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