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【花咲がん】進行乳がんによる悪臭に対するケアを詳しく説明します【患】#146

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「必ず改善できる!乳がんの悪臭」です。今日は乳がんの患者さんにお話します。

動画はこちらになります。

あなたは花咲がんという言葉を知っていますか?

乳がんが進行して皮膚に飛び出すと、花が咲いたようになるのでこのように呼ばれますが、決してきれいなものでありません。逆にそのままにしておくと、痛みや出血はもちろん悪臭が発生し、とてもつらいものになります。しかし、きちんとした治療・ケア行うと、つらい症状は改善できます。

今日は、この花咲がんの悪臭を取り去る方法についてお話します。

この記事を見て、もしたとえ自分が花咲がんになったとしても、においなどのつらい症状は必ず取れることを知り、安心していただけたら嬉しいです。ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


乳がんの悪臭は必ず改善できる!

最近、緩和ケア外来を受診した乳がんの患者さんがいました。彼女は、乳がんが局所再発して、その治療中でした。そして皮膚転移がどんどん大きくなり、痛みが出てきたので私の外来に来たのでした。

彼女は不安そうな表情で、私に言ってきました。

「ネットで調べて花咲がんのことを知りました。がんが皮膚に飛び出すと、悪臭がひどくなると聞きますが、私もそうなるのでしょうか。」

私は答えました。

「確かに花咲がんは放っておくと悪臭がひどく、生活の質をとても低下させます。私がホスピス医をはじめた20年前くらいは、とてもつらい症状のひとつでした。しかし、安心してください。においは、今では薬とケアで取り去ることができますよ。」

とお伝えすると、彼女はとても安心した表情になりました。

乳がんが皮膚に浸潤してきた、いわゆる花咲がんの悪臭は、患者さん・ご家族にとって、とてもつらい症状です。しかし、悪臭は必ず改善できます。悪臭を取り去ることで、生活の質を高め、自分らしい生活を送ることは十分可能なのです。

それでは、その具体的な治療・ケアについてお話します。


具体的な悪臭の改善法

患者さん自身が、受ける処置を具体的に知っておくことは重要です。なぜなら、自分が悪臭に悩む状況になった時に、慌てずに済み、冷静になれるからです。けれど、医師の中にもまだこれらの方法を知らない人もいますので、もしあなたの主治医がこの処置を知らない場合、ぜひ教えてあげてください。

それでは、私たちが行っている悪臭に対する治療・ケアについて、具体的に6つお話したいと思います。

①処置前の鎮痛
処置は傷を直接触るので、多くの場合、とても痛いです。その予防のために、事前に鎮痛薬が必要です。

私は、ナルラピド®などの医療用麻薬の速放製剤を使ってもらいます。創部の処置をする30分前に、内服をしてください。薬の効果が出るころに処置をすると、痛みが軽減されます。

②洗浄
次に、石鹸を使い、シャワーなどで洗浄します。水道水でしっかり洗浄しますが、生理的食塩水を使用しても良いと思います。生理食塩水の方が刺激が少ないからです。

③除菌
その後、抗菌薬であるメトロニダゾール軟膏やダラシン軟膏を使い、除菌します。花咲がんの悪臭は、腫瘍が壊死したところに、皮膚にいる好気性菌や嫌気性菌が増殖して発せられる物質がにおいの原因です。

メトロニダゾールや、ダラシンはそれらを殺菌する効果のある抗菌薬なので、臭い除去にとても効果があります。コツはたっぷり軟膏を塗ることです。

市販の軟膏は高価ですが、安価なものを簡単に作れますので、薬剤師に作ってもらったものを使用している施設も多いです。効果はどちらも同じです。

④出血・浸出液防止
出血を止め、浸出液による汚染や悪臭を取るために、モーズ軟膏という薬を使います。モーズ軟膏は、主成分の塩化亜鉛がたんぱく変性を起こすことで、出血や浸出液を固まらせます。

ただし、モーズ軟膏は皮膚刺激や炎症を起こすので、それで痛みが強くなるような場合は、使用を考慮してください。

⑤創傷皮膜剤の選択
出血や浸出液が多い場合、吸収力の強い皮膜材や吸収パッドなどを上からかぶせます。そしてその上に、活性炭シートやカテキン含有シートなどの、消臭効果のあるシートを巻きます。

⑥パウチングで蓋をする
最後にストマパウチを装着し蓋をして処置は完了です。

ストマとは、手術によっておなかに新しく作られた、便や尿の排泄の出口のことを言います。ストマパウチは、その出口につけて、排泄物を入れる袋のことです。花咲がんの処置にストマパウチを使う理由は浸出液が出てくるのを防ぐためです。

花咲がんの悪臭の処置のために、これらを毎日行います。

浸出液が多かったり、出血している時、1回の処置では臭いが取れない時などは、1日2回朝夕行います。このような時でも、だいたい2週間くらいすると臭いは改善して、1日1回でがんの悪臭はほとんど感じなくなります。

これらのケアは外来でも可能で、抗がん剤治療も併用しながらでもできます。以上、具体的な処置の方法についてお話しました。ぜひ参考になさってください。


花咲がん:私の印象的な話

今から私が経験した花咲がんの印象的な患者さんのケースをお話します。

肺転移と骨転移がある、78歳の乳がん患者さんが、痛みと呼吸苦の緩和のためにホスピスに入院してきました。

症状緩和ができた後は、彼女は家に帰る希望を持っていました。しかし、症状緩和ができて、家に帰る準備をしていた矢先でした。皮膚転移が進行し、がんが急激に大きくなり皮膚に突出してきて、においも生じてきたのです。

花咲がんになったのでした。

皮膚の痛み、出血がひどくなりました。出血、痛みのケアは、比較的早くできましたが、においはそうはいかなかったのです。

花咲がんの臭いはとても強烈で、病室の外にまで漏れるほどでした。娘さんは、泣きながら私に相談してきました。

「母は早く家に帰りたいと言っています。でもうちの家族がうんと言ってくれないのです。あの臭いが家に充満することは耐えられないと、夫も子ども達も言うのです。親不孝だとわかっていても、私もあの臭いに耐えられる自信がありません。もともと母には帰ってきてほしいとみんな言っていたのに、こんなことになってしまって本当につらいです。先生、何とかなりませんか。」

ご家族もそうですが、当然、患者さんご本人もとてもショックを受けていました。
乳房から悪臭がしているのです。女性ならショックを受けて当然です。家にも帰れないと、毎日泣く日々が続きました。

当時、私はがんの悪臭を改善する術を知りませんでした。患者さんやご家族の苦しみを取ってあげられないので本当に困っていました。

そんなある日、薬剤師が論文からある方法を探し出してきました。それがメトロニダゾール軟膏でした。「先生!私がそれを作りますので、使ってみてください」と言われ、使ってみました。

すると、なんと臭いが全くしなくなったのです!

みんな大喜びしたのは言うまでもありません。患者さんは悪臭の改善ができ、娘さんの家に帰ることができました。

このように、がんの悪臭は改善できます。昔の私のようにその方法を知らない医師もいるかもしれません。そんな時は、ぜひあなたが教えてあげてくださいね。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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